スイスの大学に留学する人のために 5.スイス人の気質 | 生物学者ママの実験的スイス生活

生物学者ママの実験的スイス生活

スイスドイツ語圏最大の都市で、仕事と子育てに奮闘中の研究者ワーママ。人生の3分の1以上をすでにスイスで過ごし、すっかり現地に同化中。
夫ともはやチビではない息子たちとの家族4人の日々の生活を、生物学者としての視点で(独断と偏見も交えつつ)考察します。

スイスは地方分権が進んでおり、中央集権的であった試しはかつて全くない。

そのためか、地域によって人の気質は様々である。

田舎の方は日本の田舎と同じような感じ、保守的な価値観を持つ人がほとんどなイメージである。

ハイジのおんじは、その代表格だろう、今でも似たような感じの人はいると思う。

もちろん、年代によっても傾向が違い、若い世代ほどオープンであるが、まれにどう育ったのか超保守的な若者もいるので驚く。

 

都市部では多様な人種が混ざり合っており、高齢でも比較的さばけた人が多いとは思う。

チューリヒなどはその代表格で、多様な文化に対してオープン、おそらくスイスとその周辺国の中でも、ずば抜けて国際的だと思う。

英語を話す人も多い、というか概ね50歳以下の年代では全く話せない人のほうが珍しい。

 
とくに高齢の人の中には、仲間とみなしてもらえるまで時間がかかる人がいる。
外国人嫌いだったりするとどうにもならないのだが、そのような人の大半は単に見知らぬ東洋人相手に緊張しているだけという場合がある。
このような場合、打ち解けてもらうにはちょっと時間がかかる。
私の場合は、最初にいたキャンパスの食堂のレジのおばちゃんがこういうタイプだった。
最初は挨拶してもろくに反応もしてもらえず心が挫けそうになったが、諦めずに毎日ちゃんと挨拶をしていた。
3ヶ月ほど経った頃だったろうか、少しずつ打ち解けてくれるようになった。ついに仲間(同じ場所で働いている人間)と認識してもらえたのだろう。
その後は非常に優しく、気軽に話しかけてくれるようになり(ただしドイツ語)、別キャンパスに異動したあともたまにそこに行くと、新しいキャンパスはどう、元気?などと気軽に話してくれた。
うちの学科の事務の人にも一人、たぶんあまり英語が得意でないせいで打ち解けてくれるのに時間がかかった人がいるが、もう10年、今ではとても良くしてくれる。
 
このように、ちょっと年上の人の場合は、無愛想なのではなく緊張しているだけの可能性があるので、(あからさまに理由もなく敵意を示してくるようなおかしい人は別として)根気よく挨拶を続けるのは重要である。
 
チューリヒでは様々な文化や慣習が混じり合い共存しつつも、社会的な規範というものは厳然として存在しており、それを守らない人には厳しい視線が向けられる。
だがこの規範は、大半の日本人の常識とはよく合致しており、常識的な日本人が普通に暮らしていてトラブルを起こすことはほとんどない。
ヨーロッパ社会ではもしかしたら少数派かもしれない、他者への気配り、社会の規律を乱さない、というような価値観である。
私もあなたもお互いにきちんと決まりを守って暮せば、みんな快適で幸せ、という古き良き共同体的な考え方がまだ生きている。
スイスのインフラはよく整っており、しかもきちんと運営されているのは、みんなが(まだ)このような考えを共有しているからだろう。

 

一方、国外からやってきたいわゆる移民と呼ばれる人たち、特に1世代目は文化や価値観をそのまま持ち込んでおり、かならずしもこの考え方は通用しない。

そのためか、彼らの2世代目が対象となる初等義務教育ではドイツ語習得と並んでこのような社会的なルールを守って集団生活をすることに非常に重点が置かれている。

自分の子供達を見るに、この刷り込みはかなり厳密に行われており、きちんと学校に行っていれば真面目なスイス人が一丁上がり!という感じがする。

そういう意味で、ルールを重視する日本の学校とよく似ている。

日本人には非常に暮らしやすい社会であるが、同僚などを見ていると、もっと個人主義の国から来た人にはこのような規制の強い社会は窮屈に感じるようだ。(スペインとかフランスとか)

 

大学の中では外国人も多く、スイス人の中でもオープンな人が集まっている。

学部生でも典型的なスイス人は非常に真面目で、よく勉強していると思う。(遊んでいては卒業できない)

 

また、スイス人はなにか問題が起きたときに、きちんと話し合って解決しようとする傾向が強い。

白黒はっきりつけるというより、双方納得できる落とし所を交渉で見つけ出そうという姿勢が見受けられる。

このときに、声を荒げるような人は相手にしてもらえなくなる、というか声を荒らげたほうが負けであるとみなされがち。

そのような言い争いの場面は、社会のどこであっても(スーパーでもご近所でも大学の会議でも)めったに目にすることはない。

(あったとして、怒鳴っている方はたいてい外国人だ)

なにかトラブルが起きても、冷静に、淡々と対処する方がいい。

クレームを入れるときもしかり、感情的な対応をしたら終わり(負け)であるので、粘り強く交渉すべし。

 

全体的にスイス人のマインドは日本人に近く、考えていることは分かりやすく、マイルドな対人関係を良しとしている。

あくまで平均値の問題だが、ドイツ人ほど押しが強くもなく、フランス人ほど個人主義(という名の自分勝手)でもない(失礼!両国の人)。

ただし、もう一つの側面として、非常にプラグマティックというか自分の利益を重んじる傾向もあり、裏切るとまでは言わないが自分が不利益を被りそうになるとあっさり翻意することもあるので要注意だ。