『二人の銀座』(1967年 鍛冶昇監督)      山内賢×和泉雅子×伊藤るり子 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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『二人の銀座』(1967年 監督鍛冶昇 脚本才賀明) 

 

出演・山内賢、和泉雅子、伊藤るり子、小林哲子、和田浩治、片山明彦、ジャッキー吉川とブルーコメッツ、ヴィレッジ・シンガーズ、杉山元、木下雅弘、新田昌玄、月の家円鏡、金原亭馬の助、天坊準、柳瀬志郎、浜口竜哉 ミッキー安川 ほか。 

 

公衆電話ボックスで長話しをしている若い女をイライラしながら窓を叩いてせっつく若い男。若い女は瀬川マコ(和泉雅子)で、プリプリしながら電話ボックスを出て行く。電話を急かしていたのは東南大学の学生・村木健一(山内賢)で、マコが公衆電話のボックスに楽譜を置き忘れ、気付いた健一は追いかけたがマコは気づかないままタクシーに乗って走り去った。

 

大学の仲間とバンドを組みプロを目指している健一は仲間と一緒に大学の先輩のジャズ喫茶の支配人・小泉(片山明彦)の事務所を訪ねプロとして採用して欲しいと頼み込む。既成の曲は練習しているからアマチュアとしては上手い方だが、新譜を同じように演奏するのは無理だろう、お前たちの演奏は学芸会並みだ、プロの演奏を甘く見るなと言われ追い返される。店を出て行こうとすると、休憩中のバンドがそのままにしていたドラムやギターが目に留まり、四人は楽器を手にすると健一が拾った楽譜を見ながら勝手に演奏を始める。店にいた客は「何だアマチュアバンドかよ」と冷ややかに眺めていたが、曲の素晴らしさに引きこまれたのか演奏が終わると健一たちに盛大な拍手を送った。事務所の窓から苦々しい顔でそれを見ていた小泉は客が示した意外な反応に驚き、四人を呼び寄せると誰が作曲したのかと尋ねる。ドラム担当の秀夫(和田浩治)が「健ちゃんが作曲したんですよ」と咄嗟に答えると、健一もほかのメンバーも引っ込みがつかなくなった。曲のタイトルも決まっていないと聞いた小泉はしっかり練り上げて完成させろと健一に発破をかけ、これを足掛かりにプロの道が開けそうになった四人は有頂天で街へとびだした。

 

一方、デザインブックに挟んでいたはずの楽譜が見つからないマコは友人の友子(伊藤るり子)と一緒に心当たりを探すが見当たらない。その楽譜の曲を作ったのは姉(小林哲子)の恋人で新進作曲家だった戸田周一郎(新田昌玄)という男で、2年前に姉の前から姿を消していたのだった。その歌を覚えているマコは友子に唄ってみせる。しばらくして健一たちが歌っていた曲が評判になり、それを聞いた友子は楽譜を拾ったのはその男ではないかとマコに知らせ、二人は健一たちが出演しているジャズ喫茶<ハイティーン>に赴いた・・・。

 

ベンチャーズ作曲のインストゥルメンタル曲として発売されたものに後に永六輔の作詞が付け加えられ、当初歌手には越路吹雪が予定されていたが、曲を聴いた越路が和泉雅子がデュエットにして歌った方がいいのではと進言して曲を譲ったというエピソードがあったそうだ。。山内賢と和泉雅子がデュエットした『二人の銀座』は累計100万枚を突破する大ヒットになり、同名タイトルで翌年映画化されたのが本作。

 

ジャッキー吉川とブルーコメッツ、ヴィレッジシンガーズなど当時の人気グループサウンズや尾藤イサオが出演。落語界からは金原亭馬の助、月の家円鏡も登場して「うちの節子が~」のネタで笑いをさそう。自分の作曲した曲を名のある作曲家から盗作呼ばわりされて音楽の世界からも恋人の前からも姿を消した男。思わぬ偶然からその楽曲を演奏して一躍人気が出てプロへの道が開きかける若者たち。消息不明だった戸田が川崎のキャバレーでピアノを弾いていることを突き止めた健一たちとマコ。

「あなたは昔、<二人の銀座>という曲をお作りになりましたね。僕たちその曲をあなたに無断で世の中に出してしまったんです。いま銀座で猛烈に流行っています。戸田さん、あなたの曲を僕たちに下さい」 

「これは僕の曲ではありません。音楽なんて最初に誰が作ったかなんて問題じゃない。弾きたい人が弾き、歌いたい人が歌う、出来上がった歌はみんなの歌です。僕も昔、君たちと同じように音楽で世の中に出たいと考えたことがあった。しかし、僕が持ち込んだ曲が名のある作曲家の手で発表されてしまったという事がありましてね。あとで僕は、それは僕の曲だと主張しました。しかし、誰も聞き入れてくれませんでした。僕が無名で向こうが名のある作曲家だったからです。それ以来僕はあの世界が嫌になりましてね。僕の代わりに君たちがあの曲で世の中に出てくれる、それでいいんです。たとえ一生名は無くても僕は音楽が好きです。ただこうしてピアノを弾いているだけで。本当に音楽が好きならそれでいいじゃないですか」  

「あなたはそれでいいでしょう。でも私の姉はどうなるんですか?」

「あなたのお姉さん?」

「この人、瀬川玲子さんの妹さんなんです」  

「帰ったらお姉さんに伝えてほしい。僕のことを忘れて新しく出直してほしい。僕は銀座という街を忘れた男なんだ」

 

 日活の歌謡映画でありながら、創作にまつわる深い闇ともいえる盗作問題が作品の底に流れ、行方不明になった戸田という男を終盤まで登場させないことで映画に緊張感を生み出している。

 

健一たちが戸田のいるキャバレーで会話するシーンは内田吐夢の『たそがれ酒場』を思い起こさせる。それぞれの登場人物が抱く感情の流れにも無理がなく、映画的誇張にも抑制がきいて魅惑的な映画空間を作り出す。ブルーコメッツのヒット曲『ブルー・シャトウ』『甘いお話』『青い瞳』も演奏され、何より伊藤るり子やヤング&フレッシュの面々、山内賢、和泉雅子のコンビが溌溂と躍動しているのがこの作品の魅力。日活青春歌謡映画の隠れた傑作。☆☆☆☆★(☆5が満点 ★は0.5点)