ひと
小野寺史宜



柏木聖輔(せいすけ)、大学生。両親を立て続けに亡くし、突然、天涯孤独の身に。大学を退学し、さて、これからどうしようか、と商店街を歩いていたとき、たまたま目についた総菜屋、おかずの田野倉(たのくら)でコロッケを50円に負けてもらう。(本当は120円)財布には55円しか入っていなかったので、残り5円に。(ご縁)そして、勢いで、「働かせてください」と告げ、アルバイトとして働くことになり。。。

一言で言うと、ご縁(5円)で始まってご縁(5円)で終わる物語です。大学生のときの友人、高校生のときの友人、くせ者の親戚、亡くなったお父さんの元職場の人たち、そして田野倉の仲間たち…。お金はなくても、周りの温かい人たちに助けられて、聖輔は成長していきます。というか、聖輔は、もともと、とてもいい人です。(笑)だから、周りには力になってくれる人たちが自然と集まるんですね!

物語は淡々と語られ、普通の人びとの、普通の生活を、特に大きな盛り上がりはなく、でも丁寧に描きます。私たちの生きるこの現実も、特に大きな事件が起こるわけではないので、リアルと言えばリアルです。

わたしは、作者が、最後のこの一言を、聖輔に言わせたいがために、長い長い前置きを、飾らない文体で念入りに描いたのかなー、と想いました。物語が終わったのではなく、これからの始まりを予感させるラストがとても爽やかで良かったです。