「ゴジラVSビオランテ(1989)」 監督:大森一樹



世界が、娘を愛する科学者が、大怪獣が落としたパンドラの箱で狂い出す。その名は、「ゴジラ細胞」




「ゴジラ(1984)」の直接の続編です。

前作で破壊された街が、冒頭で映されます。
瓦礫のセットというのも、けっこう手間暇かかるものなんじゃないでしょうか。
本作の前に公開された「ガンヘッド(1989)」に登場する「ロボットの墓場」の退廃的なビジュアルも見事なものでした。


本当は「ガンヘッド」、「竹取物語(1987)」「帝都物語(1988)」等、先にレビューするべき作品はあるんでしょうが、私が契約してるサブスクはゴジラシリーズの配信が11月までなんで、こっちを優先したいと思います。



「CCN」という架空のテレビ局が新宿の惨状を伝えます。
ほぼ確実にCNNを文字ったんでしょうが、調べたら岐阜県に同名のテレビ局があるみたいですね。
もしかしたら、この英語ペラペラブロンドキャスターは岐阜県人なのかもしれません(違うか)。


飛び散ったゴジラの皮膚を回収する自衛隊の中に、迷彩服を着た3人組の外国人が。
彼等は「バイオメジャー」の一員です。
遺伝子工学分野を牛耳ろうとするアメリカ大手企業の手先で、何だってやる組織
追手の自衛隊員を返り討ちにします。


しかし、そんな彼らをあっという間に片付けるグラサン姿の男。
彼は、中東の「サラジア共和国(架空の国家)」エージェント。

ゴジラの皮膚はサラジアまで運ばれますが、報復としてバイオメジャーが研究施設を爆破。



血で血を洗ってまで各国が手に入れようとするゴジラの皮膚。

また偽ゴジラでも作ろうとしてるわけではありません。




今作のキーワード、「ゴジラ細胞」です。
砂漠の国、サラジアさえも農業大国になれる程の遺伝子情報が含まれているゴジラの細胞。
それをめぐる物語です。

凄い着眼点ですよね。
怪獣映画といったらですよ、だいたいは人間VS怪獣や怪獣同士のバトルがメインになるところです。それが更に2、3歩程先に進んで怪獣の利用法が主軸になるとは驚きです。


満を持してゴジラが復活した前作でしたが興行的に振るわず、ストーリーを一般公募して完成した本作。

その原案者は「小林晋一郎」氏。
歯医者さんですが、かつて「帰ってきたウルトラマン」の第34話「許されざるいのち」でもストーリーが採用されたという方です。
知識とセンスがある立派な理系出身者と怪獣映画が合わされば、物凄い化学反応を起こすようですね。

「許されざるいのち」が収録されている「帰ってきたウルトラマンvol.9」はウルトラマンシリーズ最大の問題作といわれる「怪獣使いと少年」も見ることができますので、是非一度は手にとっていただきたいです。




本編に話を戻しますが、先に登場人物を整理したほうが良さそうです。
ゴジラシリーズの中でもかなり濃い人達なんで。

桐島一人:主人公の科学者。兵器のために科学が使われることに難色を示す。意外と行動派。(演:三田村邦彦)

白神源壱郎:遺伝子工学の権威。サラジアでゴジラ細胞を研究していたが、最愛の娘を失ってしまう。自宅で栽培する薔薇の声が聞きたいと言う。(演:高橋幸治)

黒木翔:ゴジラ対策のために設置された「特殊戦略作戦室」の若きエリート。勝つために戦う。(演:高嶋政伸)

権藤吾郎:ゴジラ対策のため「特殊災害研究会議」に出向させられているベテラン自衛隊員。言動や本人の発言から、左遷だと思われる。(演:峰岸徹)

大河内明日香:超能力の研究が行われる精神開発センターの職員。桐島の恋人。(演:田中好子)

三枝未希:精神開発センターに所属するサイキック少女。今作初登場の、VSシリーズレギュラーキャラ。(演:小高恵美)

大河内誠剛:ゴジラ細胞を保有する「大河内財団」のトップ。大河内明日香の父。(演:金田龍之介)

白神恵理加:白神博士の娘。バイオメジャーにより研究所ごと爆殺されてしまう。が…(演:沢口靖子)




サラジアが爆破テロを起こされて5年。
精神開発センター所属の、三枝未希と子供達が超能力でゴジラ復活を感知します。

「第一種警戒体制」
ゴジラの活動が物理的以外の科学、地質、気象、精神等いかなる点でも1つ確認された場合

に該当します。


本作のみで扱われる、ゴジラに対する全4段階の警戒体制。

劇中でも「超能力なんて当てにできるか」と言われてますが、ロシアには「トンコフ超能力学校」という施設が実在するくらいです。
出現するだけで人命、経済に大打撃を与える大怪獣ですからね。警戒材料は少しでも多いに越したことはないんでしょう。



