板尾で笑えるホラー | weblog -α-

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なんとな~く  思いつきで  好き勝手に  (=゚ρ゚=) ボヘー  っとやってます。


前々回の記事に引き続き、映画レビューしちゃいますよ~っと。
ハィ、疲れ目が酷いんで今回は出来るだけサクサク進めます。


オトシモノ
オトシモノ
製作国:2006年 日本
監督:古澤 健
評価: 2点 (10点満点)

さて、今回取り上げるのは、2006年公開の 『オトシモノ』 というJホラー作品。
お気付きの方はもうお気付きかも知れませんが、俺がJホラー作品を取り上げる時に絶賛なんてほぼ有り得ません

いや、"良い部分は良い" と認めた上での総評ウンコだったらしょうがないんだもの。
ただほら、どこが良くてどこが悪いのかをハッキリ言わないのは卑怯じゃないですか、評論として。
「とにかくこんなのはクソ映画なんだー!!」 って言い切ってオシマイにしてる論評を俺は認めません
なんていうか・・・山菜炊いたのとかをガキんちょ辺りが食って、「うげ! こんなの食いもんじゃねぇ!」 って言い切っちゃってる感じに近いじゃない?(例えが微妙w)
不味いにしたって "何がどう不味い" ってのはある訳で、それが解らなかったり説明出来ないのに、さも解った風に味を語るのは違うだろと。
「そいつぁ~大人の味ってやつだぜ、坊主。 おめぇにゃ~10年早いわな。」 的なアレがある訳ですよ、えぇ。
という訳で、まずはあらすじ。

優等生の女子高生・奈々は、入院している母親の見舞いに行く為、小学生の妹・範子と最寄りの水無駅に居た。
ホームへ下りようとしていた時、友達のと擦れ違った範子が声を掛けると、孝は何かを気にする素振りで妙な事を言い出した。

「僕・・・死ぬんだって。 変な女の人が、もうすぐ僕死ぬって・・・これ拾ったから。」
そう言ってパスケースを見せる孝を、奈々はからかわれただけだと笑って宥めたが、気になってホームを窺った時、黒尽くめの不気味な女を一瞬だけ見た気がした。
孝が行方不明になったのは、その直後の事だった。

三葉電鉄の運転士・俊一は、運転業務中、水無トンネル内で何度も不気味な人影を目撃し、その度に列車を緊急停止させた事で上司から問題視され始めていた。
断固として何かを見たと譲らない俊一だったが、その生真面目さ故、ついに内勤を命じられ、遺失物倉庫へと異動させられてしまうのだった。

遺失物係の同僚・川村は、なにかとトンネル周辺や駅構内で起きる不気味な出来事の原因を知っている素振りをするのだが、明確にそれを語ろうとはせず、俊一をからかう様に煙に巻いた。

奈々のクラスメイトで不真面目なギャルの香苗は、電車内で彼氏のから唐突にバングルをプレゼントされ、喜んですぐに身に付けたが、それは茂が車内でたまたま拾った落とし物だった。
それから間も無く、茂と連絡がつかなくなり、いつもつるんでいる仲間からバングルの出処を知らされた香苗は、腹を立ててバングルを取り外そうとしたのだが、何をどうしてもバングルは香苗の腕から外れなかった。
仕方無くそのまま家へ帰ろうとした香苗は、駅のホームで佇む茂を見つける。
バングルの件で不機嫌に話し掛ける香苗だったが、茂の様子は明らかにいつもと違っていた。
怪訝そうに歩み寄る香苗に、突然襲い掛かる茂。
その姿は一瞬、不気味な黒髪の女に見えた。
悲鳴を上げ、渾身の力で振り払った香苗だったが、その勢いで茂は線路へと落ち、そこに滑り込んで来た列車に轢かれてしまうのだった。

「八重子に気を付けろ!」 という警告を残して・・・。

孝が行方不明になってから暫く経った頃、範子のランドセルから見覚えのあるパスケースが落ちたのを奈々は見つけた。
駅で拾って届け忘れたのだと範子は言う。
妙な胸騒ぎを覚え、代わりに自分が届けると持ち掛けた奈々だったが、範子には断られてしまう。

