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 「保全医学」とは多くの日本人にとって聞き慣れない言葉であろう。それもそのはず、元になった英語の"Conservation Medicine"が最初に文献上に現れたのは1997年であり(Pokras, M., Tabor, G., Pearl, M., Sherman, D., Epstein, P. 1997. Conservation Medicine: An Emerging Field. In Raven, P.H. (ed.), Nature and Human Society: The Quest for a Sustainable World, pp. 551-556. National Academy Press, Washington, D.C.)、会議録をまとめた"Conservation Medicine: Ecological Health in Practice"という名の図書が2002年に出版され、ようやく関係者の間でこの研究領域の存在が知られるようになった。そのため、この用語の誕生地である北米においてさえ、まだ広く認知されていないのが現状である。では、保全医学とは何を意味しているのであろうか?

 上記の図書の中で紹介されている保全医学の定義は、つぎのような内容である。“Conceptually, conservation medicine is at the nexus of the fields of human health, animal health, and ecosystem health.”(Tabor, 2002)。これを直訳すると、「保全医学の概念は、人の健康、動物の健康および生態系の健康に関わる領域を連携させるものである」、ということになる。つまり、これまで単独に研究されていた健康や医療に関係する研究領域を結びつけ、生物多様性維持のための生態学的健康(ecological health)を目的とする実学といえる。

 保全医学の研究と活用のためには、医学・獣医学・生態学などさまざまな分野の研究者が互いに協力し情報交換してゆく必要がある。実際に海外では、そのような研究ネットワークによる保全活動が展開されている。詳細については、つぎのホームページが参考になるだろう。The Consortium for Conservation Medicine( http://www.conservationmedicine.org/ )。ちなみに、獣医学を中心とした保全医学は、保全獣医学(Veterinary Conservation Medicine)と呼ばれている。