本日は「ゴジラの逆襲」に続いてこちらの作品についてのレビューもどうぞ。


「空の大怪獣ラドン(1956)」 監督:本多猪四郎


ゴジラシリーズでも大人気怪獣の「ラドン」デビュー作であり、彼が主役の映画です。
ゴジラやキングギドラ、モスラと比べると知名度は低いですが、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のマイケル・ドハティ監督もお気に入りの怪獣です。海を越えてファンを獲得している人気キャラクターなんですね。

勿論、ラドン自身が格好いい怪獣であることは間違いないですが、その人気を支える理由の1つは、単発主役映画である本作にあるかもしれません。



というのも、この映画はかなりの傑作です!


阿蘇の炭鉱で連続殺人事件が発生。その犯人は古代生物「メガヌロン」だった。だが怪物事件は、その後に始まる大災害のプロローグでしかなかった…。


炭鉱内で死者が出ます。
うなじの辺りをザックリと切られています。医者いわく、「ここまで綺麗に切れる刃物は日本刀くらい」とのこと。
それで警官と炭鉱夫が数人水浸しの現場に入ってみるんですが、

キリキリキリキリ…

と奇妙な音が聞こえてきて一人、また一人と水の中に消えていきます。

不気味です。
水中に引きずり込まれていくような描写がまた怖いです。

遺族が悲しみに暮れる夜、犯人は現れます。
古代オオトンボの幼虫、メガヌロンです。

トンボの幼虫なんで、「ヤゴ」です。
これがまた、なかなか気持ち悪い外見なんですよね。
巨大なハサミを持ち、腹部は蛇腹になっていて、顔は昆虫ですから無表情、更に体長は8メートルもあります。
しかも機関銃を食らっても死なない。

こんなのが真っ暗な洞窟内から、しかも何匹も出てくるわけです。
最初の20分はモンスターパニック物ですね。


メガヌロンの正体が判明した後から、本作は次のステップに入ります。


世界中で謎の飛行物体が現れ、航空機事故が多発します。
日本領空内でも、戦闘機による追跡が行われます。

この謎の飛行物体なんですが、飛行機雲を引いてるんですね。
翼の上面は気圧が低くなるので、その分温度も低くなり、水蒸気が雲に変わるらしいです(Wikipediaより)。
多分、熱力学方程式PV=RTのことだと思います。 (P=気圧、T=温度)
大学卒業後は全くいじってないので合ってるかわかりませんが、多分これのことなのかなと。
間違ってたら指摘ください。

そんで未確認飛行物体に近づいていくんですが、段々と飛行機雲が大きくなってきます。

何か巨大なものが飛んでます。

「突っ込んできました! とてつもない巨大な…! ちくしょー!!!」
パイロットは死にました。

この一連のシーンですが、青空とBGMのせいか、
不気味だけど爽やかさが残るという不思議な感覚に陥ります。
  

 


その後、保護された記憶喪失の炭鉱夫が気がついて、倒れる前の事を思い出します。

無数のメガヌロン、そしてその奥の巨大な卵。そこから、本作の主役が孵化します。
ラドンです

産まれた直後からメガヌロン達を平らげます。恐らく全滅です。
前半の主役が退場し、真打ちが登場するわけですね。


このラドンの特撮が凄いんですよ!


ラドン飛行時に発生する衝撃波や強風で岩肌に叩きつけられる車、折れ曲がる鉄橋、吹き飛ぶ屋根の瓦。
CGに全然負けていません

壊れる街だけではないです。
ミニチュアの戦車が前進する際に看板を巻き込むんですが、その時に巻き込む鉄塔の折れ具合で重さを表現しています。

凄い芸が細かい。

ラドンの動きも素晴らしいですね。
戦闘機隊の攻撃でダメージを受けて福岡の街に降り立つんですが、なびく翼や脚の動きが生物的です。

ここは操演で表現しています。ワイヤーでマリオネットみたいに吊るんですね。
「モスラ」や「クモンガ」みたいな昆虫型の怪獣のように、人が入れない姿の怪獣を動かすときに使われます。
「キングギドラ」の首の動きや、今回の不時着するラドンみたいに部分的に使われることもあります。

 



自衛隊に故郷である阿蘇山に追い込まれ、噴火作戦が決行されます。

つがいのラドンは2羽とも死んでしまうんですが、ここが東宝特撮シリーズでも屈指の名シーンです。

火砕流が流れる阿蘇山に、物思いにふけるように近づく1羽のラドン。そのまま力尽きるように、マグマの中に沈みます。
もう1羽が、先に死んだラドンに寄り添うように近づきます。同じようにマグマを浴びてしまいます。

が、直後に急上昇。
…しかし、力尽きたのか、結局マグマの中へ。

前作「ゴジラの逆襲」と同じように、このシーンも実は事故だったとのこと。


以上が「空の大怪獣ラドン」のレビューです。
自然を破壊する噴火作戦、そしてラドンの絶命シーンで締めくくる本作は、滲み出てくる哀愁は「ゴジラ」を彷彿とさせ、初のカラー特撮で魅せる、隠れた名作です。