本日は、「糖尿病  両立支援コーディネーターに求められる医療知識」についてまとめてみます。

  患者数

 

糖尿病患者は全世界的にもわが国においても年々増加の一途をたどっています。2016(平成28)年に発表 された厚生労働省の国民健康・栄養調査によれば、糖尿病の有病者はさらに増加しており、糖尿病患者1,000 万人、糖尿病予備群も1,000万人であり、計2,000万人とされています。

 

 

糖尿病は、高血糖自体は個々の労働者の業務遂行能力に直接影響を与えることは一般的にありませんが、慢性的な高血糖状態は10年、20年後の 深刻な糖尿病合併症(網膜症、腎症、神経障害)へ進展し、視力障害や人工透析等が業務遂行能力に悪影響を及ぼして就業の継続や復職を難しくしている現状があります。この高血糖の代謝失調の状態は治療にて血糖正常化したのちも、長期に渡り悪影響が残ることが知られており“遺産効果”、“メタボリックメモリー”と呼ば れています。したがって、より早期からの継続した治療が重要となります。

 

  糖尿病


◎WHOにより、「インスリン分泌不全やインスリン抵抗性による、インスリンの作用不足により慢性的な高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」と定義されています。


〇血糖値とは、
血液中のブドウ糖の濃度のことで、血液100㎖中に含まれる㎎数で表し、単位は㎎/dlです。一般的には空腹時で100㎎/dl前後です。

 


 

〇HbA1c(ヘモグロビンA1c)とは、
糖尿病の治療を行う上で、糖尿病の血糖管理状態を反映する指標として最も利用されています。過去1~2か月間の平均血糖値を反映することが分かっています。糖尿病の診断、治療目標の設定、治療効果の判定などに使用されます。

 

 

正常6.2%未満ですが、5.6%以上で糖尿病診断の検査である経口ブドウ糖負荷試験を行うことが推奨されています。6.5%以上で糖尿病型の判定がされますが、診断には高血糖値の証明も必要となります。一般的に慢性合併症予防として7.0%未満が推奨されています。
 

症状

⇒口喝、多飲、多尿、全身倦怠感、体重減少、空腹感、疲れやすさなどがあります。


分類

 

・1型糖尿病自己免疫異常によりインスリンを合成・分泌するランゲルハンス島β細胞が、破壊・消失することによるインスリン分泌欠乏や消失が原因です。若年発症が多く日本人では糖尿病患者の5%未満です。基本的にはインスリン注射療法を一生継続する必要があります。


2型糖尿病-インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因を含む複数の遺伝的因子に、過食・運動不足・肥満・ストレスなどの環境因子および加齢が重なって発症する糖尿病です。いわゆる「生活習慣病」と言われる糖尿病のタイプです。成人での発症が多く、大多数の糖尿病患者がこれに当たる。初期ではインスリンの分泌は比較的保たれ、生活習慣の改善と内服薬にて血糖管理が可能なことが多いのですが、数十年の長い経過ではインスリン分泌が枯渇し、インスリン注射療法を必要とすることがあります。



・妊娠糖尿病妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常で、妊娠中の明らかな糖尿病および糖尿病合併妊娠は含みません。出産後に改めて糖尿病診断基準に基づき再評価します。


・その他の糖尿病肝臓や膵臓の病気に伴う場合、薬剤による場合、特定の遺伝子の異常に伴う場合などの様々な糖尿病があります。

 


合併症


急性低血糖症、異常な高血糖による昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖性昏睡)などがあります。特に意識レベルの低下をきたすような重症の低血糖や高血糖は、治療が遅れると命に関わり、直ちに医療機関への受診が必要です。感染症にも罹りやすくなります。


慢性-糖尿病に特有のもので長時間の高血糖により各組織に慢性の合併症が生じる。糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害があり三大合併症と言われています。長期間の経過で重症化した場合には、視力障害、失明、血液透析導入、足壊疽による下肢切断などに至ります。また、心筋梗塞、脳梗塞、閉そく性動脈硬化症など動脈硬化症の発症リスクが2~3倍程度増加し現役世代での発症も増加します。

 

 

  治療法


食事療法糖尿病治療の基本となります。
 
 一般的に勤労世代で普通の労働作業の方では目標体重当たり30~35kcal/kgが推奨されます。3大栄養素のバランスに関しては意見が分かれておりますが、バランスよく摂取するのが原則です。腎機能障害がある場合は塩分とタンパク質の制限が必要です。
  

