「HOUSE(1977)」 監督:大林宣彦




五十音順に映画をレビューする予定だったのが、その前にゴジラシリーズ全部のレビューを済ませようとルールを変更し、今日に至る本ブログ。

本当なら「ゴジラ(1984)」について書くところですが、「メカゴジラの逆襲(1975)」で昭和シリーズが終わり、9年の間にゴジラ以外の東宝特撮映画が幾つか生まれました。


その中のひとつ、「HOUSE」というホラー映画について、今回はレビューしたいと思います。




「オシャレ」「おばちゃま」の屋敷で夏休みを過ごす事になった、7人の少女たち。しかし、その家では怪奇現象と共に仲間達が次々と消えていく…。




まず最初に話しておきますが、めちゃくちゃクセのある映画です。



先に登場人物の独特な名前(あだ名)について整理した方が良さそうです。

オシャレ:お嬢様。父と軽井沢の別荘で夏休みを過ごすはずだったが、再婚相手を紹介され反発。ファンタたちを連れておばちゃまの家を訪れることにする。亡くなった母と瓜二つ。(演:池上季実子)

ファンタ:オシャレの親友。「ファンタジー」(幻想的)からきているあだ名の通り、夢見がち。そのため、怪奇現象を体験しても皆に本気にされない。(演:大場久美子)

ガリ:「ガリ勉」のガリ。超常的な出来事も合理的に考える頭脳派。眼鏡を外すと美少女になる、メガネ女子。(演:松原愛)

クンフー:格闘女子。開かないドアは蹴るに限る。7人中最強。(演:神保美喜)

メロディー:音楽女子。天然。役者さんも本当にピアノを弾けるようです。(演:田中エリ子)

スウィート:弱気女子。ネズミにもびびる。綺麗好きで、屋敷の掃除係も進んで務める。(演:宮子昌代)

マック:食いしん坊女子。巨大なスイカを手に入れて喜ぶ。あだ名の由来は「ストマック」(胃)から。(演:佐藤美恵子)

おばちゃま:「オシャレ」の叔母。戦争で婚約者を亡くし、長い間独りで暮らしている。「オシャレ」から手紙を貰い、7人を屋敷に招待する。(演:南田洋子)


序盤からいきなり、この聞き慣れないあだ名で呼び合い、自分達の会話を進めていく登場人物たち(通称:ハウスガールズ)。
しかも上手く聞き取れない。


映像も独創的すぎます。

劇中の遠景は、その殆どが絵。
何故か7人と駅で談笑する「ゴダイゴ」のメンバー。
アニメーションで表現される、ハウスガールズが乗る電車。
「特撮映画」と言っても着ぐるみやミニチュアの映画ではなく、
本来の意味の「特(殊)撮(影)映画」。


多分、元から視聴者側に理解させようと思ってません。

監督の頭の中から絞り出された数々の演出が、部外者には理解しがたい年頃の女の子達の世界観を表現していると思います。



おばちゃまの屋敷に着く7人。

「皆を照らして、シャンデリアちゃん」、「おひつちゃん、暖めてもらえるわよ」と
家中の家具と会話しながら暮らしてきたというおばちゃま。

冷静に考えると変なんですが、ここに至るまでが十分変な世界観だったのであまり違和感に気づけません。


皆で協力して、炊事を済ませた7人。
おばちゃまは日に当たって体調を崩したらしく、こもっています。



マックが、井戸に冷やしているスイカを見に行ったまま、なかなか戻ってきません。
心配するファンタ。様子を見に向かいます。



ここで、なんの前触れもなく狂気が顔を見せます。


井戸のある、屋敷の裏。
相変わらず遠景は絵で表現されていますが、夕方を表す陰影が絶妙な不気味さを醸し出しています。
ヒグラシとカラスの鳴き声がBGMというのも、逢魔時(おうまがとき)を強調します。


一目でゾクリとさせる雰囲気があります。



姿を見せないマックを気にかけながら、スイカを取るために鶴瓶(つるべ)を引き上げるファンタ。

しかし、ファンタが引き上げたものは




マックの生首でした。




ファンタのお尻に噛みつくマック。
振り払うファンタ。
血反吐をぶちまけながら、井戸に戻っていく生首。

70年代の作品です。CG全盛の今の時代から見ればめちゃくちゃチープです。
ですが…この偽物っぽさが、本作の異質さを強調させ、より不気味に見えるんですよね。


逃げ帰ったファンタは皆に今の出来事を話しますが、次に引き上げた鶴瓶に乗ってたのはスイカでした。




だんだん妖怪じみてくるおばちゃま。

車椅子無しでは生活できなかったはずが、いつの間にか踊れるほどに元気になります。
マックの生首だったはずのスイカを食べる口からは目玉が見え隠れし、ファンタの前で冷蔵庫に入ってみせ、何処からか持ってきた人間の手首にかじりつきます


