数時間前にふと思い出した話。
あ、今回の本題は、全く以って 「知らんがな」 って話です。
小難しい内容じゃないけども、相変わらず無駄だらけの長文なのはあしからず。
小学校低学年の頃、まだ遊びと言えば外で遊ぶのが主で、俺は自衛隊の官舎に住んでたから、同じ官舎に住む友達連中と毎日つるんで遊んでました。
友達って言っても、同い年だったのは一人だけ。
当時は年齢差とか意識せず、近所なら誰とでも遊ぶのが当たり前だったし、友達の垣根ってのもかなり低くて、時には初対面の名前すら知らない奴と一緒に遊んだりもしてたもんです。
その遊びってのも、缶蹴りやらかくれんぼなんていうベタな子供の遊びとか、人数も場所も全く足りてない状況での野球やらサッカーの類。
まぁ、いわゆる昭和の子ですよね。
恐らく、俺らなんかがそういった遊びで育った終わりの世代じゃないかな。
ちょうど高学年に入った頃にファミコンが発売されて、それからは一気にブームに火が着いて、子供の遊びの定番も、直接的な対人間のものではなくなっちゃったんでね。
そんな昭和な子供だった頃、学校での遊びもやっぱり今からすればアナログなもんばっかりで、基本的には体を使った遊びばっかり。
普段の遊びとそれほど違ってはいなかったんだけど、学校は遊び道具の持ち込み禁止ってルールが一応あったもんで、オモチャやらグッズの類で遊ぶ事ってのはそれほど無かったんですよ。
勿論、手に入れたばっかりのオモチャを自慢する為に、コッソリと持って行くのはお約束だったんだけどもw
そんなルールがある学校でも、堂々と持ち込める遊び道具があったんです。
それが消しゴム玩具。
俺の世代で一番有名なのは、キン消しって呼び名で知られるキン肉マン消しゴム。
つまりは今で言うフィギュアなんだけども、「素材が消しゴムだから筆記用具だ」 というw、今思えば極めて無茶な理屈で持ち込みOKと勝手に決めつけてたオモチャでしてね、そもそもは70年代に流行ったスーパーカー消しゴム(通称:カー消し)が消しゴム玩具の火付け役だったんです。
キン消しが流行る以前は、俺らもカー消しでよく遊んでました。
カー消しもゴム製のフィギュアで、遊び方としてはおはじきみたいなもの。
二人対戦の場合、机の両角に各々のカー消しを置いて、それを順繰りに弾いて行って、相手のカー消しを落としたら勝ちになる訳です。
めんこと同じで、勝った方が負かしたカー消しを貰えるってのが基本ルールなんだけど、俺らはそこまでシビアなルールにはしてなくて、単に勝敗を競うだけでした。
で、そのカー消しを弾く時に使うのがノック式ボールペン。
ペン先を収納する時、後部を押し込むんじゃなく、ペン横のボタンを押すタイプの物を使うのが主流で、当時は三菱のBOXYシリーズってのが特に定番でした。
そのBOXYシリーズこそ70年代のカー消し人気に拍車を掛けた立役者で、その影響は80年代初頭に小学校低学年だった俺らの頃まで続いてたんですね。
BOXYは文房具のブランドとして人気があって、黒を基調としたシンプルなデザインも当時の文房具としてはオシャレな部類でした。
今時で解り易く言うと、無印良品のシンプルさをスタイリッシュと評価する様なもんですかね、当時のBOXYシリーズもあんな感じの印象だったんです。
当然、たかが知れてはいるけども、他のメーカーの文房具よりも若干高かったりもしましてね、小学生にしてみれば高級品のイメージだったんですよ、ペンとか消しゴムなんか以外は。
さて、少し話は変わりますが、当時の俺らの文房具と言えば、アニメや漫画で人気のキャラものであったり、子供騙しなんだけど確実に子供ウケするタイプの物が多かったんです。
まぁ、鉛筆やシャーペン、消しゴムの類は、物が物だけに捻りのあるアイデア商品を作る方が難しいと思うんだけども、子供ってのはくだらなくても普通とは違うものに惹かれるんですよ。
だから、鉛筆やシャーペンに無駄でしかない飾りが付いてたり、色んな香りのする消しゴムなんかをついつい買ってしまう。
書くのに邪魔とか、大して消えないとか、そんな実用性の部分はさて置いて、とにかくはビジュアル的、感覚的に奇抜な物がキャッチーなんですね。
だから、当時の俺らも男子と女子で差はあれど、ほとんどの連中が子供騙しなアイテムにまんまと騙されてたりした訳です。
時代的な流れはよく解らないけども、当時の俺らの筆箱の主流は、プラスチック製のボディに片開きの蓋が付いて、蓋の表面がビニールコーティングされてる様なやつでした。
蓋は磁石でロックされる様になってて、中は消しゴム入れとかペン入れがパーテーションで区切られてるという、さながら小さい弁当箱みたいな感じ。
そういったタイプが全国的に人気だったのか、最初はわりとシンプルだった筆箱の構造も徐々に捻りのある物になり出して、表裏どちらも使えるタイプだの、ペン差しが飛び出すタイプだの、やたらと細かい収納があるタイプだのと、最終的にはエスカレートしすぎてホントの弁当箱に近いサイズの物まで出る始末。
まぁ、奇抜な物がキャッチーだったんで、それはそれでアリだったんですけどね、当時は。
