【12月22日付 スポーツナビから】
坂本花織をSP首位に導いた“平常心”
積み重ねてきた自信『いけるんじゃね』
会心の演技『全くびびらなかった』
予兆は前日練習からあった。キレのあるジャンプを何度も決め、取材対応でも各選手が緊張感を漂わせる中、17歳の坂本花織(シスメックス)は1人笑顔を見せていた
『シーズン最初の方は練習でもミスばかりしていて、不安なまま試合に出ることがありました。でも練習を重ねていくうちに自信がついて、今では安心して試合に臨めています』
その言葉通り、坂本は平昌五輪出場が懸かったフィギュアスケート全日本選手権女子ショートプログラム(SP)で73・59点で首位に立った。演技前半のスピンとステップはレベル4を獲得。基礎点が1・1倍になる後半に入れた3回転フリップ+3回転トウループ、3回転ループ、
ダブルアクセルの3つのジャンプもすべて1点以上の加点がついた。最後のスピンこそバランスを崩しかけたが、それもなんとかこらえた。ガッツポーズが飛び出すまさに会心の演技だった
『いつもどおりできたので特典は70点ちょっとくらいかなと思っていたんですけど、それをはるかに超えたのでびっくりしかなかったです』
そう興奮して語る坂本は、多くの選手が緊張するこの舞台を楽しんでいるようだった。さらに言葉を継ぐ
『一番良かったのは、ずっと平常心でできたことですね。全くびびらなかった』
今も実践する中野コーチの教え
元来、プレッシャーに強い選手ではない。『試合の大小に関わらず、どんな大会でも同じように緊張していた』と坂本は言う。国際大会でも結果が出るようになったのは昨シーズンから。全日本ジュニア選手権を制覇した勢いを駆って、初出場したジュニアグランプリ(GP)ファイナルで3位になると、世界ジュニア選手権でも3位に入った
GPシリーズデビューはシニアに上がった今季。ロシア杯こそ5位に終わったが、11月のスケートアメリカでは自己ベストを大幅に更新する合計210・59点をマークし、宮原知子(関西大)に次ぐ2位となった
こうした結果を残せるようになったのも、平常心で試合に臨めていることが要因として挙げられる。そのために以前から実践しているのが『練習のときは試合だと思って緊張感を持って練習して、試合のときは練習通りと思ってやる』こと。坂本を指導する中野園子コーチから教えられたことで、今もそれを意識的に行っている
また『朝の練習で脳が働かなくて、何も考えられないのですが、試合では緊張してしまって頭が真っ白になることもあるので、いつでもノーミスできるように意識しながら練習しています』とも語る
SPの演技前には、中野コーチから『やっといで~』と軽い感じで送りだされたという坂本。あまりいろいろな言葉をかけず、坂本に適した方法でリラックスさせる中野コーチの存在も、平常心でいられる要因の1つだろう。『メンタルは日々、中野先生に鍛えられています。いつもきつい言葉に耐えているので』と、坂本は苦笑する
フリーは最終滑走・・・この状況を楽しめるか
もちろんフリーで同様の結果が得られるとは限らない。2位の宮原とは0.36点差、4位の樋口新葉(日本橋女学館)とでさえ4.66点差しかない。フリーでの逆転は十分可能な差で、1つのミスで優勝どころか、表彰台を逃すこともありうる
だが、この大会で今季9試合目となる坂本が積み重ねてきた自信は揺るがない
『シーズンが始まって、自分がシニアというのはあまり実感がなかったんですけど、今季はたくさん試合に出させていただいて、試合にも慣れたし、自分がシニアなんだなというのをたいぶ実感してきました。点数も出るようになったので、自信にもなりましたね。スケートアメリカからは一気に「いけるんじゃね」って(笑)』
まだこうしたあどけなさも残る高校2年生。自分の性格を『負けず嫌い、明るい、面白い』と分析する。独特の雰囲気を醸し出す五輪選考会を勝ち抜くには、いかにその舞台を楽しめるかというのも重要なポイントだ。プレッシャーによって本来の実力を発揮できず、暗い表情を見せる選手もいる中、坂本の明るさは際立っている
『フリーも落ち着いてできたらノーミスで行けると思うので、しっかり自分のできることを精いっぱい頑張って、表彰台を狙っていきたいです』
勢いは間違いなくある。フリーは最終滑走。成長を続ける17歳がこの状況を楽しむことができれば、平昌五輪出場への一発回答もありえそうだ
スポーツナビコラムから
https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201712220003-spnavi