「ゴジラ対ヘドラ(1971)」 監督:坂野義光



ヘドロ汚染が深刻化していた駿河湾で、海坊主のような怪獣が目撃される。人間たちが無秩序に行った環境汚染により生まれた「ヘドラ」は、まさに「第2のゴジラ」だった。




数あるゴジラシリーズの中でも、その異色ぶりがトップクラスの本作。

テーマは高度経済成長が残した負の遺産、
「公害」です。

「イタイイタイ病」、「水俣病」、「四日市喘息」…。
たくさんの人に被害をもたらした人災ですね。

当時の人々には、どれ程恐ろしいものだったのでしょうか。


実は、
前作の「ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃」から既に扱われていたテーマです。
 



こちらの劇中挿入歌「怪獣マーチ」では、

「メガトンスモーク 排気ガス~♪
これが本当の怪獣~だ~♪」

という歌詞があります。


円谷英二特技監督が最後に務めたゴジラ映画。
その作品で僅かながらも触れられたテーマが、本作で遂に主題として扱われるようになったのです。

「これが本当の怪獣」、とまで恐れられていた公害。
その化身として登場したのが、
新怪獣の「ヘドラ」です。



ヘドラのデザインについて、考察したいと思います。



田子の浦で初めて姿を見せたときには、登場人物の「矢野研」少年から、怪獣ではなく「お化け」と言われていました。

たしかに、そのシルエットはどちらかというとお化けそのものです。「お化けのQ太郎」みたいな姿ですね。


「第一次怪獣ブーム」を終わらせたのは「妖怪ブーム」でした。つまり、お化けや妖怪は怪獣よりも強い存在だったわけですね。


怪獣なんかよりもずっと怖いもの、公害。それを怪獣として表現するのなら、それはもう怪獣よりも強い妖怪しかなかった、ということではないでしょうか。



ヘドラのデザインについて、他に触れておきたい点は「目」ですね。

「ヘドラの目が女性器をイメージしたものである」というのは、結構有名な話だと思います。


何故女性器なのか?
ヘドラは公害でお化けの怪獣じゃないのか?


その理由は、本作の雰囲気にあると思います。

Wikipediaでは、本作について
「サイケデリック文化が盛り込まれ」と記述されています。

では、その「サイケデリック」とは何か?

更にWikipediaによると、
「薬物などの幻覚剤によってもたらされる心理的感覚」と説明されています。

薬物の高揚感から、「快楽に満たされた状態」になっているわけですね。

ヘドラの目は女性器。
それは、
「快楽しか見えていない」ということの暗喩なのではないでしょうか。


自分達の利益ばかりを求めた結果、自然環境のみではなく病気さえ引き起こしてしまう公害。


ゴーゴー喫茶に入り浸り、サイケデリック文化を満喫する登場人物の「毛内行夫」
公害反対の文字を掲げて若者たちを先導、富士山麓で活動を始めます。
しかし、彼等がやってることはただ盛り上がりたいだけです。
公害を何とかしようという姿勢は、全く伝わりません。

そんな行夫の姿や、公害を発生させてしまった人類そのもの。
「自分が楽しければ、無秩序だって何だっていい」という姿勢が、ヘドラの目に表れたのではないでしょうか(サイケデリック文化を否定しているわけではありません)。



潮干狩りする一郎の前に現れるヘドラ。難を逃れますが、調査のために海に潜った父親はなかなか海から上がってきません。
結構怖い場面です。

案の定、ヘドラに襲われた父親。
顔の半分がまるで火傷のようになってしまいました。

開始数分で視聴者に抜群のインパクトを残すヘドラ。


そんな事件が起こるなか、海に浮かぶゴミを放射能火炎で焼くゴジラのカットが挿入されます。

もう、ゴジラが画面に現れるだけで救われた気になるほど不気味な本作。

本作で戦うゴジラは、「怪獣総進撃」から「キングギドラ」、「ガバラ」と戦ってきた「総進撃ゴジラ」
手足が長く、勇ましい顔つきは、正に「正義のヒーローゴジラ」の完成形とでも言えるデザインです。

その「総進撃ゴジラ」が、戦いの中でボロボロになっていきます。
パンチも通じず、放射能火炎を食らっても無反応のヘドラ。
ゴジラは、ヘドラが撒き散らす「硫酸ミスト」に悶絶し、「ヘドリューム光線」をくらいダウン。さらに強酸性のヘドロを投げつけられて、片目も潰されてしまいます。

強い…強すぎる。

御返しとばかりにヘドラの目に貫手を食らわすゴジラ。

御互いに片目がつぶれた姿は激闘を物語りますが、それは「ゴジラもヘドラも同じ存在」と伝わってくるようです。



宇宙から飛来した生物が、地球のヘドロと融合して誕生した怪獣ヘドラ。

工場の排煙を旨そうに吸い、更に強大に成長します。

飛行してまわるだけで、体から溢れ出る硫酸ミストにより、人々はたちまち白骨化。

工場から無秩序に捨てられる有害物質が更にヘドラを強くし、人間たち自身が苦しめられる結果になります。

ヘドラは、公害そのものです。
その立場は、放射能火炎で空襲や原爆の恐怖を示したゴジラと同じ立場です。


そのヘドラを倒し、人間たちを睨み付けるゴジラ。
結果的には人間たちを守ることになりましたが、どちらかというと地球の守護者のような立ち位置でした。

それは、坂野義光監督がプロデューサーとして参加した「GODZILLA(2014)」、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」でも同じですね。

以上、「ゴジラ対ヘドラ」でした。

アニメーションで描かれるヘドラや、放射能火炎で飛行するゴジラの姿等、どちらかというと「ダークファンタジー」のような雰囲気の作品。

公害というテーマは古臭く感じるかもしれませんが、世界には今も公害問題を抱える国や、「太平洋ゴミベルト」もあります。

決して、他人事や昔話ではないという気持ちで見ていただきたい作品です。