で、そんな筆箱が主流だった頃は、俺も例に漏れずそのタイプの筆箱を愛用してました。
わりと丈夫ではあるんだけど、蓋の表面がビニールコーティングですからね、図工でカッターを使えば、なんとなくそのビニールまで切ってみたり、手持ち無沙汰でムニムニとビニールを摘んでる内に伸びてしまったり、そんな余計な事をしてビジュアル的に美しくない状態にしちゃう訳なんですよ。
別に俺自身はそれでも全くOKで、実際使えてるんだから蓋が壊れでもしなければ取り替える必要は無いと思ってたし、何よりも毎日使ってる物だけに愛着があるんですよ、どんなボロボロでも。
大体、そんなみっとも良いとは言えない見栄えにしたのは自分自身ですから、ある意味でそのボロボロ感こそが俺仕様な訳でね、他に無いと言う意味では何よりも自分にとってキャッチーなんですよ。
さて、ところがですよ、そんな俺の筆箱への愛着を知らない母親という生き物が登場しまして、ふと見た我が子の筆箱の有様に 「これは買い替えなきゃダメだわ」 という大人判断を勝手に下してしまう訳です。
当の俺はと言うと、知らないところでそんな強行採決が下されているとは露知らず、いつもの様に起きてメシを食い、いつもの様に仕度をして友達と登校しました。
教室に入って他のクラスメイトと挨拶を交わし、自分の席に着いてランドセルを開きますよ。
特に機嫌が良い訳じゃないけど、別に機嫌が悪い訳でもなく、今みたいに汚れきって荒んで擦れてひん曲がってもない頃の純粋な俺でしたから、何も無くたってにこやかな朝ですよ、そりゃ。
そんなにこやかな俺の表情は、次の瞬間に強張って怒り顔になる訳です。
いや、正確に言えば、そんな顔になる前に数十秒ほど怪訝な表情だったと思いますがね、すぐには事態が飲み込めなかったもんで。
「あれ?なにこれ。え?・・・誰の?」 みたいな事を普通に言ったはずです、その時の俺。
その声に周りの何人かがこっちに視線を向けたのも覚えてます。
で、察したんです、その見た事も無い新品のBOXYのカンペンケースが、他の誰の物でもなく俺の物なんだって事を。
そりゃ俺のですよね、登校してまず開いたランドセルの中から出て来たんだから。
つまり、愛着のある古い筆箱は勝手に捨てられて、欲しいと思った事もなければ今まで見た事もない、愛着が湧く要素の欠片も無い物が代わりに宛がわれてた訳です。
今ならそれほど腹は立たないのかも知れないけども、その時の俺は一気にブチ切れちゃいまして、恐らく結構な大声を上げつつ、その新品のカンペンケースを床に叩きつけて力一杯何度も踏み付けましたよ、多少の罪悪感を覚えつつ。
その寸前、隣の席辺りの女子の誰かが 「あ、BOXYだから良いやつじゃん」 とか言ったんですよね、記憶に間違いが無ければ。
その頃の俺はBOXYがブランドだって事も、わりと高級だって事も知らなかったもんで、「え?これ、良いやつなの?」 と心の中で一瞬だけ躊躇して、おかげでブチ切れの勢いが半減しちゃったんです。
まぁ、それでもかなり怒りを込めて踏み付けたんだけど、新品のBOXYのカンペンケースの野郎はえらい頑丈に作られてやがってw、結局は明確に壊れるほどダメージは与えられず、むしろ俺の足の方が痛くなったという・・・w
ってか、キレた勢いで踏み付けたは良いものの、少なくともその日一日は他に代用品も無い訳で、結局は多少ヘコんで歪んだカンペンケースを拾い上げて、とりあえず使う以外にないって事に気付きました。
なんでしょうな、一度否定したものを受け入れざるを得ない時のあの敗北感と挫折感。
カンペンが憎くて叩きつけたのに、鉛筆やら消しゴムを拾わされてる負け犬っぷりったら、そりゃあもう泣きそうでしたよw
今の俺なら意地でもぶっ壊して、勝手な事をした母親の前に放り投げるんだろうな、余計な邪魔すんなとかなんとか怒鳴りつけて。
まぁ、この歳で考えればそこまでキレるって事でもないけども、自分の領域を侵されてへっちゃらな人間にはなれないし、なりたくもないからなぁ。
それは心が広いとか懐が深いとか寛大だって事じゃなく、単純にバカだったりヘタレだったりアイデンティティーが無いだけなんだと思うし。
そんなのを平和主義とか優しさと勘違いしてる人も多いんだろね、きっと。
え~と・・・結局、家に帰ってから筆箱について母親に文句らしい文句を言った記憶が無いんで、恐らくは泣き寝入り状態で終わっちゃったんだろうなと。
ひょっとしたら、当時はもう母親が夕方からパートを始めてて、俺が帰宅した時点で家に居なかったのかも知れない。
覚えてるのは、そのBOXYのカンペンケースをその後もしばらく使ってた事と、精一杯の反抗としてめちゃめちゃ乱暴に扱ってた事。
その頃から好き嫌いがハッキリしてた訳ですな、考えてみれば。
あのカンペンケースがすんなり壊れてくれてたら、これほど記憶に残る事も無く、今頃はすっかり忘れ去ってたかも知れない訳で、そう考えると、結局は俺にとって永遠に壊せないままのカンペンケースになっちまったんですよ、奴は。
とまぁ、そんななんでもない過去の話でした。