昨年2023年8月に、自作アンプの世界に偉大なる貢献をされたぺるけこと木村哲氏が亡くなられました。
ALSと言う難病を患い、病床から自身のHPに自作相談で訪問してくる方々の相手をされていました。
「情熱の真空管」というHPは今も公開されており、その深くて、豊かな内容を我々は見ることができます。
私が40才前後の頃、NiftyのFjazzという会議室に、アンプ自作者が集い意見交換をしていました。
ぺるけさんがやはり中心で、ソフトンを主宰されている善本さん、トランス自作の大ベテランのK.Ameさんや関西のメンバーもいて、そうそうたるメンバーが集っていました。
1998年だったか、会議室で大オフ会をやろうという話で盛り上がり、奈良に住まわれていた会員さんの尽力で、ついに奈良県の町でオフ会が実現されました。
私は関西勢でしたが、遠く関東からもぺるけさんやK.ameさんたちお仲間が、車に同乗され参加されました。
何台かの自作アンプが紹介され、私も自作アンプの解説をしたものです。
その時の写真です。後列向かって右から3番目がぺるけさん。私はその前に座っています。
そのときぺるけさんが、差動アンプのシャーシ裏をひっくり返して床に置き、みんなに開示してくれました。
その音は今でもよく覚えています。
小出力時でも押し出しの強い、元気な音でした。定位は、PPアンプでありながらシングルアンプのようにセンターに展開される印象でした。
実は差動アンプの音は、後にも先にもこの時のぺるけさんのオリジナルアンプの音しか聴いたことがありません。
私自身は差動アンプの習作はしませんでした。それはただ私の琴線に触れなかったからだけの理由でした。
Fjazzの会議室で、ときどきぺるけさんがみんなに質問を出していました。あるとき、「アンプの検査の方法」を皆に尋ねたことがあります。
各自回答していました。私は「ある部分の配線が終わったらその都度、その段階で電源を入れてOKかどうかを確認している。もしそのとき不具合が見つかったら、今配線した部分に不具合の原因があるので特定しやすいから」と回答しました。
ぺるけさんは皆の回答を受けて、正解と言うか自身の検査方法を開示しませんでした。
何冊か書籍を著したぺるけさんですが、「トラブルシューティング」という本の中で、「アンプの検査は、段階ごとに確認するのが間違いない」と書かれていました。なんだよー、という気になりましたが、まあたどり着くところはそれが正道だというところなのでしょうか。
ほどなくして、私は神戸市から仕事の都合で福岡転勤となり、業務多忙でFjazzへの参加もやめました。お仲間からなんで最近は参加しないんだとの電話もいただきましたが、本当に子育てと仕事でアンプ製作どころではなくなってしまったのでした。
この奈良県でのオフ会の6年後、ソフトン善本さん、ぺるけさんたち主催で「動物園試聴会」というのを開催されています。
私はこの時期、脱サラして自営業となり遮二無二働いていたので、オフ会参加どころではありませんでした。しかしながら関東出張のときに、善本さんのご自宅にパーツを分けてもらいがてらお邪魔したことがあります。
それから時がたち、子育てが終わりアンプ製作も再開。私も前期高齢者となり孫まで生まれました。
ぺるけさんの残した「情熱の真空管アンプ」は、色あせることなくアンプ自作のバイブルとなりました。この本を理解すればアンプの中身はわかるよ、というところまで理論的に体系立てて丁寧に書いてあります。
実は浅野勇氏の「魅惑の真空管アンプ」を読んでも、ぺるけさんの書いた内容は書かれていません。何となく自力で自作できるようになった方が浅野氏の本を読むという流れだったのでしょう。その前段階の「良く知られていない空白の知識」を本にまとめたぺるけさんの功績は絶大です。
そうそう思いだしました。奈良のオフ会後、会議室に私は川柳を投稿しました。
「差動へ 差動へと 草木もなびく」
この句に対してぺるけさんは、「すごい、いやー敬服しますね」とおっしゃってくださいました。私は少しゴマすりの意味も含めていたのですが。
ぺるけさんと一時的にでも交流できて幸せだったと思います。今も天国で本を書こうと頑張っていらっしゃるかもしれません。いやいや大ヒットは1発目だけかもしれませんね。