ねえ、どこいくん?
ああ?そら、海にきまっとるだろが。ほら、しっかりつかまり。く下りやで。
うん。
リオナとアツシを乗せた自転車は、海へと続く道路を滑っていく。海の匂いが鼻をつく。リオナにとって久しぶりの海だった。3年振りくらいだろうか、記憶がはっきりしない。

 リオナは現在高校3年生。私立の高校に通っている。偏差値は県内でも最悪の部類に入る。生徒はほぼみんな髪を染め、誰一人としてきちんと制服を来ている人はいない。授業も授業じゃない。先生などいないに等しい。ただ体育は男子ががんばる。そんな学校だった。
 今日は夏も近づく水曜日。もちろん、学校はある。しかし2人はこっそり抜け出してきた。海に行きたいなあ。リオナがアツシにそう呟いたのは、2時間目の授業が始まった直後だった。国語の教科書に載った小説が、海が舞台のものだった。数少ない挿し絵は、青く広がる海と空だ。よし、じゃあ行こう、とアツシがリオナの手を引く。戸惑うリオナ。入学して一度も学校を休んだことはなかった。それでなんとか進学を許されてきた。ずる休みは余りしたくなかった。でもアツシと2人で海に行く。嬉しいことだった。2人は両思いの関係だった。まだ寝たことはないが、キスは済ませていた。
うん、行く。リオナも席を立つ。周りの男子にはやされながら、教室を後にする。先生はなにも言わない。       

 靴箱で上履きから革靴に履き替える。どちらも踵はぺちゃんこ。ルーズソックスを履いた足には、踵の部分は煩わしくて仕方ない。
靴を履き替えると、アツシが自転車を持ってきた。さ、のりいや。これがはやいやろ。リオナにとって、2人乗りは日常のこと。警察に止められたことは一度もない。見逃してくれていた。アツシの後ろにまたがり、アツシに抱きつく。短くしたスカートから、ふとももが覗く。また太ったかな?パンツも、端から見ると丸見え。でも気にならない。早く海を見たい。

よし、大丈夫か?行くで。
うん。気いつけてな。
もちろんや。
アツシはペダルをこぎだした。そろそろと自転車が動き出す。海までは学校前の道をずって行けばいい。相当遠いが、アツシなら行けると、リオナは信じていた。

つづく