「怪獣島の決戦 ゴジラの息子(1967)」 監督:福田純

「シャーベット計画」が進められる南海の「ゾルゲル島」。灼熱の熱帯から白銀の世界へと移り変わるこの島で、ゴジラ親子が誕生する!



「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」に続き、今回も南国の孤島が舞台。

ゾルゲル島、人の背丈程もあるオオカマキリが棲息するこの島で登場人物たちが何をしているのかというと、シャーベット計画の気象コントロール実験です。



シャーベット計画。

国連食糧計画機構による、天候を自在にコントロールし、食糧難を解決しようというものです。

絶対悪用されるだろ…

と突っ込みたくなりますが、ちゃんと
「悪用されてしまうから公にはしない」という台詞があることに安心。


まあ、世に出した時点で戦争に使われることは間違いないでしょうが。



研究するスタッフは「平田昭彦」さん、「佐原健二」さん、「土屋嘉男」さん等顔馴染みが揃い、
彼等をまとめる楠見博士役が「高島忠夫」さん

高島忠夫さんは「キングコング対ゴジラ」「海底軍艦」で活発な役を演じられてましたが、今回は白髪混じりの落ち着いた博士です。「フランケンシュタイン対地底怪獣」ではフランケンシュタインの手を切り落とそうとする「川地博士」も担当と、幅広い演技をされています。



彼等に久保明さん演じる新聞記者「真城伍郎」(演:久保明)が加わり、始まる実験。

この名前、漢字こそ違いますが「シン・ゴジラ」の謎の老教授と同じなんですよね。


まあ、同じ名前ってのは

「ネルソン」が「モスラ」と「キングコングの逆襲」

「楠見」が「海底軍艦」と「本作」

でも登場しているので意外と珍しいことではないんですが。


しかし、実験は「謎の妨害エネルギー」により失敗。
シャーベット化どころか70℃という異常高温になってしまうゾルゲル島。


死んでしまう。人間が耐えられる高温は50℃までですからね。画面から、むわあ~っとした暑さが伝わってきます。


実験失敗により、計画が延長する可能性に顔を曇らせる古川(演:土屋嘉男)。「マタンゴ」でもそうでしたが、こういう神経質な役が特に上手いと思います。


しかし、異常高温がもたらしたのは古川への更なるフラストレーションだけではありませんでした。


島に棲息するオオカマキリが体長50メートルに巨大化。「カマキラス」です。

いやあ、本当に凄い操演

6本の脚それぞれが全部違う動きをしていて、本当に生き物っぽいんですよね。
右前足がヤリ、左前足がカマというアンバランスさもリアルでたまりません。
全部で3体登場しますが、それぞれ大きさが違うというこだわりようです。


実は、本作の特技監督は「円谷英二」さんではなく「有川貞昌」さん。総監督も「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」から続いて「福田純」さん。
東宝特撮のスタッフ陣にも、シャーベット計画のように新しい風が吹いてきたようです。


3体のカマキラスが脇目も振らずに崩した岩山からは、巨大な卵が掘り起こされます。
そこから誕生したのは、

ゴジラの息子「ミニラ」
産まれて早々、カマキラスたちにいじめられてしまいます。というか獲物として見られてます。


海からゴジラが出現
ミニラが発するエネルギーを感じ取ったのです。気象実験をこのエネルギーで妨害したのも、急激な環境変化を阻止しようとしたようにも見えます。

この「息子ゴジラ」、歴代ゴジラシリーズで一番優しい顔をしています。普段はやんちゃなゴジラも、産まれたミニラを前にすると頬が緩んでしまうんでしょうね。


冒頭の海を進む顔はブッッサイクですが。
本作に限りませんが、海で使うゴジラのスーツは別のものを使ってるんですよね。今回は「大戦争ゴジラ」を改良したものなんですが、「息子ゴジラ」に近づけようとしたため顔が崩れたようです。