翌日の下校途中、待ち伏せていた範子から母親の見舞いに誘われた奈々だったが、バイトを理由に断ると、範子はふて腐れた様子で一人で行くと立ち去った。
その夜、バイトを終えた奈々のケータイには、範子からの留守電が残されていた。

「今、駅で孝くんを見た」 というメッセージに不安を覚えた奈々は、慌てて範子に電話をするが出ず、自宅にもその姿は無かった。
手掛かりを求めて孝の自宅マンションを訪ねた奈々は、そこで孝の姿をした不気味な何者かと遭遇すると共に、錯乱する孝の母親に助けを求められる。

範子の件と孝の母親を保護して貰う為に警察を呼んだ奈々だったが、依然として範子の行き先についての手掛かりは得られないままだった。
警察署を出ると、茂の件で聴取を受けた直後の香苗が肩を落としていた。
それまでの行いもあり、茂の件で両親に咎められた早苗は車から逃げ出したが、日頃つるんでいる仲間内からも茂をホームから突き飛ばしたと疑惑の目を向けられ、周囲から完全に孤立していた。

その夜、深夜業務に当たっていた俊一は、終電が過ぎ、照明も落としている駅構内の防犯カメラ映像に、少女が一人で歩いている姿を見つける。
慌てて現場へ駆けつける俊一だったが、どこにも少女の姿など無かった。

警察から連絡を受けた奈々が確認すると、駅の防犯カメラ映像に映っていたのは紛れもなく範子の姿だった。
そして、映像には範子の背後を歩く不気味な黒い影も・・・。
あくまで家出だと決め付けて本腰を入れない警察と、早々に運転士へ復帰したいが故、上司の前でシラを切り通す俊一
しかし、奈々は俊一が何か隠している事を見抜いていた。

駅で再び不気味な黒尽くめの女を目撃した奈々は、孝や範子が拾ったパスケースにヒントがあると考え、俊一に遺失物の届け出リストを見せて欲しいと頼む事にした。
リストで確認出来た新事実は、例のパスケースが
『青沼八重子』 という女性の物だったという事と、そのパスケースを拾い、その後行方不明になった人が他に何人も存在するという事。

その頃、電車内で不気味な幻を目撃し、慌てて駅へ逃げ降りた香苗は、突然ホームで何者かに手首を掴まれ、線路へ引き落とされそうになる。
なんとか転んだだけで済んだ香苗の視線の先には、あの不気味な黒尽くめの女が。
死に物狂いで逃げ出す香苗が不意にぶつかり助けを求めたのは、なんと奈々だった。

喫茶店でお互いの状況について話した奈々と香苗は、黒尽くめの女青沼八重子という名前で共通した状況下にある事を知る。
これまで接点の無かった奈々と香苗、協力してお互いの問題解決に挑もうと誓う二人だったが・・・。


・・・という訳で、たかだか落し物一つが命取りになってく呪いの物語です。
結構なトンデモ話ではあるんだけど、前半はそこまで悪い印象を受けなかった。
ってか、後半が一気にアホっぽくなりすぎたせいでそう思えたのかも知れんし、悪い印象じゃないからって、別に良いと思った訳でもないんだけどねw



とりあえず、この作品はB級路線なわりにキャスト陣がやたら豪華
主役の優等生な女子高生・奈々は、もはや開き直るしかなくなった 「別に」 な女優、沢尻エリカ
それなりに頑張って演技してますが、脚本も演出も酷いんで、彼女には役不足なのが否めないところ。
特に優等生っぽくも見えないし。

奈々と対を成す立ち位置のギャル系クラスメイト・香苗役には、キャラ的にそのまんまなイメージ若槻千夏
彼女は頭の回転も速いし器用な子なんで、演技もそれなりにこなしてはいるんだけど、やっぱり脚本と演出のせいでえらくチープに見えてしまう。
まぁ、バカを演じる上手さと話術を普段から発揮してるんで、変に役者として映像作品に出る必然性はないんだよね。

