毎日新聞
「セクストーション(性的脅迫)」と呼ばれる犯罪が目立つようになっている。SNS(ネット交流サービス)を介し、性的な画像や動画を送った相手から脅される手口だ。金品を要求されることもあり、夏休みなどの間に若者の被害が増えるという。その実例が捜査関係者への取材で明らかになった。
始まりは何気ない投稿だった。「暇な人、話そう」。2023年6月、15歳だった男子高校生はインスタグラムにこう打ち込んだ。
少しすると、見知らぬ女性とみられるアカウントから反応があった。メッセージを交換するうちに、性的な内容をやりとりするように。その流れで8月、男子生徒は自らの性的行為を撮影した動画を送った。軽い気持ちだったという。
動画を見た相手の態度は一変した。「これは犯罪だ」と生徒を責め立て、電話で「自分は男だ」と明らかにした。「動画をネットや学校にさらすぞ。もっと見せろ」とたたみかける男性。生徒はインターネット上で動画が拡散されることを恐れ、従うしかなかった。
エスカレートする男性の要求。今度はビデオ通話で性器を映すよう指示してきた。耐えかねた生徒は男性とのやりとりをブロック。連絡を取り合うことはなくなったように思えた。
最初に動画を送ってから2カ月ほどたった頃、生徒が通っている高校に1本の電話が入った。「子どもが忘れ物をしたので、代わってください」。生徒が父親からだと思って電話に出ると、聞き覚えのある男性の声だった。「なんで、ブロックしたんだ」
恐怖に襲われた生徒はこれまでの男性とのやりとりについて、警察に相談した。捜査に乗り出した兵庫県警は24年7月、強要の疑いで男性を逮捕した。
男性はSNSに載っていた生徒の情報から高校を特定し、電話してきたとみられる。男性は「動画や画像を送るよう伝えたことは間違いないが、脅してはいない」と容疑を否認したという。
神戸地検は8月2日、男性を不起訴処分とした。地検はこの理由を明らかにしていないが、ある捜査関係者は「生徒が男性とのやりとりや実際の映像などの客観的な証拠を消してしまったことから、立証が困難だった」と振り返った。
生徒が巻き込まれた手口は「セクストーション」と呼ばれている。英語で「性的な」という意味の「セックス」と、「脅迫・ゆすり」を指す「エクストーション」を組み合わせた造語だ。
「被害者が嫌な思い出を残したくないと思い、やりとりや証拠の画像を消去してしまうことは珍しくない」。性暴力などの被害者を支援するNPO法人「ぱっぷす」(東京)理事長の金尻カズナさんはこう指摘する。
ぱっぷすには24年1~4月、全国からセクストーションに関する被害相談が241件寄せられた。前年の同じ時期よりも90件増。中高生がスマートフォンに触れる機会が多くなる夏休みなどに被害が明らかになる傾向があるという。
SNSを通じた子どもの性被害を防ぐため、23年7月施行の改正刑法では16歳未満にわいせつな映像を送るよう求める「わいせつ映像送信要求罪」が新設された。警察庁によると、23年末までの摘発例は全国で8件にとどまり、緒に就いたばかりだ。
こうした現状について、金尻さんは「要求すること自体が犯罪だとする認識がまだ広がっていない」と分析。ぱっぷすへの相談者は男性が半数を超えており、「男性の場合は性被害だと気づかない場合もある。被害に遭ってしまったら1人で抱え込まず、警察や支援団体を頼ってほしい」と呼びかけている。
【木山友里亜】