階段を降りると、玄関に今朝の女の子がいるのが見えた。走ってその子のもとへ向かう。靴下には表にも汚れがつき、親指の部分には穴が空いていた。
「あ、あの…。」
レナを見つけると、女の子は申し訳なさそうにスリッパを差し出した。まだ靴は履いておらず、白い靴下だけで立っていた。汚れのない真っ白な靴下。一緒に並ぶと、レナの靴下の汚れがより際立つ。
「スリッパ、お持ちじゃあなかったんですか?」
レナの靴下の惨状に目を丸くして、女の子が聞く。
「ああ、うん、持ってたと思うんだけど、なかったわ。」
「ああ、あたし、一人だけスリッパ履いて…。ほんとうに申し訳ないです。」
「いいのよ、私が自分で言い出したんだから。気にしないで。」
努めて明るく話す。
「そう、ですか…。」
「結果は、どう?できた?」
「ううん、まあまあ、かな。」
「そ。じゃあ、私、帰るわね。もう忘れちゃだめよ。」
「はい、わかりました。ほんとうにありがとうございました。あ、これを…。」
差し出されたのは、小さな紙袋。
「いいの?」
「はい。」
「じゃあありがたくいただきます。じゃあね。」
「失礼します。」

 それから汚れきった靴下でスニーカーを履き、レナはバスに乗った。疲れがどっとでてきた。
「あ、そうだ。」
受け取った紙袋を開ける。小さく包まれたクッキーが入っていた。
「かわいいんだから。」
一つ取り出し、食べてみる。甘い。
「おいしい。」
こういう人助けもいいものだなと、改めて思った。

おわり