『女教師』(田中登監督 1977年)                   永島暎子×砂塚秀夫 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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『女教師』(監督・田中登 原作・清水一行 脚本・中島丈博 1977年) 

 

出演・永島暎子、砂塚秀夫、古尾谷康雅(雅人)、宮井えりな、絵沢萠子、福田勝洋、山田吾一、久米明、鶴岡修、蟹江敬三、

樹木希林、五條博 他。 

 

埼玉県のある中学校、土曜日午後5時の校庭。

 

「学校内のグラウンド、教室内に残っている生徒は直ちに下校しなさい」

生徒指導主任・影山(山田吾一)の校内放送が校庭に響き、教室には音楽教師・田路節子(永島暎子)が弾くピアノ曲が流れていた。修学旅行の打ち合わせを終えた国語教師・瀬戸山(砂塚秀夫)がやって来て節子に声をかける。

「田路先生はヘドロの沼に咲くハスの花かなあ」

「ハスの花?じゃあ、まるで私たちの世界、学校や教育界がヘドロの沼だとでも?」

「そんなもんじゃないですか、今の教育界は。腐りきってメタンガスが充満している。ボクだって自分がリベート教師だって言われているのは知ってますよ。でもそれでケッコー。実はね、修学旅行の旅費は初めから業者のサービスなんですよ。だから学校から旅費が出れば丸々それが浮くんですよ。まあ、大変だと言っても修学旅行の引率は止められないって訳ですよ」

「そんなお話私聞きたくありません」

 

教室を出ていく瀬戸山。窓のカーテンを閉めピアノの練習を続ける節子。廊下を去っていく瀬戸山の背後に物音がして振り返ると、2,3人の生徒が廊下を横切る影が。後を追って行きドアの隙間から教室の中を見ると、数人の生徒に足を押さえられ床に足を広げて抵抗する節子の姿。節子の上に覆い被さっていたのは瀬戸山のクラスの不良生徒・江川秀雄(古尾谷雅人・康雅)だった。

 

節子は校長の神野(久米明)の自宅を訪問し暴行された事実を話し、犯人は3年の江川秀雄に間違いないと訴えるが、黒いビニール袋を被せられ顔は確認していないと聞いた神野は警察に届けを出すのは1日待って欲しいと答えた。翌日、校長の神野、教頭の安部(穂積隆信)、生徒指導主任の影山、江川の担任教師瀬戸山が集まり今後の対策を協議した。校長、教頭、瀬戸山の三人は事を荒立てず穏便に済まそうとするが、熱血漢の影山は警察に届けるべきだと主張する。

 

一方、節子は同じ中学の英語教師で結婚を考えている浅井(鶴岡修)を呼び出し事実を告白する。瀬戸山は自動車修理工場を経営する江川の母・明子(絵沢萠子)を料亭に呼び「このままでは何れ秀雄君は少年院送りですよ」と言い、物質的見返りと肉体的報酬を求めた。

 

校長の勧めで休養のため実家の沼津に帰った節子は東京の予備校に通う弟の恵二(福田勝洋)に真実を打ち明けた。暫くして学校に復帰した節子は生徒や同僚教師たちの異変に気付き浅井を問い詰める。浅井から真相を聞き出せなかった節子は教職員組合の小林(蟹江敬三)らに呼び出され身に覚えのない非難を受ける。そこで節子が受けた事実とは裏腹の信じられない噂が流れている事を知るのだった・・・。

 

ドロドロした男女の愛欲関係を描いて日本屈指の中島丈博の脚本、ロマンポルノの才腕田中登の監督とくればほぼ外れはないと予め予測可能だが、この作品はロマンポルノ枠の作品としては異色の砂塚秀夫が教師役で主演、更に不祥事隠蔽に走る校長に久米明、熱血正義感の教師に山田吾一、教職員組合幹部としてひたすら組合員と不祥事の関係を拒絶しようとする教師に樹木希林、蟹江敬三らを配し、日活ロマンポルノとしては異彩を放つ作品になっている。

 

教師たちの創意工夫は受け入れられず、ひたすら知識の詰め込みに奔走する教育現場の現実に意欲を失い、今は色と欲に生き甲斐を求める瀬戸山。生徒の為の学校ではなく、不祥事が起きればひたすら自己保身に走ろうとする教職員たちの大人の嘘を見抜き、非行に走る秀雄。節子に嫉妬とライバル心を燃やす同じ中学の音楽教師・佐藤美也子(宮井えりな)は瀬戸山の秘密を握り共犯関係の快楽に溺れ、節子の恋人浅井とも関係を持ち、やがて最悪な結末を迎える。瀬戸山が母と情を通じ、瀬戸山の隠されていた秘密も知った秀雄は瀬戸山を吉見百穴に誘い出す。

 

すべてが終わったあと、記者会見で校長の神野がしおらしく応える。「学校教育現場の管理責任者として責任を痛感しつつ忸怩たるものを拭えない訳でありまして・・・」その後の活躍を予感させる永島暎子のナイーブな演技力の高さ、映画デビュー作で公開当時20歳ながら中学生を演じた古尾谷雅人(康雅)と『網走番外地』シリーズのオカマ役とは真逆の砂塚秀夫の怪演。

学校教育現場の不祥事に対する自己保身的隠蔽体質は40年前も現在も変わりなく、この作品が一層リアルに感じられる。☆☆☆☆☆(☆5が満点)