え~、8月に入ったら書こうかなと思ってたネタなんですが、なんだかんだで9月入っちゃいました。
まぁ、今年は残暑厳しいって事で、このタイミングでも良いかなと。
特に実害も無く、それほど怖い話って訳でもないんですが、気味の悪い話である事に間違いはないんですよ。
この話はウチの親父が体験した出来事です。
ウチの親父、元々は自衛官で、退職した後に入った会社も今年の春に辞めましてね、今は隠居の身と言いますか、引退生活を楽しんでる真っ只中。
話って言うのは、その春に辞めた会社に勤めてた頃の事で、もう何年も前の話なんですよ。
辞めた会社って言うのは、俺も親父のコネで働いてたところで、本来は造園屋なんです。
ところが、亡くなった先代の社長って人がかなりのやり手だったらしくて、本来ならウチの会社みたいな一般の中小企業が請けられない仕事まで取って来たんですね。
どうやら当時の大物政治家なんかとも交友があったらしいって事なんですよ。
そんな事もあって、ウチの会社は当時の住宅公団、今で言うUR(都市再生機構)の仕事を請け負ってましてね、それほど数は多くないんですが、幾つかの団地の補修と清掃業務もやってた訳なんです。
で、ウチの親父ってのは、その幾つかある団地の内の一つで営業所長を任されてたんですね。
営業所長って聞こえは良いけども、実際のところは現場監督なんですよ。
なんせ、営業所って言っても看板は無いし、そもそも事務所は正規に借り受けてるものじゃなくて、公団からタダで借りてる元焼却施設だった部屋でしたからね。
とにかく所長とは名ばかりで、実際は現場監督。
それも作業を指示するだけの監督じゃなしに、自分も現場に出て作業員と同じ様に働いてましたからね、いわゆる普通の監督ってもんでもなかった訳です。
ウチの事務所の管轄ってのは、その拠点にしてる団地と、駅向こうにある小規模な団地の二ヶ所なんですが、その頃は公団の指示でわりと近場な他の団地の仕事もコンスタントにやらされてたんですね。
で、その内の一つってのが、手賀沼のすぐ傍にある団地。
今回のこの話、舞台はその手賀沼なんです。
手賀沼って言っても、全国規模ではさほど有名じゃないと思いますがね、かつては水質汚染で日本一汚い沼として知られた場所で、あまり良い方では有名じゃないんです。
結婚前に当時の紀宮さんが非常勤の研究員で居た山階鳥類研究所ってのがあるぐらいで、とにかく汚い沼ってイメージばっかりが強い場所なんですね。
沼って言っても、この手賀沼、規模としてはかなり大きいんです。
高度成長の前辺りまでは水も綺麗で、漁なんかも盛んに行われてた場所らしいんですね。
大規模な干拓事業で沼の8割ほどは埋め立てられたらしいんですけど、それでも沼としては大きい方ですよ。
ですから、夏になると花火大会なんかもありましてね、手賀沼の花火大会はこの辺りじゃ有名なもんなんです。
さて、話と言うのはまさに夏、手賀沼の花火大会の日の事なんです。
毎年8月に入ると、江戸川だのどこそこだのと、この辺りでも花火大会があちこちで開かれる。
そして手賀沼の花火大会の日が来たんです。
その日、親父はいつになく帰りが遅くて、普段は19時か20時辺りには帰って来るのに、22時頃になって帰って来たんです。
たまたま俺が二階の自分の部屋から降りて来ると、ちょうど親父が帰宅したところ。
今日は遅いんだな~ぐらいに思って、「今日遅いじゃん?」 って訊いたんですよ。
「花火大会だよ、手賀沼の」 と親父。
それで、あぁ、なるほどと納得しましてね・・・と言うのも、会社には事務員が二人居るんですが、その内の一人、仮にYさんとしときますが、そのYさんってのは自分が興味ある事だと仕事そっちのけでそっちに行っちゃう様な人なんですよ。
俺も何度となく酷い目に遭わされてるんで悪口言えばキリがないんですが、とにかく色々ととんでもない人でして、そんな人だからって事もないんだけど、祭りなんかが好きなんですよ、そのYさん。
だから、毎年その時期、手賀沼の花火大会の日になると、仕事を早めに切り上げて、もう一人の事務員のTさんと親父と3人で、手賀沼まで花火見物に行ってたんですね。
それですぐに親父の帰りが遅かった事に納得した訳なんです。
ところが、なにがって事でもないんですが、なんとなく親父の様子がおかしいんですよ。
仕事終わりに花火見物で疲れてると言えばそうなんでしょうけども、仕事疲れって感じのテンションの低さじゃないんです。
なんだろな~と思ってると、唐突に親父が 「いや~・・・変なもん見ちゃったよ」 と一言。
やけに実感こめてね。
