「母校と近道」 友達と怪獣とアンヌ隊員

私の子供時代、当時は今の様に学校の校庭への出入りが規制されておらず、自校の生徒に限らず誰でも自由に砂場やその他遊具で遊べていたため、天気のいい日の放課後には決まって近隣の人達が公園がわりに利用したり、日曜日などはキャッチボールをする父子や、幼児にも満たない小さい子供を遊ばせるお母さんの姿が見られました。

$思い出

私の母校・荘内小学校  私が入学した時はまだ木造校舎でした! よその学校が鉄筋コンクリートになる中、荘内は少し遅れをとっていたのか ♪荘内がっこうボロ学校 雀がとまればペッチャンコ♪ なんて歌を歌ってたのを覚えてますが、それでも私が卒業する頃にはほぼ現在に近い形になっていたと思います。


そんなのどかな時代の真っ只中、小学校低学年だった私がいつものように学校の角の駄菓子屋でおやつを買っての帰り道、小学校の校庭を斜めに横ぎろうと校庭に足を踏み入れたとき
(駄菓子屋と私の家は学校を挟んで対角線に位置するため、それが最短距離になる)
ブランコのそばに集まる6人ほどの集団と目が合いました。
6人は全員この学校の生徒で4人は女の子(多分6年生)で残り二人が私と同学年の男の子だったため、どちらともなく声をかけ、私は遊び仲間に入りました。

それまで全く一緒に遊んだことのない相手にもかかわらず、不思議なもので遊び始めると初めて話す6年生の女の子も古くから知ってる子のような感覚で何の違和感もなく溶け込め、滑り台からそれぞれにパッチン(岡山でメンコの事)を滑らせて誰がより遠くまで行くか競ったり、あらかじめ範囲を決めておいて、一人が宝物(ビー玉やお手玉など)を木の根元や校舎の周りに隠し、隠した人が出すヒントをもとに他の人が探し当てる宝探しゲームなどなど、今の様に高額な玩具などなくても次から次へと遊びのアイデアは尽きることなく、時間を忘れ飽きることなく遊びました。

後から友達に聞いた話では、その女の子のうちの一人は成績優秀で有名なうえ運動もでき、クラス委員に何度も選ばれてる人気者だとか、名前は確か・・・・う~ん・・思い出せないんだなこれが /(・▽・;)
ま、そんなことがあって数日後、あの日一緒に遊んだ女の子の一人(クラス委員の子=A子と呼びます)が私のクラスにやってきて言いました!

「今日○○ちゃんが休んだから私がプリントと給食のパンを家まで届けんといけんのよ! けど○○ちゃんの家がよくわからんのん。 ○○ちゃんの家ってズラちゃんちの近くよなぁ?」

「ウンそうじゃ。すぐ近くじゃけん教えてあげるわ!」

そう言うと私はA子ちゃんと落ち合う場所を決め、放課後友達と校庭で遊びながら6年生の授業が終わるのを待っていると、やがてチャイムが鳴りA子ちゃんが現れました。

「ごめんね~!」そう言って駆けてくるA子ちゃんは続けて何か言ってたのですが、そのとき私はA子ちゃんのカバンで揺れてるマスコットに目が行ってしまい、それに気を取られてしまっていた私にはA子ちゃんが何を言ったかは全く聞こえていなかったのです。

A子ちゃんのカバンで揺れてるマスコットはカネゴン(ウルトラQに出てきた怪獣)でした。
$思い出

1966年(昭和41年)に放映された、円谷特技プロダクション制作の特撮 テレビ番組『ウルトラQ』を始めとするウルトラシリーズに登場した架空の怪獣。別名「 コイン怪獣」。お札や硬貨を主食としており、常に食べ続けていないと死んでしまう。

私はそれまで女の子はニャロメとかおばQ、もしくはGサウンズのだれかが好きなくらいで、怪獣を持ってる女の子の姿を見たことが無かったのです。

私がカネゴンに興味を示し話し始めると、な・な・なんと驚いたことにA子ちゃんは私の周りの男の子以上に怪獣や特撮ものに詳しかったのです。

私とA子ちゃんは○○ちゃんにパンを届けると再び学校のブランコに戻り、怪獣や好きなTV番組等々意気投合して話し始めました。

A子ちゃんはほんとくわしかったなぁ、あの怪獣は何トンだとか、弱点はどこどこだとか、私が全く知らない部分をすらすらと話して聞かせてくれました!

やがて話は怪獣からウルトラマン、そしてウルトラセブンへ・・・・!!