物語の要となる運転士の俊一役は、今をときめく売れっ子俳優小栗 旬
かなり中途半端な役どころなのにも関わらず、手抜きせずにちゃんと演技してるから偉いもんですw

俊一が異動させられる遺失物倉庫の先輩・川村役は、存在感だけで変に笑えてしまう板尾創路
もうね、板尾は存在が素晴らしいw
どんなシリアスな演技しててもおもろいもんw
いや、演技自体が下手って訳じゃないんだけど、何を演じてもコントに見えちゃうのよねw
板尾自身が醸し出すムードみたいなもんがそもそも面白いってのもあるんだけど、陰のあるシリアスな役柄ほど妙に面白くなる傾向があるんですよ、あの人。
ってか、死体の板尾ですら妙に可笑しいから困っちゃうよねw

心臓を悪くして入院中という設定の奈々と範子の母親・靖子役は、あの~子は~どこ~の子~・・・な浅田美代子
正直、わざわざ有名どころをキャスティングする必然性があったのか、一番疑問な役どころ。

最後に、唐突に登場する謎の女役は、存在感だけでキャスティングされたんであろう事が明白な杉本 彩
え~・・・まぁ、わざわざ言うまでもないけども、芝居がデカいですw
そしてクドいですw
でも、杉本 彩をキャスティングするってのはそういう事
板尾とはまた違う方向でおもろいんだよね、この人も。
どこまで狙ったキャスティングなのかは知らんけど、板尾と絡むシーンがもしあったら、それは完全にコントになってた事でしょうw

まぁまぁ、とにかく、キャストだけで見ると結構な豪華メンバーなんですよ、この作品。
日本のホラー作品ってのは低予算が基本だったりするし、死んだり血塗れになったりと汚れ仕事的な印象も強いもんで、有名どころはそう何人も使わない事が多いんだけども、何故かこの作品は見慣れた顔ぶれを無駄に揃えてる・・・うん、無駄にね。
そんだけ揃える金あったら、もっとマシな脚本と演出家揃えろと小一時間・・・(略)



さて、ストーリーについてなんだけど、ここからは完全にネタバレ前提です。
まず、前述の通り、前半はそれほど悪い印象って感じなかったのね。
たまたま拾った定期券呪詛で、それによって子供が被害に遭うってのは掴みとして悪くない。
いきなり子供を犠牲にするとか、例えばハリウッドじゃ出来ない事だろうし。
ただ、最初は孝くんで、次に妹の範子・・・と子供を連続で被害者にしてる訳だから、いっそ被害に遭うのは主に子供だけって括りにした方が良かった気はする。
"呪詛を拾ったら誰であろうと呪われる" ってのは、むしろホラーとしてベタ過ぎるのかなと。
その辺りのユルさが安直なホラー演出にも繋がってる部分はあるんだろうし。
オチに絡めたとしたって、子供が生け贄って方が儀式的になって良いと思うんだよね。
それなりの説得力さえあれば変に解説しなくても済むし、話として辻褄が合うし。

で、結局、この作品ってのは、呪いの正体がオカルトオチという救い難いアレで・・・。
大昔に邪神だか悪魔だかの祭壇を掘り当ててたが故に、そこから邪悪な存在が作用して被害者が出続けてたんですよ~という・・・なんだかなぁw
まず、日本を舞台にした日本らしいホラーを作る気なら、悪魔系のオカルト展開は絶対やったらダメな訳ですよ。
なんでって、日本の宗教文化に神は居ても悪魔は居ないからね。
せいぜいが鬼とか物の怪の類ですよ、出して良いのは。
太陽信仰が根付いてた日本において、太陽を司るのは言わずと知れたアマテラスだけども、夜を支配するのはツクヨミという弟神だし、闇(冥界)を支配したのはそのまた弟神のスサノオ
つまり、身内姉弟で統べちゃってる日本の宗教文化には、西洋的宗教観における善と悪の感覚ってのが全く当て嵌まらない訳ですな。
って事だから、日本で悪魔がどうのっていくらシリアスに作っても、宗教的に恐怖を刷り込まれてない多くの日本人にとっては、全くのヘソ茶なんです。
特に邪神の祭壇が埋まっててどうのとか、「ウルトラQじゃねぇんだからw」 って話になっちゃう訳ですよ。
非常に幼稚というかな、設定としてリアリティーを欠き過ぎてる
もっとも、悪魔系をネタに日本らしいホラーが作れないかって言えば、それは作れるとは思うけどね。
ただ、この作品みたいに 「おかしな祭壇出てきましたわー。 邪悪なんがわんさと地の底から湧いて出て来ましてー」 的なのは頭悪すぎる。
海外ウケを狙ったのか知らんけど、それならそれで外人をナメすぎてるよね。

