依頼を受けて、部品もどんどん支給していただきながら作った伊藤喜多男氏のアンプです。

 

もう5年前になります。私がアメブロに本格的に記事を書き始めたのが2020年の1月からなので2019年完成で、当時はココログにその製作記事を連載しました。

 

お安い御用ですとひき受けたのですが、いやいや手を焼きましたね。このアンプ。

 

 

始めに、このアンプ記事の内部写真を見ながら、ベルデンの線材を伊藤氏のようにくねらせながら半田付けしていくのに苦労しました。

 そのうち、初段から直結で位相反転段のグリッドに入っている部分で少し違和感を感じました。MT管ソケット周辺は入力コネクタやVRで立て込んでいたので、そのグリッド端子につながる抵抗・コンデンサを、遠く離れた端子(ラグストリップ)に実装し、そこまで配線コードをシールドで長々と引回してあるのです。

下の写真で緑で囲んだ部分2か所です。出力管の間を通って、出力トランスのところまできています。

 

 

人差し指が指す、2か所のラグストリップ。この2つが問題の端子です。

 

最初はシールド線を使わず、通常のコードを使いました。それで配線を完了させ、各部の電圧を測定しOKなので、SP端子の残留ノイズを図るとなんと20mV程度の大きなノイズが発生しています。

 

私は慌てて、依頼者の方に記事通りに作ったけどすごいノイズが発生していますと連絡を取ったのですが、伝えられた方も困惑されますよね。訳が分かりませんし。あんたの失敗だろうと普通なら考えますよね。

 

どうにかしてノイズを抑えなければならないと、頭がおかしくなりそうでしたが、仮説を立てて対策を取りました。

やはり長々と引き回している、グリッドにつながる部分が寄生発振を起こしているのだろうと考え、このラグストリップに実装されているパーツのいくつかを、MT管のソケット近くに移動させました。するとノイズは4mV程度に減ったので、やはりこれが原因だとわかりました。次にこのラグストリップを2本とも撤去。全てのパーツを前段のMTソケット廻りに移したら、ノイズは1.0mVを切って普通のアンプになりました。本当にここまでノイズを減らすのに苦労しました。

 

よくよく記事を見ると、伊藤氏自身の言葉でミスがあったことが書いてあります。

 

 

この発振をシールド線である程度のノイズに抑え込んだのは、やはりアンプの神様だからでしょう。

それでも、ノイズは3mV、4.4mVです。多極管PPは通常1.0mV以下になります。

 

どうも、この伊藤氏のミスには原因らしいものがあって、まずPPアンプをモノラルで組んでいます。この時はラグストリップを使ってカッコよく内部配線も決まっていました。モノラルの場合は全然おかしな配線ではありませんでした。次にPPにするにあたって、伊藤氏はモノラルの内部配線をそのまま横に並べてしまって、気が付けばグリッド回路を延々と引き回す格好になってしまったようです。

 実のところ伊藤氏は部品をソケット周辺におくスペースもないため、少々問題があってもシールド線で対応する自信があったのでしょう。

 

下が私が組み立てたアンプです。

 

 

そして伊藤氏のアンプ。

 

私は今でもときどき、伊藤氏の記事そのまま作られたアンプがネットオークションで出品されているのを見つけると、質問をしています。ノイズは出ませんかと。出品者は慌てたように、出ますと回答されます。3mV程度のノイズなら80dB 程度の能率のSPならまずノイズは聴こえません。但しアルテックなどの100dB超のユニットなら結構大きな音で鳴ります。

 

この伊藤氏の記事はバイブル的な扱いで、現在もときどきアンプ製作の本に繰り返し掲載されますが、私はこの欠陥アンプの記事を見るとなんだか複雑な気持ちになるのです。