過去にCR型、マッキン型、今回のマランツ型、クオード型とプリアンプを作ってきました。合計7台程度。
肝心な自分が一番気に入っているのはどのタイプか、これが決まっていません。
実はどれも気に入ったところがあって、ハッキリと結論を出せません。
クオード型は本当に利得が低く、セレクターでCDと切り替えると音量が半分もないような印象です。もちろんSNも低く、ハイファイマニアからは落第の烙印を押されそうです。ところがチャームポイントがあります。音が懐かしいのです。
子供の頃聴いたラジオの音?なんだか、とげとげしさは一切なくて、スーッと耳に入ります。
この音にオーディオマニアはNGを出すかもしれませんが、音楽マニアはどうでしょう。おそらくNG判定を下す方は少ないと想像します。ユーザー範囲は狭くなるが、そこそこファンがいるという構図です。
三浦軍志さんという、九州の自作派の数寄者は、クオード22型のプリを20台、いろんなパターンで製作されました。このプリに人生を捧げた方なのです。それほど魅力がある音なのでしょう。
CR型は、何度も説明するようにSN比や広域の周波数特性では、スタートからNF型に負けています。押し出しも弱く感じます。しかしながら音の鮮度やバランス、柔らかさではNF型に勝っているところもあります。昔ラジオ会館に三栄無線というキットメーカーがありました。そこのプリアンプのラインナップにCR型SRPPのキットがありました。キャッチコピーは「マッキンだ、マランツだと騒ぐ前に弊社CR型プリの音を聴いてください」という内容でした。
今回、手を加えて完成させたCR型プリは、過去の三栄のプリが「イコライザ後に、ラインアンプをつなげて完結」という構成に対して、ラインアンプにトーンコントロールも兼ね備えた形にしました。自分なりには、なかなかのパフォーマンスだと思いますが、NF派の方々はどう判定するでしょう。
おもしろい逸話があります。
その昔東京にヤマハだかの音響施設があり、そこの顧問がオーディオ界の重鎮、池田圭氏でした。もう60年程度前の話です。若かりし上杉佳郎氏が自社のNF型プリをヤマハに納めるところまで行ったのですが、池田圭氏はイコライザはCR型でなければ認めない、という判断を下しました。上杉氏からすれば冗談じゃない、特定の個人の主張でわが社の製品が購入してもらえないなんて理不尽だと考えたのでしょう。彼はヤマハのプリアンプを預かり帰って、イコライザ特性を調べて、自社プリアンプのイコライザカーブを細かく調整して、忠実にヤマハのそれに合わせました。そしてそのアンプを持ち込んで、池田氏の判断結果を待ったのでした。池田氏の最終判断はNGでした。理由はCR型でないから、というものでした。
私は両方の気持ちが分かります。「何を取るべきか」の判断の相違です。CR型は色々な歴史があります。
次にマッキントッシュ型。基本は例のイコライザ回路です。追従して製作しても、よほどの下手な配線をしない限りは安定動作します。大したものです。不安定要素の多いマランツ#7からみれば、製作者から見ても、ユーザーサイドから見てもその安定度は魅力です。そしてその音は、突き抜けていなく、プアーでもなく、ソースの音をしっかり再現します。デペンダビリティ、リライアビリティー(信頼性)という側面からみると、多くのオーディオファイルからの支持を得ていると思います。自作してその安定性とパフォーマンスの兼ね合いに納得しました。上杉佳郎氏はマッキン型のファンでした。
そしてマランツ#7。通常の機械とは次元の違う再生音が実現しました。信じられません。それでもこの音を心底好きで堪能されているかたは、そう多くはないと思います。ではだれがこのアンプ常用しているのかって?
その回答は難しいのですが、あえて言ってしまえば、この音の虜になってしまった方々でしょうか。これしか認めないと主張される方なのかもしれません。結果的に世の中に1万3千台程度の台数しか流布しなかったこと。いろんなエピソードが広がり、音を聴いたことがない人までもが集めた情報だけで蘊蓄を垂れる、といった状態になっているようです。
これって特権階級だけが楽しむ秘密倶楽部の愉悦・娯楽になっている感さえあります。3百万円でオリジナルを入手したんだけど以前からあるものに比べて少し・・・、などのやりとり。あえて言えばオカルトのレベル寸前かもしれません。ここはこのネジでなければだめよ、とか。
私はマランツ#7の性能を否定するものではありません。今回製作してみて、信号の流れやパーツの配置、配線テクニックをおぼろげながら習得することができました。更にはパフォーマンスのレベルの高さも実感しました。
ただしこのプリのファンのかたには、特にこのプリしか聴いたことのない方には、落ち着いて他のプリアンプの音も、幅広く聴いて欲しいのです。なにがしかの新たな見解が登場すかもしれません。
そうして前振りが長くなりましたが、私自身が次にどんなプリアンプを作ればよいのか、あるいは作るべきなのか、というテーマです。
今の勢いで、マランツ#7のコピーを自分なりにカスタマイズして完成させたいとも考えていますし、いやいやマランツから離れてマッキン型を再度組んで見たいとも考えているのです。自分独自のデザインも加味して。
プリアンプは難しいと考えている方も多いと思いますが、パワーアンプが作れる方なら大丈夫です。マランツ7のようにパーツを多くすることもありません。通常のトーンコントロール回路でVRで可変させれば部品も少なくて済みます。
もちろんプリアンプはケースに入って、前面パネルで操作するタイプのものです。アルミ弁当箱に組んでパワーアンプと見た目変わらなければ、色気が減退するかもしれません。
皆様、ケースに入ったプリアンプも作ってみましょう。