んで、これ、一連の怪異は青沼八重子の仕業だって思わせつつ進行してるけど、実はそうじゃないって判明する事でホラーとしての深みを出したかったんだと思うんですよ、多分。
つまり、ミスリード的な・・・他に何の手掛かりもないからミスもへったくれもないんだけどw、とにかくそんなどんでん返し視聴者をあっと言わせよう的な魂胆があったんだと思うけども・・・それがまっっっっっったく面白くない
むしろ酷い、酷すぎて屁も出ない
しかも中途半端だし、その後の展開もボヤっとしてるし。

まぁ、そもそも悪魔オチだから面白くないのもあるんだけど、ひっくり返すならひっくり返すなりに根拠を固めてやらないとダメでしょうよと。
「え・・・んじゃ、青沼八重子はどういう立ち位置? 実は何もしてないの? 操られて手先になってる感じ? なんなの? サッパリ解んないんですけど?」
みたいなトコで観てる側は確実につまずくはずなんで、「いやぁ、実は邪悪な者が居まして~」 って急にサクサク進められても困っちゃうのよね。
長い前フリをした挙句に主軸をシフトするんなら、それまでの回収ぐらいちゃんとやれ!・・・と。
ホテル連れ込んで、服まで脱がしたところで 「おやすみなさーい!」 はねぇだろ的なw
トイレ行って、パンツ下ろして、紙まで準備したクセにウンコしない・・・でもいいけどw
いずれにしても、物語としてデタラメ過ぎるんですよ、展開の処理が。
まぁ、オチとか急展開とかで狙い過ぎた挙句にその他が雑になるパターンは決して珍しくない駄作あるあるだけど、そういう "基本すら出来ないバカ" プロとして仕事しちゃダメです。

"要するに、青沼八重子ってどういう立ち位置なの?" って部分をもっと明確にさせてたら、少なくともそこの時点までの話は着地点が見出せてたんじゃないのかねぇ。
そういう中途半端さは、杉本 彩演ずる "謎の女" にも言える事。
「結局こいつは何だよ・・・」 って思うからね、フツー。
いや、生き延びて成長してた青沼八重子の実子だってのは解るけどもさ、本人は自分が娘だって気付いてないし、その息子すら犠牲になってるし、状況的には全く八重子の娘である意味がないというか、娘だという事に関しての具体的なメリットもデメリットも見えないんだよね。
フツーに 『息子が被害に遭った母親』 じゃダメだったの?・・・っていう。
"因縁があるから強い" 訳でもなければ、"その因縁こそが弱みになってる" 訳でもないなら、「じゃあ何よw」 ってなるよねw
結果的に大して意味も無く死ぬしさw
なにがしたいねん・・・としか言い様がないもんなぁ。
板尾演ずる川村だって、なんだかんだ伏線を張ってる風に演出しといて呆気なく死ぬし、自殺するほどの情報を抱えてたわりに平然としてたしね。
川村のセリフを引用するなら、「死ぬぐらいなら、お前こそとっとと他の仕事探せや」 ですよ、まったくw
ホントにね、いちいち雑さが目立って酷い有様です。