対抗手段として、
「拘核エネルギーバクテリア(ANTI NUCLEAR ENERGY BACTERIA 略称:ANEB)」が提案されます。

元々は原発事故のために考案されていた核物質を食べるバクテリアで、ゴジラ細胞から作られます。



これまた凄い話が出てきました。
作中でも言及されていますが、実現したら
「核兵器を使っても何とかなる」って事になってしまいます。

主人公の桐島も警鐘を鳴らしますが、大河内誠剛は言います。
「桐島くん、結局は誰かがやるんだ。原爆とゴジラに酷い目にあわされた日本が、ゴジラ細胞から核を越える兵器を作っても悪いと思わんがね。」


なんだか説得力のあるような主張ですが、前作の言葉を引用すれば、
それはゴジラ細胞を持つ大河内財団のエゴ
「ウルトラセブン」から借りれば
「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」です。

こういう人物が登場できるのも、あの「ゴジラ(1954)」から時間をおいて作られた新シリーズの利点でしょうか。

二人の意見は正反対ですが、だからといって桐島と明日香の「ロミオとジュリエット」のような関係が掘り下げられるようなことは無いのが少し残念です(作品がまとめ切れなくなりそうですけど)。



ゴジラを倒すため、協力することにした桐島。
ゴジラ細胞から距離を置いていた白神博士も、細胞を一週間だけ自分の研究所に預けることを条件に重い腰を上げます。


桐島と白神、二人の手により抗核バクテリアは完成しましたが、
バイオメジャーが黙ってるわけがありません。

三原山を爆破してゴジラを復活させると言い、ANEBを渡せと脅迫してきました。


更に、白神博士が作り出したのはそれだけではなかったのです。



芦ノ湖にそびえ立つ、80メートルはある物体。
蔦が何重にも絡まり、葉も生えている植物です。
まだ蕾ですが、それは巨大な薔薇。
巨大な植物といえば「世界樹」を思い浮かべますが、世界を支えるような存在ではありません。
その姿は怪しげな生命力を醸し出しています。
亡くなった白神恵理加を生かし続けるため、博士は薔薇に恵理加の細胞を移殖、更にゴジラ細胞を融合させ、永遠に生き続ける生物「ビオランテ」を生み出したのです。



驚天動地の展開が続きますが、優先するべきは何よりもゴジラ復活の阻止。

バイオメジャーの要求を飲むことにした日本政府。
桐島と権藤が取引現場に向かいますが、ここで
サラジアのグラサンエージェントが乱入。
バイオメジャーの男を殺害し、ANEBを持ち去ってしまいました。



結果、バイオメジャーがセットした爆弾が炸裂し三原山が噴火


ゴジラが山頂から蘇りました。
「ビオゴジ」の出現です。
前作の「84ゴジ」よりも頭部が小さくなり、ステレオタイプなゴジラの姿になっています。
特技監督「川北紘一」氏曰く、
「初代ゴジラは頭の形で原爆を表した。今度のゴジラは全身で表す」
シルエットだけでなく、瞳からは白目が消え、歯は2重に並び、凶暴な生物らしさが強調されました。
着ぐるみとは別に機械仕掛けのスーツも作られ、前作のサイボットよりもスムーズに動き、ギニョールよりも迫力のある撮影が可能になっています。


伊豆大島から日本列島へ進むゴジラ。
海上自衛隊が迎え撃ちます。
誕生から30年以上経ちますが、ゴジラと艦隊の海上戦は本作が初めてですね。

ゴジラ撃退のため、「スーパーXⅡ」も出撃。
遠隔操作により無人で戦え、先代の「スーパーX」よりも2倍の強度の装甲を持ちます。
最大の武器は、ゴジラの熱線を1万倍にして跳ね返す「ファイヤミラー」(本当かよ)。

放たれる熱線を全て跳ね返しますが、結局は限界を迎えるスーパーXⅡ。撤退することになります。
なんでカドミウム弾を搭載しなかったんでしょうか。



スーパーXⅡに手こずらされたゴジラですが、その後芦ノ湖に到着。
ビオランテと対峙します。

蕾だったビオランテには花が咲き、その中央には牙が生え、より異形な姿に。

植物が花を咲かせるのは、種を作るためです。
同じ細胞を持つゴジラの到来に、生物としての次の段階を目指していたのでしょうか。

無数の触手でゴジラに襲いかかりますが、ゴジラの熱線を2発食らってあっさりと炎上、粒子となって天に昇っていきます。
植物ですからね、「こうかはばつぐんだ!」ってやつです。

