【空間と時間 88】不確定原理 | 豆打萌ダー子の不老不死プロジェクト

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【空間と時間】

ハイゼンベルクの不確定原理は、

どこから出てきたのか?

 

 

ハイゼンベルクの不確定性原理は、1927年にドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクによって提唱されました。その起源を理解するには、当時の量子力学の発展と、ハイゼンベルク自身の思考過程を辿る必要があります。

 

 

1. 量子力学の誕生と課題:

1920年代初頭、量子力学はまだ黎明期にあり、原子や素粒子の振る舞いを記述するための新しい理論体系が構築されつつありました。ボーアの原子模型は成功を収めたものの、より普遍的な理論の必要性が認識されていました。ド・ブロイの物質波の仮説や、シュレーディンガー方程式の登場など、粒子の波動性という概念が重要な役割を果たすようになっていました。

 

 

2. 行列力学の提唱:

ハイゼンベルクは、1925年にエルヴィン・シュレーディンガーとは独立に、量子力学を記述する新しい数学的枠組みである「行列力学」を提唱しました。これは、物理量を演算子(行列)として扱い、その間の交換関係に注目するものでした。

 

 

3. 位置と運動量の非可換性:

 

行列力学において、粒子の位置を表す演算子 $\hat{x}$ と運動量を表す演算子 $\hat{p}$ は、可換ではありません。つまり、$\hat{x}\hat{p} \neq \hat{p}\hat{x}$ なのです。この非可換性は、両方の物理量を同時に正確に測定することに根本的な限界があることを示唆していました。

具体的には、これらの演算子の交換関係は以下のように表されます。
$$[\hat{x}, \hat{p}] = \hat{x}\hat{p} - \hat{p}\hat{x} = i\hbar$$
ここで、$i$ は虚数単位、$ \hbar $ は換算プランク定数です。この関係式が、不確定性原理の数学的な基礎となります。

 

 

4. ガンマ線顕微鏡の思考実験:

 

ハイゼンベルクは、この非可換性の物理的な意味を明らかにするために、有名な「ガンマ線顕微鏡」の思考実験を考案しました。これは、電子のような微小な粒子の位置を測定しようとする際に、どうしてもその運動量を擾乱してしまうことを示すものです。

  • 位置の測定: 電子の位置を正確に測定するためには、波長の短いガンマ線を照射する必要があります。
  • 運動量の擾乱: 波長の短いガンマ線は、電子と衝突する際に大きな運動量を電子に与え、その結果、電子の運動量は大きく変化してしまいます。

逆に、

電子の運動量の変化を小さく抑えようとして

波長の長いガンマ線を用いると、

位置の測定精度が悪くなります。

 

 

5. 不確定性関係の導出:

 

ハイゼンベルクは、この思考実験を通して、粒子の位置の不確かさ ($\Delta x$) と運動量の不確かさ ($\Delta p$) の間には、以下の関係が常に成り立つことを示しました。
$$\Delta x \Delta p \gtrsim \frac{\hbar}{2}$$

これは、位置と運動量を同時に、任意に高い精度で測定することは原理的に不可能であることを意味しています。どちらかの量をより正確に測定しようとすると、もう一方の量の不確かさが必ず増大するのです。

 

 

6. その後の発展:

ハイゼンベルクが最初に示した不確定性関係は、思考実験に基づいたものでしたが、その後、量子力学の数学的な形式化が進む中で、より厳密な形で導出されるようになりました。特に、波動関数の統計的な解釈と演算子の性質を用いることで、より一般的な不確定性関係が確立されました。

現在では、位置と運動量だけでなく、エネルギーと時間など、特定の物理量の対の間にも同様の不確定性関係が存在することが知られています。

 

 

まとめ:

ハイゼンベルクの不確定性原理は、以下の流れで出てきました。

  1. 量子力学の発展: 原子や素粒子の振る舞いを記述する新しい理論の必要性。
  2. 行列力学の提唱: 物理量を非可換な演算子として扱う数学的枠組み。
  3. 位置と運動量の非可換性: 行列力学における基本的な交換関係。
  4. ガンマ線顕微鏡の思考実験: 位置測定が運動量に与える影響を具体的に示す試み。
  5. 不確定性関係の導出: 位置と運動量の不確かさの間に存在する原理的な限界の定式化。

不確定性原理は、量子力学の根幹をなす重要な概念であり、ミクロな世界の記述における古典物理学との決定的な違いを示すものです。それは、単なる測定技術の限界ではなく、量子そのものが持つ本質的な性質を表していると考えられています。