米は1日150gだけ、水を飲むと『太る』 中野友加里が語る女子フィギュア選手の減量【THE ANSWER Best of 2021】

 『THE ANSWER the Best of 2021』 フィギュアスケート選手のダイエット

 東京五輪の開催で盛り上がった2021年のスポーツ界。『THE ANSWER』は多くのアスリートや関係者らを取材し、記事を配信したが、その中から特に反響を集めた人気コンテンツを厳選。『THE ANSWE the Best of 2021』と題し、改めて掲載する。今回は連載『THE ANSWER スペシャリスト論』からフィギュアスケートの中野友加里さんが語った『フィギュアスケート選手のダイエット』前半部分をお届けする

 

 体重管理が厳しい競技として知られるフィギュアスケート。実際、選手たちはどのようにコントロールしているのか。フィギュアスケート選手にとって体重の軽さがもたらす優位性、中野さんが現役時代に実践したダイエット法について聞いた

 

――今回はフィギュアスケート選手のダイエット事情についてお聞きします。フィギュアスケートといえば、繊細な体重管理が求められる競技ですが、そもそも体重の増減はどのような部分に最も影響が表れるのでしょうか?

 

 一番はやはりジャンプです。理由は単純ですが、500ミリリットルのペットボトルを飲んだら、その分だけ体が重くなります。500ミリリットルのペットボトルを持って跳ぶのと同じ状態。当然、滞空時間は短くなるし、回転速度も落ちやすい。ぜひ、鉛筆をイメージしてみてください。。鉛筆のように細い物は速く回転しやすいですよね

 

 今、ロシアの若い女子選手が次々と4回転ジャンプを成功させているのはもちろん、本人が持つ能力、現代のスケート靴の性能という変化もありますが、一番は体重が軽いことです。反対に、身長が高い人ほど、それは難しくなります。軸を取ることが難しくなり、体重も身長に比例して重くなるので、体格面から難しさが生まれてきます

 

――軸を取りにくいというのはスケート選手独特の感覚ですね

 

 要は長い物と短い物の差です。長い物は回るのが大変ですし、私みたいに小さい体(156センチ)で割と軽ければ、体の軸がブレにくく回転軸も取りやすい。体重が増えることで、回転速度が必要になるスピンも実は影響が出ます。一方で、体重が増えても、スケーティングの深み、味わいが出る、ディープエッジに乗りやすいというメリットもあり、一概に痩せればいいわけでもありません。痩せすぎて女性としての魅力を失う選手も見てきたので、痩せすぎても太り過ぎてもいけない、難しいバランスを求められます

 

アリーナ・ザギトワ選手

――最近でいえば、平昌五輪金メダリストのアリーナ・ザギトワ選手(ロシア)も身長が伸びたことで不信を経験しました

 

 ザギトワ選手のように身長が伸び続けると、とてもスタイルが良く見映えも美しいですが体重も増えてしまいます。人間の体積の問題です。体重が増えると、今まで跳んでいた滞空時間と回転速度ではうまく折り合いがつかなくなり、バランスが崩れてしまう。さらに、身長が急激に伸びると軸が取りにくくなり、ジャンプの感覚も今までとタイミングが変わり、ザギトワ選手の場合は少しずつバランスが崩れていったのではないかと想像します

 

15歳で『体重』を意識し、変わった食生活『壮絶でした』

――中野さんの経験もお聞きしたいのですが、競技生活で初めて『体重』を意識したのは何歳でしたか?

 

 よく覚えています。中学3年生だった15歳です。それまでは身長が伸び、体が縦におおきくなるので、たくさん食べても太りませんでした。でも、ある日を境に身長が止まったら、少女から女性の体付きに変わるために(成長が)横に行くしかない。それが15歳でした。気付いた時には変化が起きていて、コーチから『どうにかしないと跳べなくなる。とにかく痩せて』と言われました。その時は言われている意味がよく分かりませんでしたが、本当にあっという間に跳べなくなりました

 

 一番ショックだったのは、トリプルアクセルを跳べなくなったことです。14歳から跳べていたのですが、体重が増えたことで回転力が落ちてしまい、3回転半回り切らなくなりました。最初はほかの3回転ジャンプで演技はごまかせていたのですが、それも次第に回転不足になって……。痩せなきゃいけないという目標がある半面、食欲もすごく旺盛な時期なので、心の中でせめぎ合いでした。そんな私を見て、母にダイエットのスイッチが入ったんです。食事の内容も変わり、壮絶でした

 

――食生活はどう変わったのでしょうか?

