GPファイナルのジャッジは甘い?宇野昌磨『NHK杯のジャンプのほうがよかった』

【ミスが許されないハイレベルな戦い】

 『去年とは比べものにならないですね。同じ優勝だとしても、去年は2個ミスしてもフリーは大丈夫というイメージでしたが、今年はたぶん、ノーミスに近い……ミスがあってもステップアウト1個とか、それくらいの演技をしなければいけないと思っています。僕は過去に、そういう演技を何回したんだ、という感じですけど』

 

  12月7日から中国・北京で開催しているフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルの競技前日、連覇への手ごたえを聞かれた宇野昌磨(トヨタ自動車)は笑いながらこう話した

 

  その宇野の予想どおり、初日の男子ショートプログラム(SP)はハイレベルな展開となった

 

  先鞭をつけたのは、2番滑走の宇野だった。前日の公式練習でジャンプは好調だった。だが宇野は『急にできるようになったが、根拠がわからないので、自分としては好ましくない。明日(7日)の練習で失敗するものは失敗すれば、帳尻があってくると思います』と話した。そして、直前の6分間練習では4回転フリップに苦しみ、2度転倒していた

 

『けっこうてこずっていましたね。僕は理由があって跳びたいのでいろいろ試していたけど、なかなかうまくハマらず……最終的には気合いでというか、力でねじ伏せようと思っていきました。だからすごい方向に跳んでいったけど、よくおりられたn

 

『けっこうてこずっていましたね。僕は理由があって跳びたいのでいろいろ試していたけど、なかなかうまくハマらず……最終的には気合いでというか、力でねじ伏せようと思っていきました。だからすごい方向に跳んでいったけど、よく降りられたなと思って』

 

  こう語ったように宇野の最初の4回転フリップは、着氷後は体が少し振られるような形になった。厳しいジャッジだった前戦のNHK杯フリーを思えば、今回のジャンプも不完全と判定されてもおかしくなかった

 

  結果は、GOE(出来ばえ点)加点は2.20点と少なかったものの、認定されるジャンプとなった。判定に対して宇野は『僕の口からは何も言えませんけど、言えるのはNHK杯のフリーのジャンプのほうがよかったということです』とほほ笑む。この日行われたジュニアGPファイナル男子と女子、そしてシニア男子の結果を見れば、回転不足をとられたのは、トリプルアクセルが明らかに両足着氷だったジュニア男子の1名だけだった

 

『NHK杯のほうが、滑っている感じももうちょっと地に足がついていたかなと思う。たぶん、それは練習内容からくるものだと思うけど、毎回いい状態でくるなんてまずないのでこういう試合もある。そのなかでよく合わせたなと思います。でも今日、僕の中で考えていたのはトーループとアクセルをちゃんと跳ぶことと、ショートとしていいものをつくるということだったので。その点では次の大会へ向けて「ここをもうちょっと滑り込みたいな」というのも出てきているので、改善できたらなと思います』

 

  次の4回転トーループ+3回転トーループはきれいに決め、トリプルアクセルは軸がやや動いたが2.40点の加点をもらうジャンプ。そしてステップシークエンスは、振付けをしたステファン・ランビエルコーチが求めるとおりの、メリハリがあり感情がにじみ出てくるような滑り。宇野も『気持ちを込めて滑れた』と自認するものだった

 

  そのステップとスピンはすべてレベル4にし、演技終了時点で今季世界最高点の106.02点をマーク。だが、宇野は冷静な表情で『たぶん、すぐに超えられると思いますよ。次の優真くんの得点はまだ出ていないけど、105~108点。みんなそんな感じだと思います』とあっさり言った。それでも、『ステファンからは、今回はベースの力を出したから、次はチャレンジできるようにと言われました』と、その先を見据える意欲も口にした

 

【優勝はマリニンか宇野か、それとも…】

  続く滑走の鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)もノーミス。『フランス杯からノーミスを続けられているいるのは成長につながる』(鍵山)という滑りだった

 

『ジャンプは全部危なかった感じもした。4回転トーループ+3回転トーループも降りた瞬間にいつもなら2回転にするような状況だったけど、勝ち抜いていくためには絶対に3回転をつけなければという思いもあった。そのあたりはしっかり踏ん張れてよかったと思います』と鍵山。103.72点を獲得し、地力を見せつける納得の滑り出しとなった

 

  宇野、鍵山のふたりの得点を超え、会場を驚かせたのは5番滑走のイリア・マリニン(アメリカ)だった。冒頭に入れた4回転アクセルをきれいに着氷し、3.04点を加えて15.54点を獲得する滑り出し。そのあとの4回転ルッツ+3回転トーループ、トリプルアクセルも着実に決め、ステップもスピンもレベル4にして、自己最高の106.90点を獲得した

 

  マリニンの4回転アクセル入りのプログラム構成は、7月の『ドリーム・オン・アイス』の最終日に挑戦していたもの。その時は失敗していたが、11月上旬のフランス杯を終えてから『ファイナルで挑戦しようと考えていた』とマリニンは明かす。『サプライズにしたかったので、前日には言わなかったし、挑戦もしなかった』と話す

 

  今季は合計を300点台に乗せているアダム・シャオイムファ(フランス)が、冒頭の4回転ルッツのパンクでトップ争いから脱落したのは残念だが、前日に宇野が話していた『見る人にとっては本当に面白い試合』となっている

 

  マリニンのフリーの自己最高は、今季のスケートアメリカの206.41点。これまでの4回転の本数を抑えていた構成を変えてくるかも注目

 

  宇野はNHK杯での納得の滑りにジャンプもついてくれば、昨季のGPファイナルで出した自己最高の204.47点を大きく更新することができる。4回転2本構成の鍵山は厳しくなるが、フリー自己最高の207.17点を持つシャオイムファを含めて、ミスができない男子フリーは、しびれる戦いになりそうだ