『地の群れ』(1970年 熊井啓監督)        鈴木瑞穂×紀比呂子×松本典子 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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       『地の群れ』1970年 

監督 熊井啓  原作 井上光晴 脚本 井上光晴・熊井啓 

出演・鈴木瑞穂、紀比呂子、松本典子、寺田誠、奈良岡朋子、

北林谷栄、水原英子、原泉、宇野重吉、佐野浅夫、工藤明子 他。

 

昭和16年、宇南親雄(鈴木瑞穂)は炭鉱で働く少年だったが、朝鮮人の少女を妊娠させてその姉・宰(水原英子)に「どう責任を取るか」と問い詰められる。近々まとまった金が入るので佐世保の病院で堕胎させてはと言ったが、宰は怒りと悲しみで宇南に蔑みの言葉を投げた。

 

終戦から時が経ち、医専に進み佐世保で妻の光子(松本典子)と小さな診療所を開いていた宇南はある日、暴行されその診断証明書を書いて欲しいという娘・徳子(紀比呂子)の依頼を受ける。診察をするには親の同伴が必要で、犯罪に関係するなら事情を話して欲しいと言ったが、それには同意せぬまま徳子は帰って行った。被差別部落民たちが住む徳子の家の近くには<海塔新田>という被爆者集落があり住民たちは互いに根深い差別感情を抱いていた。徳子を強姦した容疑で<海塔新田>に住む徳子の知り合いの津山信夫(寺田誠)が逮捕されたが、信夫は無罪を主張しアリバイが証明されて釈放された。

 

町へ出た信夫は歩いていた修道女たちをからかい、そのあと部落で徳子を待ち伏せた。逮捕されたのは徳子が警察に密告したためと思い込んでいた信夫は徳子を責めるが、徳子は警察に通報したのは自分では無いと言い、<海塔新田>に住む白い手袋を付けてケロイドを隠した男を知らないかと信夫に尋ねた。終戦後も原爆被爆地長崎で後遺症やいわれなき被爆者差別、朝鮮人差別、部落民差別に苦しむ人々。

 

医者の宇南が背負う朝鮮人少女を妊娠させ、捨て、逃げ去ったことへの贖罪の意識。妻の過去の恋人の影を消し去れず諍いを繰り返し、酒に溺れる自身の弱さへの忸怩たる思い。娘が原爆症の症状で死にかけても自分が被爆者であったことをひた隠しにしようとする船上生活者の母親。戦後日本の高度成長、繁栄の影に隠れている様々な<差別>の赤裸々な現状。被差別者は更に下位の被差別者を容赦なく罵り鬱憤を晴らそうとする。今も消えることのない<差別>の重い現実が突き付けられる。

 

宇野重吉を始めとする演劇界の名優と日活俳優陣がコラボ。

ラストの団地で編み物をする奥さんたちの中に工藤明子の姿が。<海塔新田>にも米軍基地にも、高層団地にも何処にも逃げ場がなく、どこまでも走り続ける信夫に終着点はあるのか。

カゴの中で無残に焼け死んでいくネズミの群れは消し去れない原爆の生々しい記憶。☆☆☆☆☆(☆5が満点)