“2年前の脱臼事故”から復活の表彰台…佐藤駿19歳のスケートはどう進化したのか?今季も凄いマリニンは『芸術性と創造性を追求する』
10月20日、テキサス州ダラス郊外アレンで今季GPシリーズ開幕戦、スケートアメリカが始まった。初戦であるにもかかわらず、男子シングルはレベルの高い素晴らしい戦いが繰り広げられた
優勝したイリア・マリニン、2位フランスのケビン・エイモズに続いて3位に食い込んだのは19歳の佐藤駿だった
SPは宮本賢二振り付け、アストル・ピアソラのタンゴで冒頭の4+3トウループがきれいにきまった。続いた4回転フリップはステップアウトになったものの、持ち直して3アクセルを降りて91.61を獲得し、自己ベストスコアを更新した
『フリップを跳ぶ前にエッジがひっかかってしまったんですけど、しかっかり回り切ることができて、ステップアウトにはなったけれど、大きな転倒とかしなくて良かった。ジャッジの皆さんとしっかり視線を合わせることができたと思います』と手ごたえを口にした
叩き込まれた“スケートの基礎”
このGPの目標を聞かれると、『順位ももちろん大事だと思うんですが、それよりも、今シーズン、佐藤駿が変わったというところをジャッジやファンの皆さんに見せられるような、そんな演技をしたいと思います』と語った
もともとは高い4ルッツなど、優秀なジャンパーとして知られる佐藤。だが今季は2022年北京五輪アイスダンス金メダリストのギョーム・シゼロンにフリーの振付を依頼し、オフシーズンの間にカナダでスケーティングを基礎から改めて叩き込まれたのだという
『初日はスケーティングを一緒に2時間くらいして、もう少しフリーレッグを意識した方が良いよ、と教えてもらった。ギョーム先生は一歩の滑りが全然違うんです』
新フリーの音楽はヴィヴァルティ『四季』のアレンジで、アイスダンサーが振り付けた作品らしく内容の濃いプログラムに仕上がった
2年前の事故から“復活の表彰台”
フリー当日、睡眠がうまく取れずに体調が今一つだったという佐藤。いくつか細かいミスは出たものの、それでも大きく崩れることなく最後まで滑り切り、合計247.50点で3位を守った。『普段の練習から基礎的なことをたくさんしてきて、そういったことがプログラムに生きていると思います。ジャンプも流れに乗せてのジャンプが跳べるようになった』と自分の成長も感じている
『スケーティングが一番、フィギュアスケートにとっては大事だと改めて思いました』
実はこのスケートアメリカは、2年前に海外シニアGP初戦として出場したものの、公式練習で転倒して左肩を脱臼するという事故に見舞われた大会だった。2022年2月に手術を受けて復帰した佐藤にとって、2年ぶりの再挑戦となった。『(この大会に)あまり良い思い出がなかったんですが、今回は表彰台に上がれたので良かったなと思います』と笑顔を見せた
18歳マリニンには昨シーズン以上の“凄味”が…
優勝は23年世界選手権銅メダリスト、イリア・マリニンが2年連続で手にした。『クワッド・ゴット』の異名を持つ天性のジャンパーだが、彼もまた今季は表現力の強化に力を入れてきた
SPはシェイリーン・ボーン振付の『マラゲーニャ』で艶やかで赤いシャツに身を包み、長い四肢を駆使してフラメンコを演じきった。4トウループ、4ルッツ+3トウループ、3アクセルを完璧にきめ、同大会史上最高スコア104.06を獲得。一つ一つの動作がリズムにのってキレがあり、昨シーズンにはなかった凄味が感じられる
『今日は自分のスケート人生の中で最高の演技の一つといえる滑りができた。音楽に入り込んでいたので、周りが全く見えなかったけれど、後半になってはじめて観客が大歓声を送ってくれているのに気が付きました。これまでの自分だったら選ばなかった種類の音楽に、あえて挑戦したんです。今季は芸術性と創造性を追求していきます』
『ネイサンやユヅル・ハニュウの映像を見て…』
フリーはドラマシリーズ『サクセッション』のサントラで、4アクセルは入れなかったものの、2度の4ルッツ、4サルコウ、4+3トウループなど最後までミスなく滑り切った。206.41、合計310.47でパーソナルベストを更新。ネイサン・チェン、羽生結弦、宇野昌磨に次ぐ歴代4位の総合スコアを手にした。コンポーネンツスコアも8点台の後半を獲得して、7点台もあった昨シーズンよりも着実な成長を見せている
『過去の名演技、ネイサン(・チェン)やユヅル・ハニュウなどの映像を見て、彼らがどのようにプログラムにアタックしているか、観客とつながっているのかを参考にして、自分ももっと色々な意識を持って演技をするようになったんです』
今年の6月に高校を卒業したマリニンは、現在は地元の大学で2クラスをとっている。その一つは『コンテンポラリーダンス』だという。これからさらにアーティストとしても成長していきそうだ
圧巻の『ボレロ』を滑り切った26歳エイモズ
2位に入ったのは、マリニンよりも8歳年上の26歳のフランスのケビン・エイモズだった。4回転はトウループの1種類のみだが、音楽表現で高い評価を受けるベテラン選手。SP当日の公式練習ではジャンプが不調に見えたが、本番では4+3トウループを成功させ、ノーミスで滑り切った。だがその本領を発揮したのは、翌日滑ったフリー『ボレロ』だった
多くのスケーターに使われてきたラベル作曲の『ボレロ』だが、エイモズのインスピレーションはモダンバレエの巨匠、モーリス・ベジャールによる有名なバレエ作品だという。バレエダンサーとエイモズ本人のコラボで振り付けたこのプログラムは、フィギュア史に残るのではないかと思わせてくれるインパクトの強く、迫力に満ちた作品だった。総合279.09の最高点を手にして2位に入った
シニアGPデビューの19歳の吉岡希は、今季は初めてローリー・ニコル振付のSPに挑戦。SPで4位と好調なスタートを切り、総合6位と健闘した。20歳の壷井達也はフリーの3ループで大きく転倒し、手首を痛めてしまったが、リカバリーして最後まで滑り切り、総合8位だった
全体的に今季は表現力の強化を意識した選手が多い印象の、GP開幕戦だった