運動療法:糖尿病治療の基本となります。

一般的に週150分以上の運動を2日は空けずに行うことが良いとされています。有酸素運動と無酸素運動(筋トレ)の組み合わせが推奨されています。


薬物療法:食事と運動療法で血糖値の管理目標が達成できないときに使用されます。
 
病態に応じて種々の薬剤が選択され、多くで併用療法も行われます。

・内服薬- 現在7種類の経口血糖降下薬が使用されています(下図参照)。  

〈注射薬〉  

作用時間の異なるインスリンが多数あります。また最近はGLP-1製剤が発売され使用患者が増加してきています。インスリンは、患者の状態に合わせ1〜4回/日の自己注射を行うことになります。血糖を下げる効果は非常に高く有用ですが、食事と運動量とのバランスが崩れると低血糖や高血糖のリスクが生じます。また 近年、週1回の内服薬(DPP4阻害薬)やGLP-1製剤注射法がその利便性とアドヒアランスの良さから、就労 糖尿病患者で良く使われるようになっています。
  

  両立支援の留意点


①外来での糖尿病治療継続の目的


「糖尿病」での両立支援では、糖尿病性網膜症による視力低下や糖尿病性腎症による人工血液透析などで休職している患者は復職支援対象となりますが、比較的少数例であり、一般に休職する患者はまれであるため、どちらかと言えば外来での治療継続が支援の主要目的となります。


糖尿病治療中断者の特徴。
・定期通院の自己中断の最大の理由は、仕事の多忙
・受診中断率年約8%男性就労者・若年者・血糖管理不良。過去に受診中断した人の再中断率は高い。


②糖尿病の両立支援上の特性


→生活習慣は患者自身の問題であって企業が何かすることではないとの見方が一般的になっているため、職場において両立の配慮が受けにくい面があります。

 

両立支援の目的は、定期的な外来通院を促し業務多忙等による治療の自己中断を予防する治療継続支援のより良い血糖管理が主目的となります。


③チームでの糖尿病両立支援と糖尿病両立支援手帳


→本人以外に事業場の関係者(事業者、人事労務担当者、上司・同僚、労働組合、産業保健スタッフ等)、医療 機関関係者(主治医、看護師、MSW)、地域の支援機関などが必要に応じてチームとして連携することが重要です。

 

このためにお互いの情報共有が行われている必要があります。この情報交換ツールとして労働者健康安全機構では「就労と糖尿病両立支援手帳」を作成・配布しています。

④両立支援を行うための医療機関での環境整備


院内で両立支援チームを立ち上げ、チームでの支援体制を整えることが、継続した支援活動には必要となります。

 

正式な本業業務の一部として組織的に位置づけることが重要です。患者の支援は両立支援コーディネーターが支援チームを通して情報共有しつつ、主治医を含めたカンファレンスで支援方針、手段などを決定し、患者の状況を確認しながら行います。

⑤医療機関側での両立支援上の配慮


→大多数の職場は産業保健スタッフが不在のため、情報提供書や糖尿病両立支援手帳等の受け取りは非医療職の上司である場合が多いと想定されます。

 

情報提供書や両立支援手帳への記載の用語は平易にするなどして、分かりやすいようにする配慮が必要です。また、特に夜勤、シフト制勤務で不規則な食事の場合の内服・インスリン自己注射の方法・運転業務や危険作業を行っている場合の低血糖リスクの少ない薬物療法の選択などに考慮が必要。そして、就労糖尿病患者本人が主治医の指示等に基づき定期通院すること、きちんと服薬。インスリン自己注射をすること、適切な生活習慣を守ること等、治療や疾病の増悪防止に主体的に取り組むことが重要となります。



⑥職場側での両立支援上の配慮


定期通院のための時間の確保等に対する配慮だけでなく、治療状態や業務遂行能力も踏まえた就業上の措置等が必要になります。

 

糖尿病治療中の就業者は重症慢性合併症進行者では、視力障害や血液透析施行、下肢切断を防ぐため就業場所の変更、労働時間の短縮、深夜勤務の制限等の必要が生じることがあります。インスリン自己注射療法による低血糖の問題も両立支援上大きな課題です。無自覚性低血糖発作のある方は、リスクを伴うため運転業務や危険作業従事は絶対に避けるべきです。
 

  まとめ


本日は、「糖尿病 両立支援コーディネーターに求められる医療知識」についてまとめてみました。

 


「糖尿病」での両立支援では、糖尿病性網膜症による視力低下や糖尿病性腎症による人工血液透析などで休職している患者は復職支援対象となりますが、比較的少数例であり、一般に休職する患者はまれであるため、どちらかと言えば外来での治療継続が支援となります。

 

 

具体的には、定期的な外来通院を促し業務多忙等による治療の自己中断を予防し、より良い血糖管理ができることが重要になりますので、職場には定期通院のための時間確保、治療状態や業務遂行能力も踏まえた就業上の措置等の配慮が必要となります。


その人がその人らしく、よりよく生活していけるように、最適なサポートができるように学び続けます。最後までお読みいただきありがとうございます。参考にしていただければ幸いです。

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≪参考図書≫
・独立行政法人 労働者健康安全機構 
 治療と仕事の両立支援コーディネーターマニュアル