ミニラを前に、戦闘を始める
ゴジラVSカマキラス

カマキラスの動きが見ていて面白い。

大きさが違うので、三兄弟で呼びましょうか。

三男が不用意にゴジラに突撃、簡単に叩きつけられてしまいます。

それを見て連携をとろうと思ったのか、ゴジラの後ろに跳躍した次男。しかし放射能火炎を当てられ、一撃で焼死します。

ミニラに岩をぶつけて注意をそらし、今度こそ挟み撃ちに成功。
しかし、結局は実力差で三男も戦死。残った長男は撤退しました。


島に住んでいた唯一の人間、松宮サエコともふれあい、2本足で立ち上がり、熱線も吐けるようになりどんどん成長していくミニラ。

ちゃんと生まれたてとその後で顔が違うのは良いですね。

最初はカマキラス同様に操演ですが、開始40分頃からは中に「小人のマーチャン」さんが入って演技しています。
見ていて本当に微笑ましいんですよね。寝てるゴジラにいたずらしてるところなんか見てると、
保育園に通う我が子とも、こうやって遊びたいなあと思わされます。


そんなミニラに再び訪れる危機。

島の主、「クモンガ」の登場です。
カマキラス同様に見た目はでかいクモですが、こちらは元から怪獣です。

この設定、間違ってるのを良く見かけるんですよ。
東宝が発売元のPlayStation専用ゲーム「ゴジラ トレーディングバトル」ですら、「気象実験により誕生」と言われてます。

このゲーム、結構面白いんですよね。
「初代ゴジラ」よりも強い「アンギラス」とか、パンチ出来る「ゴロザウルス」や「バトラ」とか突っ込みどころは多いんですけど、「マグマ」や「ドゴラ」というマニアックどころも使えたり、全種類のゴジラを集めて戦えたりと幸せになれます。


クモンガの話に戻ります。
カマキラスでも見せてくれた操演は、8本足のウネウネとした動きで更に本領発揮。
登場人物たちの大きさに合わせて作られた、4メートルはありそうな実物大の足も効果的に使われます。

クモンガに襲われる真城達。怪獣達を足止めするため、再度気象コントロール実験を試みます。

このときですね、古川が「やろうじゃないか!」と発言するのが良いんですよね。ノイローゼで楠見博士を撃ってしまったことから、目を覚ましたんでしょう。

子供向けとか言われる本作ですが、意外と人物描写がしっかりしてて馬鹿にできないんです。


クモンガの糸に絡めとられるミニラ。何気に熱線を吐いて抵抗を試みているのが芸コマです。

様子を見に現れたであろうカマキラス長男
一目見て勝ち目がないと悟ったのでしょう、逃亡を試みますが敢えなく餌食に。この食物連鎖の構図が、リアルさに拍車をかけますね。


「ファ~ファ~(パーパー)」と泣き叫ぶミニラ。
ここに間に合うゴジラ!
BGM「ゴジラ対クモンガ」が場を盛り上げます。
 



熱線に弱いクモンガですが、結構強いんです。
組み合えばゴジラさえも地に伏せる程で、死んだふりだって出来る狡猾さ。
この死んだふりなんですが、足を内側にたたむ仕草がまさに昆虫のそれなんですよね。

古今東西、巨大昆虫物の映画はたくさんありますがこれを表現できてるのはあんまり無いと思います。
死んだふりから動き出すときの様子も完璧。
もうクモンガが蜘蛛過ぎて最高です。


そんな中、今度こそシャーベット計画は成功。
博士と喜び合う古川。
やっと救助に現れた潜水艦を見て
「潜水艦なら潜水艦って言ってくれよ!ドキッとするじゃねえか!」と爆笑する一同。
もう人間ドラマも最高。


雪が降り積もるゾルゲル島。
クモンガに勝利したゴジラ親子は、抱き締めあって冬眠します。
ミニラの肩を撫でるゴジラの優しさに、涙腺が潤みます。

以上、「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」でした。

怪獣と人間ドラマはどっちも見ていて楽しく、熱帯の暑さから最後は雪に覆われる季節の移り変わりは、風流すら感じさせてくれる見事な傑作です。