俺が敬愛するギタリスト、布袋寅泰が1991年にリリースしたソロ二作目のアルバム 『GUITARHYTHM Ⅱ』 の4曲目に、『SLOW MOTION』 という曲がある。
その曲は、幽体離脱をイメージして作られたと布袋本人が語っていた。
アルバムに収録されているのは、ミィディアムテンポのタイトなドラムに、ROXY MUSICのアンディ・マッケイが奏でるサックスの音色が絡み合う幻想的なもの。
そのバージョンも好みではあるんだが、俺がもっと好みだったのは、レコーディング前に録られた布袋によるデモ音源のミックス。
当時、布袋はNHK-FMでミュージック・スクエアという番組のパーソナリティをしていた。
基本的には布袋自身が選曲した世界中のあらゆる楽曲を紹介する内容だったのだが、何度か番組内で自らのデモ音源を披露した事があった。
勿論、世間にデモ音源の海賊盤はそれなりに出回っていたものの、手掛けた当人がデモ音源を公に出す事は極めて珍しい。
まだまだ当時はネット社会でも無かったから、尚更に希少価値のある放送回。
俺はマメにチェックしてた訳でも無かったが、運良くその回を聴く事が出来た。
その時に流された一曲が、SLOW MOTIONのデモ音源。
デモのミックスはCD収録のテイクとはかなり雰囲気が違っていたものの、噂に聞いていた通り、デモだというのに完成度は非常に高かった。
タイトなドラムのミィディアムテンポは変わらずだったが、ベースのループが気持ち良く絡み、ボイス系のシンセとクリーントーンのギターが入ったギタリストらしい仕上がり。
その世界観はまさしく幽体離脱の雰囲気を出していて、俺はそれを聴き終えた時に一人で 「うぁ~・・・」 とため息をついていた。
と言うのも、ちょうどその少し前ぐらいから、俺も幽体離脱をテーマに曲を作りたいと考えていたから。
昔からオカルト系や怪談なんかが大好きだったから、そういったものをモチーフに曲を・・・と考えた時に浮かんだのが幽体離脱だった。
余りにも完成度が高く、イメージにぴったりな楽曲を先に作られていた事に悔しさを覚えつつ、改めて布袋のセンスに敬服されられた訳だ。
その頃、当然ながら俺はPCなんて持っているはずもなく、持っていたとしても今の様な音作りの環境が整っていた訳がない。
今なら数百円か数千円程度で買える様なPCが最先端の最新機種で、プロのレコーディングだってコンピューターを使うのはまだハードルが高かった頃。
世界観を演出するのに不可欠なシンセだって高価で手が出ず、頭の中に鳴り響く曲を音源化するなんて夢に近い事だった。
それでもギター一つあれば曲は作れる。
実際に音源化は無理でも、頭の中のイメージを忘れなければいつかは形に出来るだろうと思ってた。
そして作ったのが、俺なりの解釈で幽体離脱をイメージした曲、FLY。
FLY take.1
という訳で、作曲自体は古いものだけど、音源化する事になったのは小学校時代のツレからEOSを借りた時が最初。
と言っても、その時はイメージを具体化するのに時間が足りなくて、布袋のデモをほとんどなぞる様な感じにしかならなかった。
その後何年もしてから、ゲームの作曲ソフトでイメージと音作りを詰め、ようやくこの音源の形にはなったものの、所詮はゲームソフトだけにデモとして使うには無理があった。
今回のこの音源は、そのゲームソフトで仕上げた音を全て今のツールで打ち込み直し、更に微調整をして出来た完成版。
まぁ、完成と言うと語弊があるけど、音源としてちゃんと形になったって意味では完成形になる。
で、この曲のドラムに関しては、布袋のSLOW MOTIONのリズムを丸ごと取り入れた。
パクりと言われちゃえばそれまでなんだけど、俺的には単にリズムとして好きだからそのまま使っただけで・・・曲として全然違うなら良いじゃんという。
歌詞は例の如く抽象的な単語の羅列。
我ながら好きな歌詞なんだけど、実は尺が長すぎるというか、クドすぎるかなって事で数行ほどオリジナルからは削除してる。
まぁ、たかが数行ではあるんだけど、曲に乗せると数十秒になるんでね。
この曲で一番変えたのはギターアレンジで、当初はSLOW MOTIONのデモ同様に普通のクリーントーンを基本に弾くつもりだった。
で、サビを歪み系の音でガッツリ弾こうと思ってたんだけど、実際にこのアレンジでギターを乗せるとしっくりこなかったもんで、ファンクとかソウル系っぽいのはどうだろうって事でクリーントーンにワウをかけてループさせた。
ワウはどうしてもキャラの濃い音になるんで、サビは逆にシンプルな方が良いと思って、ビブラートがキツめのコーラスをかけたクリーントーンをアルペで乗せてみた。
んで、クリーントーンばっかりになった分、ソロはガッツリ歪ませて弾いてるという。
ボーカルに関しても当初はもっと淡々とした雰囲気で唄うつもりだったんだけど、このアレンジで淡々と唄うのもなかなか難しいし、あんまり昔の発想に捉われ過ぎるのも面白くないなって事で、ほとんど構えずに好きに歌入れした。
相変わらずやらしい声だとか・・・褒めてんだかけなしてんだか解らんコメントを約二名からされたけどもねw
最後にオマケ的なものをば。
一番最初に音源化した時のFLYと、ゲームソフトで作ったFLYの音源をこの際だからUP。
聴き比べたら歴史が感じられるかなと。
FLY ※Old Demo 1
まずは最初に音源化したEOSを使ったデモ音源。
当時使ってたMTRで作ったもんなんで、音の悪さはどうしようもない。
なんせ時代はカセットテープの頃だし。
で、歌とか演奏とか酷くて恥ずかしい限りなんで、曲の中盤でカットしてますw
FLY ※Old Demo 2
こっちはゲームの作曲ソフトで作った音源。
テンポがちょっと速いけど、ほぼこのアレンジのまま作り直したのは解ると思う。
音のチープさが云々ってのはさて置いて、どんな音をどう使うかみたいな構成やら配置やらの設計図的な仕上がりにはなってるね。
言わばアレンジ用のデモ。
んで、これは演奏も歌も入れてないもんで、わざわざ編集もせずにフルコーラス。