この12年前から、ステレオセットを3WAYマルチアンプシステムにしている。
詳しくない方への説明をしますと、3WAYスピーカーというものがあります。一つのボックス、かっこよく言うとキャビネットに3種のスピーカーユニットが取り付けてあって、3種は高・中・低の帯域をそれぞれ受け持っています。
この3種のユニットは、クロスオーバーネットワーク(以降LCネットワークと呼ぶ)という、コイルとコンデンサーと抵抗で構成された機器を使って各帯域に分割されています。
スピーカーキャビネットには、1対のSPケーブルが接続され、キャビの中でクロスオーバーネットワークに接続されているのです。
これが通常のシステムで仮に非マルチアンプシステムと呼びましょうか。
マルチアンプシステムとは、LCネットワークの代わりにチャンネルデバイダーという電気機器を使います。プリアンプから出た信号をチャンネルデバイダーに入力し、3WAYの場合は高・中・低に信号を3分割して、3種の信号を取り出します。次にそれらの信号を、高・中・低それぞれのパワーアンプを通して、各帯域のSPユニットを鳴らします。
なのでマルチアンプは非マルチに対して、チャンデバやパワーアンプなど多くの機器が必要になります。お金もかかるし、電気代ももちろんかかります。なのになぜマルチアンプに取り組むのか。
それは音がいいからです。詳しく言えば、非マルチは1台のパワーアンプとLCネットワークでの帯域分割になりますので、各周波数帯の音の間で混変調歪が発生し、厳密にいえば音が混濁してしまうのです。これに気が付かない人もいますが。
マルチはこの混変調歪が少なく、とても鮮度の高い、情報量の多い音で鳴ります。なのでハイエンドのマニアの多くが3WAY(あるいはそれ以上の)マルチアンプにハマっているのです。
自分で各帯域の音量や、SPユニットの位置を調整して、ぴたっと決まった時の快感は得難いものがあります。
さて、その暮らしぶりから実質ハイエンドでもない私は、高価な海外製アンプを多数準備することは不可能です。なのでプリアンプ、チャンネルデバイダー、パワーアンプ3台すべてを真空管で自作しました。
このセットで音楽を聴いている瞬間は、合計40本の真空管のヒーターが灯っています。夏は大変です。
尚且つご覧のように、何とか安く手に入れたアルテックのビンテーユニットはいずれも能率が100dB程度もあり、少しのノイズでも耳についてしまいます。
ノイズはチリチリとか、ジリジリなどの音で、ほとんどが球の劣化、またはソケットや端子類の接触不良が原因なのです。
40本も球があると、どの球が原因なのか、慣れないと特定するのに時間がかかります。整流管でないことはわかるのですが。
コツをいいますと、まず左右どちらなのかを特定。これは簡単ですね。
次に各SPに耳をあてて、どれから出ているのかを特定します。慣れればウーハーかドライバーかはノイズの音で分かります。
このように、「中音パワーアンプの右側」と分かれば、そのアンプの初段から順に球の足とソケットをアルコールやオイルで洗浄していきます。球の足は綿棒、ソケットはつまようじを使います。これで収まればその球とソケットが原因だということです。
それをやっても、ノイズが止まらなければ、球自体が悪くなっているということで、交換です。悪いことに私は新品の球を買うことがなく、中古専門なのです。私はこの作業をノイズ発見から10分以内で終了できるようになりました。
このように球のマルチはノイズとの闘いに明け暮れています。1週間ノイズなしに鳴り続けることはありません。それでもなぜマルチを続けるのか、やはり音がいいからです。非マルチで聞こえない音が聴こえるのです。