「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘(1966)」 監督:福田純


南海の孤島、「レッチ島」。核爆弾の原料、重水を製造する悪の組織「赤イ竹」と怪獣「エビラ」が幅をきかせるこの島で、「ゴジラ」が大暴れ!


異星人侵略の、ガチガチSFだった前作「怪獣大戦争」から180度変わった、言うならば南国シリーズ物?の作品です。


元々は「ロビンソン・クルーソー作戦 キングコング対エビラ」
だったらしく、そのために絶海の孤島が舞台になりました。
「ゴジラシリーズ」で島のセットが登場するのも今作が初めてですね。


そのレッチ島に眠るゴジラ
赤イ竹を叩き潰すため、吉村(演:高島忠夫)たちに雷で起こされます。
復活後はエビラと戦い、島に棲息する「大コンドル」を撃ち落とし、赤イ竹に奴隷として使われていたダヨ(演:水野久美)を前に大人しい姿を見せます。
ラストでは、自爆するレッチ島から「逃げろー!」と主人公たちに応援されたり。

キャラクターも「キングコング」が乗り移ったかのよう。
「三大怪獣地球最大の決戦」から、外敵の宇宙怪獣「キングギドラ」に立ち向かってきた我らが怪獣王。引力光線を股間にくらい悶絶したり、「シェー」を披露したりとお茶目な一面を見せてきましたが、本作でより人間らしいキャラクターになりました。


また、同年6月、怪獣ブームを後押しする出来事がありました。


東宝特撮の血が色濃く受け継がれた、「円谷プロ」が製作する「ウルトラマン」のテレビ放送開始です。

平和を脅かす怪獣・異星人と戦うために光の国からやって来た、宇宙人が主役のヒーロー番組。
ブラウン管の画面で戦うウルトラマンが、当時の子供たちにとってどれだけ人気だったのかは想像に難くありません。

その時代背景とキングコングのキャラクターを受け継いだゴジラが、子供たちに受けないハズがありませんよね。
次回作の「ゴジラの息子」では教育パパ怪獣になったり、「怪獣総進撃」では他の地球怪獣を引き連れてキングギドラや「キラアク星人」に立ち向かいます。
本作をきっかけに、正義の怪獣王がより人間らしい正義のヒーローに変わったというわけです。


キングコングが主役のはずだった本作。そのため、敵怪獣は動物らしさに溢れています。

新怪獣のエビラ。
第1脚は右がハサミで左がヤリ、逆海老反りという特徴を持ちますが、見た目はまさにエビの王様、伊勢海老のようです。
手元の「大ゴジラ図鑑2 (発行元:株式会社ホビージャパン)」によると、「そのインパクトは伝説の怪獣だった」と。


このリアルさが衝撃的だったのでしょうか。


ウルトラマンに出てくる怪獣たち、「バルタン星人」や「レッドキング」のデザインを担当されたのは
「成田亨」さん。
氏によって生み出されたキャラクターの数々は非常に独創的です。


そのデザインコンセプトは、

①手足や首が増えた妖怪的な怪獣は作らない。

②動物をそのまま大きくした怪獣は作らない。

③内臓が飛び出したりするような怪獣は作らない。

の3ヶ条です。
ウルトラマンシリーズはめちゃくちゃ詳しいというわけではありませんが、確かに①~③に抵触するような怪獣は、氏が担当された「ウルトラセブン」まではいないと思います。

Wikipediaによると、
「地球人にとっては悪でも、彼等自身の正義があるのだから、不思議な格好よさがなければならない」とのこと。

素晴らしい信条だと思います。
そのためか、登場から何十年経とうともウルトラ怪獣たちは人気がありますね。

基本的にはやられ役の怪獣たち。しかし、その人気は彼等がメインに扱われることも多々あるほどです。
かつて10年前には怪獣が主役のテレビシリーズ、「ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル」が放送され、東京には「怪獣酒場」なんてお店も実在します(行ってみたい…)。

前に街中で見かけたポスター、たしかメタボか何かの健康啓発が内容だったと思いますけど、ウルトラマンと共に、「ゴモラ」「ジャミラ」が弛んだ腹を見せているイラストでした。

これが例えば、「仮面ライダーシリーズ」だったらポスターに「怪人」は載らないと思うんですよね。「戦闘員」はそのシュールなデザインからよく見かけることはありますけど、怪人たちがメインに扱われることは少ないと思います。
「シャドームーン」「ン・ダグバ・ゼバ」等格好良く魅力的なキャラクターもいますが、それらは一部です。
そもそもが怪奇性を全面に打ち出した存在のため、どうしても怪獣に比べると地味にならざるを得ないとは思いますが。


少し話が横道にずれました。
成田亨氏が生み出す独創的な怪獣達とは対になるリアルなエビラの造形。
どちらも素晴らしいデザインだと思いますが、普段テレビで見られるような怪獣達とは違う姿の怪獣、エビラのインパクトは意外と大きかったのではないかと思います。



せっかく登場したモスラがまるで客寄せパンダにしかなっていないのは残念ですが、機転を利かせて悪党「赤イ竹」を凝らしめる主人公たちの活躍など、前作までとはまた違ったベクトルで人間側の活躍が面白いです。

今までと全く違う作風には驚かされますが、「ゴジラ」一作目から見ていくと「まあ、たまにはこういうのもありか」なんて思うかもしれません。