 

 まず、今まで好きなだけ食べていたお米をグラムで量り、1日に決められた量120~150グラムしか食べないようにしました。そのうち、油物も一切やめ、甘い物も絶対にダメ。母は部活で『水を飲んだら太る』と言われていた世代だったので、私も『水を飲んだらその分、太ると思いなさい』と言われました。あとは白米も玄米に変え、とにかくヘルシー志向で。ただ、チョコレートが大好きだったので、どうしても我慢できない時には母に隠れて、こっそりと食べていました……(笑)

 

――3食のメニューはどんな内容だったのですか?

 

 朝は食パン1枚です。バター、マーガリンはダメで何もつけない。もしくはクリームなどが入っていないパン。昼はお弁当を作ってもらい、グラムを量ったおにぎりと茹で野菜、肉は必要なのでウインナー。あとはタンパク質を取るために卵焼き。それくらいなので、甘い物が食べたいと言ったら増えたのは果物だけ。夜もお弁当です。昼と同じような内容で、練習の合間に食べるという食生活を送っていました

 

――かなり過酷ですね。教室でそれだけ管理された弁当を食べていたら友達に心配されませんでしたか?

 

  女子校だったので、食べない子は量をそれほど食べない。なので、浮いていたわけではないのですが、逆にシンクロナイズドスイミングをやっていた友人は増量しないといけなくて、本人が気持ち悪くなるほどのお弁当を食べていて……。私は痩せなきゃいけない、彼女は太らないといけない競技によって、どちらの競技も大変だなと思ったことは覚えています

 

――それだけの食事量で練習はエネルギー的に大丈夫だったのですか?

 

 私は『空気を吸っても太る』と言われるくらい、何をしても太る時期で(笑)。エネルギーはあり余っていたのですが、なかなか痩せず……。ただ、体重計に毎日乗って記録をつけ始めたら、どうすると、太るか痩せるか分かってきました。大学に入学し、一人暮らしを始めて自炊するようになると、自分なりの痩せ方を掴めました。3年くらいかけて理想の体重に近づける方法に行き着いた感じです

 

現役時代に実践した減量法『一番自分に合ったのがキャベツダイエット』

――それほど神経質に体重と向き合っていたと考えると、現役時代は食欲とのせめぎ合いだったのですね

 

 本当にその通りです。現役時代のベスト体重は43~44キロくらい。今の生活で1キロ太るなんて当たり前ですが、当時は1キロでもパニックを起こすくらい神経質になっていました。特に減量が必要になるのはシーズン開幕近く。オフシーズンは気が緩んでいるのか、4月から7月まではどうやっても痩せなくて。シーズンに入って制限をしたら体力が落ちてしまうので、シーズンが近くなると特に自制して調整していました

 

――具体的に実践していた減量法はどんなものがあったのでしょうか?

 

 もう数々のダイエットをやりました。一日中バナナジュースを飲んで過ごした日も、りんごを食べた日もありました。スープダイエットも断食をしたこともあります。でも、一番自分の体調や好みに合ったのが、キャベツダイエットです。朝昼晩、ひたすらキャベツを食べ続ける。ドレッシングの味付けや切り方を変えながら。そうしたら痩せ始めたので、自分に合っていると思って続けられました

 

――もし1キロ増えたら、当時は何日間くらい落とすイメージだったのですか?

 

 2日から3日でなんとか落とす感じでした。1キロ増えることは遠征先から帰ってきた直後とか、そうそうなかったですが、今日食べ過ぎたと思ったら翌日の食事を少なくするか、もしくは抜く。普段は先生方も食べないと体力がつかないからダメだと言うのですが、目先の体重に一喜一憂してしまっていた。結構、無理なことをやっていたので、本当は栄養面でも良くなかったと思います。それは今の選手たちにも伝えたいことです

 

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