僕達を乗せたタクシーがタガミさんの家の前に到着した。

時間は10分かからない程度、以外と近いところに住んでいた。

気持ち悪そうにしているタガミさんを降ろし、マンションの入口まで運んだ。
以外と小洒落たマンションだったが、この後、タガミさんが言っていた意味が分かった。

取り敢えず自分の終電も間に合いそうなのでタガミさんに「おやすみ。また明日」と声をかけた。

「4階やねん。」タガミさんは直ぐに反応した。

「えっ?」直ぐに理解出来ずに少し考えた。

「エレベーター無い…担いでって」ニコニコしながらタガミさんが言った。

『そう言うこと…』心の中で思った。

タガミさんは身長155㎝くらいの細身…とは言え、自分も酒が入ってる身で彼女を抱えて4階までは流石にキツい。

途中、挫けそうになったが、ここで降ろしたら男が廃る…との思いで何とか目的の4階へ到着、どうにか面目も保てた。

突き当たりの一番奥がタガミさんの部屋、そこまで抱え玄関の前で降ろすと
「ありがとう…入っていきや」
色々な葛藤の中で正直、迷った。

「待ってよ」
タガミさんに声を掛けた。
「何なん?おまえ?」

相当酔ってるな…何時もは大人しい印象とは正反対のタガミさんを見て思った。
駅を指差して言った「駅はあっちだよ」

「うるさい…ほっとけや」彼女はフラフラしながら大通りの方へ歩き出した。

余計なお世話かもしれないが追いかけて「家はこの辺なの?」

「タクシーで帰る…」少し気持ち悪くなったのか、声のトーンが下がった。
「分かった。タクシー拾いに行くからここで待ってて」タガミさんは何も言わずに頷いた。

取り合えずタクシーを拾いに交差点近くまで行き、タガミさんを待たせているコンビニ前まで誘導した。

タガミさんをタクシーに乗せ、声を掛けた「気をつ…」と同時に腕を引っ張られ車内へ…タガミさんは僕に「家まで送ってって…階段上られへん」
言ってる意味がイマイチ分からないままタクシーは彼女の家を目指して動きだした。
飲み会当日は正直、朝から落ち着かなかった…ソワソワしていて仕事にも身が入らない。

一応お昼にタガミに声を掛けた「お酒は強いの?」
「ボチボチ…」思いの外、会話は広がらない。
『まあ飲み会の席で話すか』程度に考えていたが、予想外…いや、想定外の結末になる。

仕事も順調に終わり、先に数名で現地に向かった。
どこにでもあるチェーン店の居酒屋の30名ほどが座れる御座敷の部屋。

自分等が到着してから20分程で全員揃ったが、タガミさんは自分から対角線上の一番遠い席。
凹みつつも少したったら移動しよう!と思ったが…なかなか抜け出せない。
追い討ちをかけるようにタガミさんは隣のテーブルへ…
よし!隣りに行くぞ!と立ち上がったら、女子社員から人気のある“小林くん”と楽しそうに喋っているタガミさんが目に飛び込んできた。

あぁ…そう…完全にテンションは落ちた。

そして、そのまま飲み会も終了し、駅へ向かった。

ふとタガミさんを見ると少し雰囲気が違うことに気付いた。

改札口まで来たところで同僚達が「タガミさんってお酒飲むと変わっちゃう」「豹変してたね」
俗に言う“酒癖が悪い”というやつだ。

タガミさんは改札を通らずに一人駅を背にフラフラと歩いて行ってしまった。

「大丈夫かな?」「タガミさんの家ってこの辺?」皆が心配しているなか「心配だから俺行ってくる」とタガミさんを追いかけた。