僕にはひとり、理容師をやっている父親がいます。


お調子者で、ダジャレと親父ギャグが大好きで、いつもみんなを「ドキドキ」させてくれます。

僕の実家は、1階がお店で2階が住居です。
お客さんが来ると、2階にピンポ~ン!ピンポ~ン!と合図がきます。
その合図に対し、父はいちいち

「あー、こら、家にお金が無いのが、バレちょるがぁ」
といいます。

「…ん?」

「ビンボ~!ビンボ~!って鳴っちょる。」

そして、ドヤ顔を残して去って行く……。

そんな父です。



先日、3年振りに宮崎へ里帰りして来ました。

久々に会う父…


パワーアップしてました。

最近プードルを飼っているのですが、その犬がピンポ~ンの合図に反応して吠えるのです。

すると父は

「ほら、犬も怒っちょるが」

「……え?」

「家は、貧乏じゃないよ~私、ドル持っちょっとよ~」

「………………え?え?」

「私、プードルやから、プードルのドルよ~」


………とか言うんです…。

最初は、顔を引きつらせながらも笑ってあげていましたが、終始それなので、次第に、ムカつきや苛立ちに変わり

最終的に


「無視をする」

という形になってしまいました。



お構い無しの見境無しです。

もう、知らん!



そんな父には、うんちく大好きの弟がいます。
僕の叔父です。


叔父は今、宮崎の山奥で陶芸家をしています。

先日、久々に父と一緒に、叔父の家に行きました。


アトリエには、たくさんの陶芸品がありました。

完成した茶碗やお皿や、壺。
「ひっくり返せば、一輪挿しにもなる」とかいう、訳のわからない置物。

まだ製作途中の物までいっぱいです。

しばらく叔父の作品を見ながら、長いうんちくを聞かされました。

「この湯飲みは、おそらく〇千年前に〇〇という中国の陶芸家が、デザインより飲みやすさを重視して造り始め、それが〇〇に伝わり…(まだまだ続く)。」

といった感じです。
ザックリとしか覚えていません。長いから。

そして、じゃあお茶でも飲みましょう!ということで家の中に入る事になりましたが、父は叔父の作品をまだ見ていたいとアトリエに残りました。

そして僕はコーヒーをいただきながら、叔父の長い長いうんちくをひたすら聞かされることになりました。

「この家はほとんど自分で建てて、まだ完成してないんだけど、木っていうのは、湿気で大きさが変わっちゃうから、例えばこういう所は、こーやって、こーやって、こーやって、こんな風にするとこうなるんだよね。」

…まったく覚えていません。

しばらくその「まったく覚えていないけど、もし覚えていたらためになる話」を聞かされていると、父が真っ青な顔して家に入ってきて言いました。


「壺にさわった…!」


絶対割ったでしょう!!


僕は慌てて見に行きました。

が、割れてはいませんでした。




手形が付いていました。

しかも、それを誤魔化そうとした形跡までクッキリです。

そうです!
まだ完成していない、乾いていない壺に触れていたのです奴は!

子供かっ!!

「乾いてない作品は、絶対触っちゃダメだよ。」
って、いちいち言わなきゃ解らんのかっ!!


しかし、そんな父に叔父は

「あーいいよ、いいよ。」

ん?

すごい!

さすが芸術家だ!

心の赴くままに触れた手形、それもまた芸術…なのか!

「ア~トだなぁ~」

と、感動していると、叔父がこんな話をしました。


僕の父がまだ理容師の見習いをしていた頃、少ない給料をコツコツ貯めたお金で新品のバイクを買ったそうです。

そして納車の日、立ち会ったのは叔父でした。
どうしても乗ってみたかった叔父は、「兄貴が帰って来るまでに、元に戻しておけばいいか」ということで、勝手に拝借したらしいのです。
がしかしというか、案の定というか、見事に事故ってしまい、父が帰宅した時には、見るも無残な、ほんの数時間前まで新品だったバイクが横たわっていたそうです。
そしてもちろん、廃車となりました。
ところが、そんな叔父に、父は怒ることなく

「いいよ、いいよ。」

と言ってくれたのですが、それがずっと、罪悪感として、残っていたのだそうです。

「これでやっと、借りを返せた。」


と言ってました。


冗談で言ったつもりでしょうが、なんだか少し、兄弟愛を感じてしまいました。


…そんな里帰りでした。



PS
風邪で弱っていた為、こんな事を思い出してしまいました…。