NGになりましたがビオランテが敗れたあと、
芦ノ湖にたくさんの薔薇が咲き誇るシーンが用意されていました。
明日香曰く、ビオランテの一部になった恵理加は
「いつか砂漠に薔薇が咲く日が来る」
と言ってたようなので、採用しても良かったのにと思います。

触手が襲いかかるシーンはなんとストップ・モーションによる表現も試みられていました。流石にこっちは違和感が強いですが…。



ビオランテ戦後、大阪に現れるゴジラ。
桐島たちがANEBの奪還に成功し(なんで科学者のお前がそこまでやるんだ)、
ここで黒木とゴジラの戦いは最高潮になります。

スーパーXⅡを犠牲にしてまでゴジラを釘付けにし、
権藤一佐達がANEBを取り付けたバズーカを発射!
口の中にまで撃ち込んだ権藤でしたが、怒りのゴジラにビルごと叩き潰されて死亡してしまいます。
今際の際にも飄々とした態度を崩さず、
「薬は注射より飲むのに限るぜぇ、ゴジラさん!」
なんて軽口を叩き、最期まで砲身を構える姿は正にシリーズに名を遺したキャラクターと言えるでしょう。

ここ、権藤を睨むゴジラの目が怖いんですよね。獲物を見つけた爬虫類のような、そんな目です。



その後も平然と動き続けるゴジラ。
体温が低いためにバクテリアの働きが抑えられているのではないかと仮説が立てられ、
「サンダーコントロールシステム」の運用が決まります。

人工的に稲妻を発生させ、高周波を起こし分子を振動、加熱するというシステム(通称:TCシステム)
トンデモ兵器が出てきましたが、そのために人工雲を発生させるという御膳立てが必要なのが好きです。
万能兵器じゃない、ってところがリアルで良いんですよね。

本作最後の、ゴジラVS自衛隊!
前作よりも派手なエフェクトのメーサービームがゴジラを狙い撃ち、TCシステムがゴジラの体温を上げます。
本作の音楽は「ドラクエシリーズ」で有名な
「すぎやまこういち」氏。
オープニングやビオランテ戦で採用されているボス戦チックなBGMも素晴らしいですが、ここでゴジラのテーマを持ってくるのは流石です。
 


 


勢いに押されたのか、戦車隊の攻撃に後ずさるゴジラ。

頑張れ自衛隊。
ゴジラの体温どころか、見ているこっちも熱くなれます。


バクテリアが効き始めたのか、意識が混濁してくるゴジラ。
そこへ、空から黄金の粒子が降り注ぎます。

白神博士はつぶやく。
「…ビオランテ。」


その言葉通り、
生きていたビオランテが進化した姿で地中から登場。
更に巨大になり、その背丈はゴジラの1.5倍もある120メートル。
花びらだった場所にはワニのような顔が現れ、背びれも備えてゴジラに近くなりました。
しかも動けるという。川北特技監督の一言で、スタッフ全員で引っ張ったらしいです。


無数の触手はゴジラを貫通するも、ゴジラは新技の「体内放射」で迎撃。
口からではなく、全身から熱線のエネルギーを放つ技で、密着している相手に対して非常に有効な技です。


反撃のビオランテ、「放射樹液」を浴びせゴジラを飲み込もうとしますが、口の中に熱線を撃ち込まれます。



激闘が展開されますが、
遂に抗核バクテリアに倒れるゴジラ。

残ったビオランテは、悲痛な叫びを上げて再び粒子となり、空に還ります。
その姿は、戦闘のダメージで力尽きたようにも、役目を果たしたようにも見えます。




事態の終息に安堵し、白神博士にANEBの生産を促す大河内誠剛。

しかし、博士は伝えます。
「私は、抗核バクテリアもビオランテももう作らない。
本当の怪獣は、それを作った人間だ!


利益のため、愛する者を生き長らえさせるために、抗核バクテリアが、ビオランテが作られる。
動機が欲望だとしても、純粋な愛情だとしても、それによって強大な力と悲劇を生み出してしまう。
それが、科学の恐ろしさ。



自分の力が、愛する娘までも怪獣に変えてしまったことに目を覚ましたのでしょうか。
桐島の考えを若いと否定していた博士の、まさかの発言。




しかし……。

登場人物たちの前で悲劇が起こり、大河内明日香のモノローグが本作を締めくくります。


「いつから私達は、こんな時代に生きるようになったのでしょう。神に向かって一歩、歩みだした日からそれは始まったのかもしれません。思い出して下さい、もう一度…」




以上、「ゴジラVSビオランテ」でした。斬新なストーリーや、今作から務められた川北紘一特技監督の沢山のアイデアが素晴らしい名作です。
未見の方は、是非ご覧になっていただきたいと思います。