「いらっしゃいませ。」
「今夜、神戸市内で一泊空いてないですか?」
「あいにく本日の私どもの手持ちは一杯です。」
連休がくると、神戸の街のホテルは満室になる。
当日、旅行社の僕たちがホテルへ電話し、空室確認しても、代理店を通すより自社で売りたい為、確認もせず「あいにく満室です。」と回答される。
今朝、1人のおじいさんが舞込んで来た。
太い眉毛に細いからだ、さっぱりしたショートの髪型。
ポロシャツの肩からは、ハンディカム(ビデオ)が提げられている。
―昭和観光客。
「今日の宿、探しとるんじゃけど。」
他の旅行会社で貰ったらしいホテルリストを片手に、尋ねて来た。
「すいません、あいにく一杯なんです。」
「が、今一度確認してみます。」
「いや~、三連休なぁんて、ちっとも知らずに、来たもんじゃケ困ったなぁ。」
「帰りの切符はもっとんじゃけど、帰らなしゃーないですなぁ。」
かなり悲しそうな顔。
そう言い、混んできた店内に気を遣い、立ち上がって出て行った。
その間も、次々と別のお客さんが入ってくる。
立地がら、若い人が多く、横柄な態度の人もいて、夏の旅行を申し込む。
「ありがとうございましたぁ。」
他のスタッフの声がして、おじいさんは自動ドアをくぐっていった。
僕は何故か、おじいさんが見えなくなるまで時間が止まって、動けなかった。
“―あ、ヤバイ、後悔する。あのじいさん、めっちゃ気になる。”
そう思った瞬間には、僕はもう店を出ていた。
いた!
「あの、ホテルリスト持ってましたよね。片っ端から電話してみられました?」
「いや、わし携帯もっとらんもんじゃけーの、公衆電話もあまりないし。」
「僕が、全部電話してみましょう。どうぞ、戻りましょう。」
「え?は、はい。」
明らかに怪しかった。まるでオレオレ詐欺の新手のキャッチっぽかった。
奥へ座ってもらい、20件以上電話した。
「あいにく、満室を頂戴しております。」
「いや、今日はオーバーしてるくらいです。」
かなり冷たいもんだった。
流石。と思う断りを入れるホテルもあれば、イッパイイッパイになってる奴、意外と丁寧なホテルもあった。
だけど結果は惨敗。
一件だけ、1部屋シングル¥18,000-のホテルが空いていた。
「高いなぁ、ありがとう、帰ります。」
僕はすでにその時、おじいさんが(北の国からの)五郎さんに見えて仕方なかった。
五郎、田舎帰っちゃう!
残念だけど、やるべきことはやった。フに落ちないままも、五郎も満足してる感じだった。
「JRどこじゃろ?切符かえんならん。」
「出て、真っ直ぐ行かれたトコですよ。 ・・・いや、ご案内します。」
「いやぁ、ありがとう、ありがとう。」
そう言われて、僕は恥ずかしくなった。結局何もしてあげれなかったから。
僕のエゴで呼び止めて、満足感が欲しかっただけじゃないかと考えてしまった。
その時、ふと考えて、
「もしかしたら、直接行ったら空室あるかもしれませんよ。OPAのホテルにいってみられました?ダメもとで行ってみてください。」
「ホント、親切にしてくれて。」
「では。」
その時、信じられない事が起こった。
僕の目の前に、おじいさんが手を差し出した。
僕はよく握手をする。無意識にしてしまい、よくヒかれる。
なのに僕より遥か年上のおじいさん、何もしてあげられなかったと思ってたのに、手を差し出してくれている、人から握手をされるのは日本では久振り。
おじいさんは間違いなく感謝して、めっちゃくちゃ笑顔でいる。今日、ものっそいいい日じゃん!
僕も、激しく感動して、かなり熱く、深く、強く手を握った。
僕のエゴだったかもしれないけど、まぁいいや、結果ウォーッケイ!