Number Webから(1月29日付)

https://number.bunshun.jp/articles/-/833311

 

フェルナンデス欧州7連覇で競技引退

フィギュア界に刻んだスペインの栄光

 平昌オリンピック銅メダリスト、スペインのハビエル・フェルナンデスが1月26日、ベラルーシのミンスクで開催されていた2019年欧州選手権で7連覇を果たした

 

 かねてから宣言していたように、これが彼の生涯最後のアマチュア競技となる。最後の舞台で金メダルを手にし、華やかにその競技人生を終えた

 

 『最後の試合は欧州選手権にしたかった。この大会は、ぼくにとって自分の家のようなものだから』と語ったフェルナンデス

 

 2011年から、カナダのトロントを拠点とし、ブライアン・オーサーとトレーニングを積んできたフェルナンデスだったが、やはりスペイン出身の彼の心はヨーロッパから離れたことはなかったのだろう

 

ほぼぶっつけ本番で挑んだ欧州選手権

 平昌オリンピックで羽生結弦、宇野昌磨に続いて3位になった後、フェルナンデスは1カ月後に開催されたミラノ世界選手権を欠場。今シーズンに入ってからも、出場した大会は2018年10月のジャパン・オープンのみで、ずっとアイスショーなどの活動に専念してきた

 

 『この大会の前の3週間、トロントで一生懸命トレーニングをしていました』とフェルナンデス

 

 もともと彼は、トップスケーターの中ではそれほど練習に時間を費やすほうではなかった。短い時間に集中して滑り、夏もきちんと2週間ほどのバカンスを取らなくては心も身体ももたない、と語ったこともある

 

 競技としてはほとんどぶっつけ本番といって良い欧州選手権で、タイトルを守ることは容易いことではないと誰もが思っていた

 

欧州選手権は、SPでまず3位に

 SPは、2015年から2シーズン滑った『マラゲーニャ』に戻してきた

 

 パコ・デ・ルシアとプラシド・ドミンゴによる演奏で、振付はスペイン国立バレエ団の芸術監督、著名なフラメンコダンサーのアントニオ・ナハーロによる

 

 『スペイン出身の3人の偉大な芸術家を集結させた作品。スペイン代表の自分が、下手なフラメンコを見せるわけにはいかないので、責任を感じます』と、このプログラムについて語っていた

 

 2年ぶりに披露した『マラゲーニャ』は切れ味が良い中に柔らかさがあり、ナハーロの動きによく似ていた。だが、きれいに着氷したかのように見えた4サルコウが回転不足の判定を受け、3アクセルでステップアウト。91.84という得点が出ると、ちょっと顔をしかめてみせた

 

 ロシアのミハイル・コリアダ、アレクサンドル・サマリンに続いて3位という位置についた

 

 『良いプログラムが滑れたと思います。ジャッジはそう思わなかったようけど、ジャンプは良かったです』とSP後の会見でちょっと判定への不満を表し、トップのコリアダとは9ポイント近い差がついていたが、『フリーでは9ポイントなんて、なんてことないです』と強きを見せた

 

スペインがテーマの2つのプログラム

 フリーは平昌オリンピックで滑った『ラ・マンチャの男』。ドン・キホーテを主人公にしたこのプログラムは、デイビット・ウィルソンがスペインまで行って、グラダナのリンクで振付けたのだという

 

 スペイン出身のフィギュアスケーターとして初めて、欧州、世界、そしてオリンピックの表彰台に上がってきたフェルナンデス。どの選手にも増して、自分が国を代表しているのだと責任感があったのに違いない。最後を締めくくるのに、SP、フリーともにスペインの文化をテーマにしたプログラムを選択したことは、驚きではなかった

 

 いよいよ彼の出番になると、ミンスクの会場は歓声に包まれ、多くのスペイン国旗で埋め尽くされた

 

日本でユヅルの後に滑った経験が生かせた

 フェルナンデス、スケート人生最後の競技プログラムがはじまった

 

 最初の4トゥループにつけた3トゥループでステップアウトするも、4サルコウはきれいに成功。後半のフリップが2回転になったのが唯一の大きなミスで、179.75でフリーはトップにたった

 

 『素晴らしい気持ちです。今日のような演技ができて、すごく誇りに思っています。』と演技直後に喜びを語ったフェルナンデス

 

 最終滑走だったコリアダは、3度転倒してフリー11位という意外な結果に。3アクセルで転倒したときに氷についた左手首を痛め、その痛みと戦いながらの演技だったという。結局コリアダは総合5位に落ちた

 

 フェルナンデスが、2位のアレクサンドル・サマリンを僅差で抑えて7度目の優勝を果たした。エフゲニー・プルシェンコがやはり欧州選手権で7回優勝しているが、7連覇は1935年のカール・シェーファー以来の快挙となる

 

 どれほどのプレッシャーを抱えて滑っていたのだろう

 

 『演技前に、彼(サマリン)がとても良い演技をしたことは歓声でわかった。でも長い間競技に出ていると、どのような状況でもどう対処すればいいか習得するものです。日本でユヅル・ハニュウの後に滑ったという経験は、次に生かせる大きな学びとなりました』と会見でコメントし、羽生ファンが思わぬ貢献をしたことを明かす

 

何かを残すことができたと思いたい

 人々にどのような選手だったと記憶して欲しいのかと聞かれると、こう答えた

 

 『ぼくはちょっと変わったタイプの、普通よりも完成度の高いスケーターだったと思ってもらえてら嬉しい。スケーターとはジャンプだけでなく、スケート全体が評価されるものですから

 

 そしてこう付け加えた

 

 『ぼくが、スケート界に何かを残すことができたと思いたいです

 

 ちなみに本大会では、スペインのアイスダンスチームが7位と8位と健闘した。一昔前では考えられなかった彼らの成績の伸び方も、おそらくフェルナンデスの活躍に刺激を受けたことが一因に違いない。日本のスケート界もそうだったが、こうして先駆者が出ることにより、次の世代が育っていくのである

 

競技復帰はないと断言

 日本ではフェルナンデスは、羽生結弦のトレーニングメイト、ライバルとして注目されることが多かった

 

 また一時はプロスケーターの安藤美姫さんと交際していたことも、報道されてきた

 

 こうした自分のスケート以外について質問が何度も繰り返されても、嫌な顔を見せることは、ついぞ一度もなかったフェルナンデスだった

 

 『21年間スケートをやってきて、13年間この大会に出場し、次のステップに進むときが来ました

 

 しばらくアイスショーの活動などに専念するが、プロ大会やジャパン・オープンのようなオープン大会に出場する可能性はある、と言う。だがアマチュア競技は本大会限りで復帰はない、と断言した

 

 『自分はできることは、すべてやりきった。目標を定めて、それを達成してきました。スケートは続けていくし、指導はしていくけれど、(アマチュアの)競技はこれで終わりです

 

 彼が成し遂げてきた数々の業績を讃えると共に、新たな人生の門出を祝福したい