翌日は俺も仕事に出たもんで、仕事帰りの車ん中で 「そういや昨日、変なの見たって何よ?」 と訊いてみたんです。
親父は 「ん? あぁ、あれなぁ・・・」 と、何か思い出した様に嫌な顔をしながら昨晩の出来事を話してくれました。
手賀沼の花火大会が開かれるという事で、例年の如くYさんが行こうと言い出し、職人達や清掃員達にいつもより30分ほど早く仕事を切り上げさせると、親父も手早く日報を仕上げ、YさんとTさんを連れて手賀沼へと向かった。
花火見物と言っても、親父達は大会の会場へは行かないんですよ。
とにかく人が多くて花火どころじゃないし落ち着かない。
若い連中みたいにキャーキャー騒ぐ訳でもなければ、露店の食い物目当てでもない訳ですからね。
沼の近くにわりと新しい道路が通ってて、その道沿いにあるレストランで晩メシを済ませた後、沼のすぐ近くの農道へと向かう。
手賀沼の辺りってのは広~い田園地帯になってる場所があるんですよ。
一面ず~っと田んぼですからね、見通しは良い訳だ。
特に高いビルや建物もありませんからね、多少小さいとは言っても花火は綺麗に見えるんですよ、そこら辺は。
それに、農道だから陽が落ちれば人なんか来やしない。
なんせ、外灯すらない農道で、対向車が来たら擦れ違えない様な細い道ですからね、舗装こそしてあれど、大昔から時間がほとんど進んでない様な場所なんですよ。
穴場と言えば穴場の様な、そんな場所なんです。
外灯は無くても車ですからね、ヘッドライトで道は見える。
田んぼの向こうの方では花火が綺麗に打ち上がって、少し遅れて花火の重低音が聞こえる訳だ。
「この辺で良いんじゃない?Aさん(親父の事)。 花火、綺麗に見えるわよ」
Yさんが言った。
徐行しながら親父もそれを確認すると、少し先に見つけた路肩に車を停めた。
その場所ってのは、恐らく農家が作業の時に軽トラかなんかを停めてる場所らしくて、一応は親父のハイエースもギリギリ停められるだけのスペースがあった。人通りが無いとは言え、道路を塞いで花火見物って訳にも行かないんで、ギリギリでも道路を空けて停められる場所がすぐ見つかったのはラッキーだった訳だ。
路肩の左側は道路を挟んですぐに田んぼ、一面の田んぼがずっと向こうまで広がってる。
で、路肩の右側、要するに親父の居る運転席側のすぐ向こうは、よく見かける金網のフェンスが道沿いにず~っと伸びていて、フェンスの向こう側はわりと角度のキツい丘みたいになってる。
どうやらその丘、農業用の用水路らしいんだな。
普通は用水路って言うと小川みたいになってたり、U字溝の大きなやつみたいなので作ってあるもんだけども、そこのは小高い土手があって、その両側の土手の中央に比較的大きめの用水路が作られてるらしい。
その昔、それこそ手賀沼が日本一汚いなんてレッテルを貼られるずっと昔の江戸時代、当時の干拓工事が計画として上手くなかったらしくて、何度もその辺りは洪水被害が出てたらしいんですよ。
そんな事もあって、その辺りの用水路は大水を想定した作りになってるのかも知れないですね。
要するに、用水路そのものが堤防の役割も果たす作りなんでしょうね。
さて、都合良く見物場所を確保した3人は、クーラーの効いた車内から花火を見ながら世間話なんかをしてたそうです。あーでもない、こーでもない・・・と、そもそも親父も含めて風情だの何だのってタイプじゃないんですよ。
花より団子じゃないですけどね、花火を見物しに行ったんだか、普段と同じ様な雑談をしに行ったんだか解ったもんじゃないんです。
大体、そんな風情のある人なら車の窓越しに花火見て満足なんかしやしないんですから。
画像はその時の車内の配置です。緑のが親父で、その後ろの青がTさん、紫がYさん。
さて、雑談をしてると、ふとYさんが親父の方を見ながら口を開いた。
「あら? 今誰かそこ居なかった?」
親父はYさんがまた子供じみた悪ふざけを言い出したんだと思ったそうだ。
「またぁ~。 Yさんね、そんな子供じゃないんだから俺は怖かないよ」
「いや、ホントよ!」
Yさんはムキになって嘘じゃないと言い張る。
「ま~ったく・・・こんなトコに誰も居っこないだろ~」
親父は相変わらずYさんの悪ふざけだと思って嘲笑するものの、Yさんは尚更ムキになって反論するばかり。
「ホントだってば! Aさんの窓の所から男の人がこっち覗いてたのよ!」
そうなると親父も変に対抗心を燃やす。
「じゃあYさん、どんな奴が居たか言ってみなよ?」
「チラッとだったし顔はよく見えなかったけど、自転車乗った男の人が居たんだってば!」