それから、後半で無理矢理に始まる奈々と香苗の友情展開も、ビックリするほど薄っぺらい
何故にそんな要素を入れ込もうとしたがるかね、まったくw
"ホントの友達がやっと出来た!" 的な無駄展開させといて、めちゃめちゃあっさり香苗殺しちゃうって何事?w
まぁ、終盤の奈々のピンチで香苗を出したかっただけなんだろうな、あれも。
そもそも、おかしな状況下に置かれて孤立した二人なんだから、お互いそこで共通してるって気付いたら協力はし合うよね、接点ゼロスタートじゃないんだし。
その程度の事で友情もへったくれもないってか、そもそもそれどころじゃない状況下じゃ御座いませんか?・・・と。

あとはラストね。
結果的に訳の解らん邪神的なものから逃げ延びた奈々と俊一・・・と、何故かフツーに生き残ってた範子
うん、だから・・・なんで範子だけ生き残ってんだよw
行方不明から何日も経ってるよね・・・メシとかトイレとかさ・・・みたいな。
ってか、範子生きてんなら、孝も生きてて良いんじゃね?
いや、その前に、肉体残ってる犠牲者がワラワラ倒れてるし、全員生きてておかしくねぇって話になると思うんだが・・・。

んで、三人がトンネルから脱出して数日後、俊一が元凶のトンネルを爆破して逮捕される・・・という結末ね。
いやいやいやいや!
え!?
埋めたらオールOKなの?

・・・っていうw
ってか、爆破準備してる時って、邪神的なもんは大人しくしてくれてたんだね
あれだけ邪悪だの強大な力だのとアピってたけど、意外と物分り良いんだね~、へ~w

まぁ、そういった訳で、結局は落し物なんか大して関係ないんじゃんっていう話なんです、これ。
タイトルにまでしてるのにねw
むしろ、合理性ってもんをどっかに落として来ちゃったんじゃないの?みたいな話でね、うん。
まずは小説の百冊も読んでから脚本とか書こうね?って思うし、単に気味悪いもん出したからってホラーにゃならんって事ぐらい覚えとけな?って思う次第です、えぇ。



まぁ、アレですね、日本のホラー映画の何が総じて悪いかって、「どうだ、怖いだろ」 とか、「どうだ、気味悪いだろ」 っていうオラオラ感覚で作ってるトコだと思うんですよ。
「どうだ」 ではないんだよ、日本人が作るべきホラーは。
そもそも、 "和の恐怖" ってもんを理解してる作り手がほぼ居ないんじゃないかとすら思うんだよね。

例えば、俊一は列車の運転中に青沼八重子の亡霊を何度も目撃する事になってるけど、そんなのも本来は必要無い
元凶がトンネルにあるって事なら、列車がトンネルに入るタイミングで何も無いのに人を撥ねる様な衝撃音を聞くとか、トンネル内で運転席のドアやフロントガラスを叩く音がし始めるとか、そういった "具体的だけど得体の知れない現象" が起きた方が、和ホラーとして極めて正統派
そういった怪異が日常的にある路線だとすれば、社内でも乗客の間でも怪談がそれなりに広まってて不思議はないし、体験者だって相応に居る方が自然だから、何かしらの噂を俊一が耳にして余計に恐怖を煽られる場面があっていい。
そんな前フリがありつつ、またトンネルで怪音を聞いた途端、変電所の事故で電車が停まってしまうとか、運転席の後方窓から外を見てた鉄ちゃんの子が何かを見て急に逃げ出すとか、そういった不気味演出を積み重ねる事の方が、ストレートに怪物の姿を映す事なんかよりずっと怖い。
つまり、遠回しの美学というか、心理的な恐怖の本質を少しずつ刺激するべきが日本のホラーだという事。