しかし私は怪獣の名前こそ知ってはいるものの特徴や得意技などにはまったくもってウトかったのです。
そんな私にA子ちゃんは言いました。

「ズラちゃんは怪獣はあんまり知らんのんじゃなぁ?」

「うん・・・僕はセブンとアンヌ隊員しか見とらんから」

「えっ! アンヌ隊員? アンヌ隊員て一人だけいる女の隊員?」

「うん、そうじゃ。 アンヌ隊員と諸星ダンとセブンだけにしか興味がないんじゃ。」

「ズラちゃん、アンヌ隊員が好きなん?」

A子ちゃんの問いに私の心臓が一瞬ドキンと大きく反応しました!
それでもその時は自分のアンヌ隊員への思いがどういうものなのかがわからず、その時感じたままの答えをしました。

「う~~ん・・・ようわからん。」

「ふ~ん! でもなぁ、もし好きになってもTVの中の人じゃけん、ほんとにはおらん(いない)のよ」

「えっ? おらんてどういう意味? それはアンヌ隊員はほんとにはおらんじゃろうけど、アンヌ隊員役の人はおるが! セブンが始まるとき本当の名前が出るし!」

当時私はアンヌ隊員を演じていた菱見百合子さん(現・ひし美ゆり子さん)のことが気になっていたものの、残念なことに菱見の菱の漢字が読めずにいたのです(笑)

「確かに出るけど、それも本当の名前じゃないんよ。 TVの中の人は本当にはおらんから住所も名前もないし、TVの中の人は芸名って言う嘘の名前なんよ。 それに歌手の人や役者の人だけじゃのうて、ニュースのアナウンサーたちもTVの中だけおる人なんよ、じゃから会いたくても会えんてお婆ちゃんが言っとった!」

「うそ~~!!」

「本当じゃって、うちのおばあちゃんもおじいちゃんもみんな言うとるもん。 ズラちゃんは怪獣やウルトラセブンが本当におると思う?」

「いや思わん! それはTV局が作ったものじゃろう?」

「そうじゃろう、それと一緒よ。 TVで見とる人は全部実在せんの。 あとプロレスで時々血が出るじゃろう? あれも偽物の血なんじゃって。」

A子ちゃんは私にとって衝撃的な言葉を口にしました。

確かに当時はそれに似たような言葉を口にする人が多数いたように思います。
もしかしたら当時の人の少数の人の頭の中には、TVの中にいるひとは現在のCGで作りだされたアイドルのごとく、全てが造り物のように感じられていたのかもしれませんね(笑)

A子ちゃんの言葉に、私は頭のなかで大きな何かがはじけたような感覚に陥りました!

TVの中に居る人は実在しない・・・・もしその言葉をA子ちゃん以外、例えば同級生の男の子などの口から聞いたのであれば笑い飛ばしてたでしょう。

しかし頭がよくて勉強がよくできると評判で、おまけに何度もクラス委員を経験しているA子ちゃんから聞いたために信じ込んでしまったのです。



$思い出

ウルトラセブンの物語に登場して怪獣と戦うウルトラ警備隊。
左上から諸星ダン、彼がウルトラセブンに変身します。 上中央が私の初恋の人、アンヌ隊員。 右上・キリヤマ隊長 下が左からフルハシ隊員・ソガ隊員・アマギ隊員



衝撃だったしすごくショックでした!

そして同時に、さっきA子ちゃんに「アンヌ隊員が好きなん?」と聞かれた時「ようわからん。」と答えた私でしたが「会えない」 「実在しないと」 聞いてから悲しみのようななんとも表現しようのない思いが込み上げ、初めて自分がアンヌ隊員のことが・・・いや正確にはアンヌ隊員を演じてる女性に恋をしている事に気付いたのです!!

私はしばらく何を話していいのかわからなくなっていました・・・が。

“TVに出てる人はTVの中にしかおらん・・・いや、それはおかしい、いくら頭のいいA子ちゃんの言うことでもやっぱりおかしい!”
 
そんな考えが私の頭をよぎり、やがて思いなおしたかのように言いました。

「TVの中の人が実在せんていうのはおかしいよ、だって時々お笑い番組なんかではカメラマンや他の人たちが映るし、カメラで写してるんだからカメラの前には絶対芸能人がおるわけじゃろう?」

「う~ん・・・それはそうかもしれんけど・・・・まあええわ、今はどっちでも! そのうち大人になったらわかるんじゃけん。 それよりズラちゃんさっき言ってたセブンが始まるときに画面に出る名前全部読めるん?」

「う~ん・・・ようわからんけど、諸星ダンは “もりつぎ” なんとかで、フルハシ隊員は“いしいいきち” アマギ隊員が “ふるたにとし”・・・で、あとはようわからん」

「アンヌ隊員は?」

「なんとか百合子!」

「ははは~! なんじゃぁ~、アンヌ隊員が好きなくせに名前知らんの? あれはひしみと読むんよ、最初の字は三菱のひし。 あと諸星ダンとアマギ隊員はあっとると思うけど、フルハシ隊員は違う気がするし、それとソガ隊員はどう読むんじゃろうなぁ・・・あっ、それに隊長も!  私もようわからんからこんどおばあちゃんに聞いとくわ」

「うん!!」

たしか最後にそんな会話を交わし二人は別れました。

しかし、次にA子ちゃんと会った時には他の女の子や私の友達がいたりしてセブンの話にはならず、結局話は中途半端なままでA子ちゃんは卒業して行き、その後は会うこともなく現在を迎えています。

もし今A子ちゃん会ったら、あの時隊員の名前は読み方間を間違っていたし、アンヌ隊員(ひし美ゆり子さん)も実在してて、直接会って乾杯したぞって笑い飛ばしてやれるのに(笑)

白黒TVが一般家庭に普及し、家族団欒には無くてはならないものとなり、それが白黒からカラーに変わリ始めた時代の、何の変哲もないけれど、それでいて心に残る小さな小さな出来事でした。
                  思い出はつづく!!