ファンタ以外のハウスガールズにも、異変が。



2階の化粧台でおめかしをするオシャレ
鏡の中の自分が若い頃のおばちゃまに変わったと思ったら、途端にひび割れ血を流す化粧台。そして、火に包まれるオシャレの体。



掃除して回るスウィートでしたが、
部屋の布団に襲いかかられ、姿を消します。



火の玉に襲われるも、気のせいだと蹴散らすクンフー。
悲鳴をあげたと思ったら、何故かファンタをからかうメロディー。
二人だけおかしい。



二人も友達がいなくなり、さすがに不安になり始めたファンタたち。
2回からオシャレが降りてきますが、
「駐在を呼んでくるから、1歩も出ちゃダメよ」と伝えて外出します。



取り残されたファンタ、ガリ、クンフー、メロディー。
さらに家中の扉が騒がしく音を立て、閉じ込められてしまいます。

クンフーが打撃をかましても開かない扉。おばちゃまに助けを求めようとしますが、姿が見えません。




頭を抱える四人。

景気付けに、ピアノを弾き始めるメロディー。開く楽譜は、おばちゃまが置いていった物。
 



すると、2階から外出したはずのオシャレの声が。

様子を見に行くガリとクンフー。




また、ファンタの前で狂気が起こります。




メロディーが、ピアノに食べられてしまいます。

ピアノの中で蠢くバラバラの身体と、血まみれの鍵盤の上で弾き続ける千切れた指が、なかなか強烈な描写。




2階に上がった二人が見たのは、白無垢を着たオシャレの幻覚。
そして屋敷の奥で時を刻む、
大きな置時計に押し込まれたスウィート。滴り落ちる血は、何故か緑色です。




畳間に逃げ込む3人、そこに亡霊と化したオシャレが登場。
「おばちゃまは何年も前に死んでいる。でも、戦死した婚約者に逢いたい気持ちで死んでも生きていられる体になり、嫁入り前の女子を食べたときだけ花嫁衣装が着られるようになる。
だから、大人しく食べられてちょうだい。」

語られる真実。
オシャレは、おばちゃまと一体化してしまったのです。




3人に襲いかかる家中の家具。
部屋に飾られている、白猫が描かれている掛軸が怪しいと睨んだガリ

クンフーが攻撃を仕掛けます。
ですが、電灯が頭にかじりつき、食べられていきます。
今際の際(いまわのきわ)に、死んでいった仲間達を思うクンフー。
脚だけの姿になりながらも、掛軸に飛び蹴りを一撃します。



すると、オシャレが大量出血
部屋の中が血で満たされていきます。血の池と化した部屋に落ちるガリ、溶けていく体。
家に消化されてしまいました。



一人残され、畳に掴まりながら家のなかを流され続けるファンタ。
流れ着いた先には、オシャレが待っていました。
親友のオシャレに再会でき、胸に抱かれるファンタ。しかし、オシャレの目には怪しげな光が…。

「たとえ肉体が滅んでも、人はいつまでも誰かの心のなかにいる。その人への思いと共に生き続けている。だから、愛の物語はいつまでも語り続けていかなければならない。愛する人の命を、永久に生きながらえさせるために。永久の命、失われることの無い人の思い。
それは、愛。」

おばちゃまのモノローグで物語は幕を閉じます。




以上、「HOUSE」でした。
東宝特撮、といっても監督を含めて社外の人間が撮ったものなので、厳密に言えば今まで記事にしてきた作品とは違います。
雰囲気も非常に独特で、当時は評論家達から非難の嵐だったようです。まあ…仕方ないでしょう。
しかし、「映画の革命」「元祖Jホラー」とも呼ばれるように、革新的な作品だったんだろうとも思います。
このファンタジックな世界観は、愛する人を待ち続けるような、いつまでも変わらない女性の心を、怪談話のように、童話のように表したものなのかもしれません。
万人受けするかと言われたら微妙なので、頭を柔らかくして見ましょう笑