白い雪に赤い花びらが散るように それは女の手首から鮮やかに滴り落ちた
全ての終わりを告げる鮮血は、彼女の最後の抵抗だったのか・・
奇しくも、その日は2月14日 男と女が愛を誓い合う日だった。
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5年前、中野由紀はK大学付属病院外科の研修医として医学の道を歩んでいた。
彼女にとって、尊敬する成瀬教授の指導の下(もと)医師として成長できることは願っても無い幸運だった。
そして、いつしか 教授に対する尊敬の念は思慕へと変わり、まもなく二人は公私共にパートナーとなった。
問題は、成瀬教授には家庭がありこの恋愛は不倫という二文字に象徴される状態であることだ。
名医で名高い成瀬教授も、この美しい女の前では1人の男だった。
彼は妻がありながら、若くて魅力的な研修医に理性を失うほどのめりこんでいった。
それは、決して実る事はない愛だとわかっていても、二人は惹き合い離れることはできなかった。
そんなある日、ついに 神は決定的な試練を二人に与えることになった。
由紀が妊娠してしまったのだ。
成瀬は結婚して8年になるが未だに子供には恵まれていなかった。
実は、彼の妻は子供が授からない体だったのである。
この事実から、由紀は当然、成瀬と結婚できるものと思い込んでいた。
数日後の2月14日、二人は 雪深い山荘で話し合うことになったのだが・・・
彼から出された結論は、由紀にとって思いも寄らないものだった。
成瀬の口から出た言葉は・・・
「君にはとても感謝している」
「辛いことを言うようだが・・子供は、引き取らせて欲しい」
「妻も、納得して大事に育てると言ってくれている」
やはり中野由紀とは一緒になれないということだった。
それは、由紀にとって、身を切られるような言葉だった。
彼女にとっては生きる望みを絶たれたも同然である。
[それが・・あなたの答えなの?」
「・・・・」
「もう、生きていても仕方ない!私もこの子も!」
その瞬間、彼女は咄嗟にナイフを握り雪原へ走り出した。
「由紀!止めろ、止めるんだ!」
成瀬の叫びも空しく
彼女は自ら左手首を切りつけ鮮血が飛び散った。
死を覚悟の最後の抵抗だった。
その後、彼女は多量の出血で生死を彷徨うが一命を取りとめた。
しかし、芽吹いた新しい命は儚く消えてしまったのである。
成瀬は、別れ際、彼女に静かに怒りの言葉をぶつけた
「君は人の命を何だと思っているんだ・・」
「命の尊厳がわからない君に 生きている人間を診る資格は無い」
この言葉が、深く胸に突き刺さったまま
中野由紀は 医師として生体を見る事をしなくなったのである。
そして、これ以上自分が傷つかないためにも
他人との関りを避けることが一番であると悟ったのだ。
彼女が「死体と対話する女医」と言われるようになったのは
自己保身の成れの果てであり運命だったのかも知れない。
事情を知るものは誰もがそう考えていた
まさか彼女が密かに何かを企てていたとは知る由も無い
今、まさに・・・
由紀は復讐劇というジグソーパズルを完成させるため
究極の最後のピースを捜し求めていた
そして先日偶然に見つけたのである
若くて有能な検視官
例の男を・・・・
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豆知識
セントバレンタインズデー( St. Valentine's day)は、2月14日に祝われ、世界各地で男女の愛の誓いの日とされる。
もともと、269年にローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌスに由来する記念日でもある。
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