Yさんは確かにしょうもない嘘をついたり子供じみた悪ふざけなんかをする人ではあるものの、基本的に単純な性格だから解りやすくもある。
嘘をつけばその嘘はバレバレだし、何か魂胆がある時も様子が違うからすぐ解る。
つまり、そこでそれだけ頑なに事実だと言い張るって事は、見間違いや勘違いはあるにしても何かしら見た事はほぼ間違いないとも言える。
その事は親父も嫌ってほど解ってるもんだから、Yさんの頑なな態度に少々考えを改めたそうだ。
「自転車~?」
親父はまた半ば疑いながらも、窓の外をちゃんと目視してみた。
ひょっとしたら、変質者か不審者みたいな奴がたまたま通り掛かって、カップルがイチャついてるんじゃないかと覗いたのかも知れない・・・と思ったそうだ。
もし本当に誰か居たんだとすれば、それ以外に考えつかなかったから。
ところが、外をちゃんと確認すると、その考えすらありえない事に気付いた。
となれば、やはりYさんの見間違えか勘違いだろう・・・という結論になってしまうのがウチの親父。
「Yさんね、ほら、見てみな? 窓の外なんて誰も居ないから」
「だから、居たの!」
「だって見てみなってば、窓の外なんか人入る隙間無いんだから」
「えっ!? だって、ホントに居たのよ!?」
親父の居た運転席側の窓の外は、前記した様にすぐ脇にフェンスがあり、フェンスの向こうは急勾配の水路の丘。道路を空ける為にギリギリまで詰めて停めた為、車とフェンスの間はたかだか数十センチ程度。
その隙間に人が入るのは不可能じゃなくても難しいし、自転車に乗っていたとなれば絶対にありえないという事になる。
自転車の入る隙間はどう見積もっても絶対に無い。
もしフェンスの向こう側に居たとすれば可能だが、そうなると不思議なのが自転車。
Yさんの見たという男は自転車に乗っていたと言うが、フェンスは道沿いにずっと伸びていて切れ目のある場所はそうそう無い。
地元の人ならそれを把握している事はあるだろうが、それならどうして農道ではなくわざわざまともな道も無い水路の土手を走っていたのか。
農道は水路沿いにあった訳だから、わざわざ足場の悪いフェンスの向こうを行く必然性は無いのに。
それに、Yさんの言う様に車内を覗き込んでいたとなると、距離的に少々無理がある様に思える。
水路側から車内を覗こうとすれば、フェンスの際まで来て首を伸ばさないと難しい。
大体、その状態で覗いてる顔が見えたとしても、せいぜい腰の高さぐらいまでしかない自転車がYさんに見えるはずがない。
もしありえない様な位置を自転車が走っていたなら話は別だが・・・。
「絶対嘘じゃないからね! ホントに誰か覗いてた!」
Yさんがしつこく言ってうるさいので、親父は少々面倒になったのもあってヘッドライトをつけた。
本当に誰かしらが居たのであれば、ヘッドライトに照らし出されるだろうという事で。
「あ・・・居た居た。ホントだ、居るよ」
ヘッドライトに照らされた10mほど前方の土手、確かに自転車に乗った人物が居た。
そいつは確かに自転車に乗っていたし、しっかりとペダルを踏み込んでもいたんだが、親父はそれを見て背筋が寒くなったそうだ。
と言うのも、ヘッドライトに薄っすらと照らされたその自転車の男、足場の悪い草むらで全く左右に揺らぐ事も無く、スーーーッと滑る様に進みながら急勾配の土手を上って行ったらしい。
外灯一つ無い農道脇の急勾配な土手、無灯火で滑る様に移動する男。
そいつは果たして何者だったのか。
窓の外から何を窺っていたのか。
親父達は気味が悪くなり、逃げる様にしてその場から離れたそうだ。
後日、俺はYさんにその男の事を聞いてみた。
Yさんが言うには、その男は自転車を停めたまま、運転席側の窓から身動き一つせずに車内をジッと窺っていたという事だった。
翌年から、親父達が手賀沼の花火見物に行く事は無くなった。
ハィ、俺の数少ない持ちネタの怪談でした。
実話怪談の多くがそうである様に、オチも無いし派手さも無いんですが、この話はリアルすぎて俺は怖いんですよ。
親父はもとより、Yさんの事もTさんの事も嫌ってほどよく知ってるし、実は親父から話を聞いたしばらく後、仕事で手賀沼の傍の団地に行きましてね、その帰りに現地に寄り道してもらったんです。
だからこそ具体的に場面場面の光景が目に浮かぶし、現地の空気感みたいなもんも知ってるんですよね。
ちなみに、話として語れるほどのもんはこのネタぐらいしかないんで、次のネタとか来年のネタとか期待しないで下さいw
それより、地味に頑張ってしまった今回のイメージCGを誰か褒めてw
一晩で作った後に本文書き・・・で、丸一日潰れましたw
目がヤバいから寝ますw