乗客が降りていくにつれ、ぎゅうぎゅう状態ではなくなった。ほっとしたとき、ハルカは違和感を覚えた。足が…。
その時気づいた。ハルカは両足の靴を履いていなかったのである。既にバスにのって20分が経過した頃であった。時刻は9時30分。
なんで?とクエスチョンマークで頭が一杯になりながらも、どうしようと焦りが募った。いつの間に脱げたの?全く気づかなかった。バスに乗るまでは履いていたのに…。まさか乗るときに脱げて、そのままバス停に…?冷や汗がでてくる。既に汗をびっしょりかいていて、判別はつかなかったが。
いや、バスの中にある。信じよう、と少ない期待に賭けて、空いていたいちばん後ろの座席につま先立ちで移動し腰掛ける。まだ立っている人は大勢いて、車内を見渡すことはできない。
座って気になって靴下の裏を見てみると、足先からかかとの、地面についた箇所は茶色く汚れがついて、甲やくるぶし、ふくらはぎやすねのところ、端から見えるところにも、黒や茶色の汚れが着いていた。やけに足を踏まれて痛かったのはこのせいだったのだ。なんでもっと早く気づかなかったのだろう。あらためて後悔する。
それからさらに何人も降りていき、立っている人はいなくなった。車内が見渡せる。床にハルカの靴はなかった。
「ああ、もう、どうしよう…。」
ハルカは頭を抱えてしまった。
間もなく降りるバス停だ。開いた前の方の座席に、信号停車中にこそこそ移動したのだが、辺りに靴はなかった。両足とも、あそこに脱げたままなのだ。今も残されているだろうか、いや、ないだろう。いい人なら、駅員さんに持っていってくれるかな…。アナウンスがなる。次が自分の降りるバス停。どうしようかひたすら迷ったが、どうしようもない。乗客や運転手さんに助けを求めても、その人たちが困るだけだ。もし私がそんなこと言われても、なにもできないだろう。諦めよう。それに、疲れた。今から駅に戻っても、帰ってくるためのバスがいなくなってしまう。もう時刻は10時10分だ。最終バスは11時1分。どう考えても間に合わない。
つづく