和ホラー・・・つまり、怪談的な恐怖ってのは、"霊感体質の人が次々と霊に襲われて面倒に巻き込まれる" みたいな事じゃなく、"思いっきり心霊事案に巻き込まれてるのに、当事者に霊感が無くて全然気付かない" みたいな事。
幽霊にしても悪魔にしても、目視出来るならビジュアルとしての怖さのみで着地しちゃう訳ですよ。
確かに得体の知れない存在が異様な形相で迫って来たら怖いけど、"その恐怖" と "猛獣の檻に閉じ込められる恐怖" に大差は無い訳だよね。
ところが、敵の正体が目視出来ないとなれば、そこにあるのは止め処ない不安の渦
視覚のみならず、あらゆる感覚がその不安から逃れようフル稼働する訳で、それこそがまさに恐怖の原動力という訳。
当たり前だけど、恐怖は外から与えられた感覚じゃなく、各々の脳の中で生成される防衛本能の賜物だから、"いかに不安を感じているか" こそが重要であって、「映像作品だから画的に怖いものを見せてやろう」 みたいなところで勝負しようってのは、ナンセンス極まりないんですな。
ともあれ、『見えるが故の恐怖』 『見えないが故の恐怖』 ってのをちゃんと理解してたら、ストーリー自体がベタだとしても、ホラー作品としての精度はちゃんと上がるんです。

『リング』 『呪怨』 のヒット以降、どうしても流れが "個性派モンスターありき" になり過ぎちゃってるけど、そういうのに頼ったら日本でホラーを作る意味なんて無いと思うし、極端な話、和の恐怖に重点を置いたホラーなら、凝った特殊メイクとかが無くたってちゃんと怖くは出来るんですよ。

"普通の極み" みたいなキャラの薄い人であっても、例えば廃墟の窓辺深夜の踏切に佇んでたら、それは絶対に怖い
血を滴らせてる必要も無ければ、恐ろしい形相をしてる必要も無くて、むしろ少し微笑んでるぐらいの方が人は怖いと感じる
一般的価値観からすれば、血を流してたり、包丁を握り締めてたり、怒りの形相だったりした方が怖いはずなんだけど(それはそれで怖いけどねw)、全くそういった危機感を演出せず、ただひたすら佇んで微笑んでる方が絶対的に怖いんですよ、正常な心理状態の人ならば。
なんでって、そこに感じるのは "絶対的な違和感" だから。

悲しい歌を一番悲しく聴かせる為に作り笑いを演出するのと同様(あくまで技術ありきの話ね)、"恐怖" なら恐怖と直結しない方向のアプローチこそ有効だし、"笑い" なら笑いと直結しない方向のアプローチが有効になる。
深夜の踏切で佇む男が・・・例えばフルチンだったら、それを怖いと感じる人も居るし、可笑しいと感じる人も居るはずなんです。
そいつが寒くて若干震えてたら、さすがに滑稽で笑っちゃう人が大多数だろうけど、次の瞬間、いきなり通り掛かった人を無言で追い回し始めたら笑えなくなる訳ですよ。
あるいは、踏切が鳴り出したのに動く気配が無かったら "撥ねられる想像" で怖くなるし、電車が通り過ぎても変わらず佇んでいたとしたら、それはそれで気味悪くて怖くなる。
さっきまで笑えたはずの男に変化が無くても、見てる側の捉え方が変われば瞬時に恐怖が生まれたりする。
ちなみに、電車が通り過ぎても相変わらず佇んでいる男を 「あいつは霊だ!」 と認識して怖くなったとしても、電車の通過後に男が勃起してるって気付いたら妙に面白くなる・・・っていう展開だってナシじゃないw
「そこだけ変化かい!」 みたいなw
いや、物凄くバカなオチにしちゃったけど、そうだとしたって男は紛れも無く霊だから怖いはずなんですよ、本当は。
結局、怖いとか可笑しいとか判断してるのは自分の脳内処理の話で、必ずしも事象自体の問題ではないって事なんですね。
そこを理解さえすれば、理論上は恐怖でも笑いでも的確に狙いに行けるって事になります。
無論、評論する側も同様の条件が求められますが・・・果たして評論してる人達はちゃんと理解してるんでしょうかねぇ。

残念ながら、日本のドラマや映画において、見事にそういったツボを押さえてる作品ってのは皆無なんで、是非とも一つぐらいは世に出て来て欲しいもんだなぁと思う今日この頃。
ホラーマニアが何度観ても鳥肌を立ててしまう様なホラー作品、それはきっと日本人にしか作れないと俺は思ってます。




※ 2017年9月 加筆・修正