『東海道四谷怪談』『ならず者』『北の橋』『女鹿』『田舎の日曜日』他、7月の映画鑑賞記録 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

 6月30日以降に観た映画の備忘録的感想と星取りです。

私的感想なので皆様の評価と異なる際はご容赦ください。

(☆5が満点) 

 

「東海道四谷怪談」(中川信夫監督・石川義寛・大貫正義脚本

1959年) 

民谷伊右衛門(天地茂)に五分の後悔、悪人・直助(江見俊太郎)に一寸の後悔なし。犠牲者は伊右衛門の妻お岩さん(若杉嘉津子)と按摩の宅悦(大友純)。歌舞伎の様式美を意識して作られたようで、中川信夫の映像美に陶酔。数ある「四谷怪談」ものの中でも白眉。(☆☆☆☆☆) 

 

「ならず者」(石井輝男脚本・監督1964年) 

組織の罠に嵌められた南条(高倉健)が香港、横浜、マカオに飛んで悪玉ボス(安部徹)を追い詰める。健さん、丹波哲郎、杉浦直樹、安部徹、石井組常連男優陣に三原葉子、加賀まりこ、南田洋子の女優陣が彩をそえる。ベッドで三原葉子に迫られた健さん。「あいにく昼間っからミルク飲む趣味はねえんだよ」

健さんを待つ南田洋子が切なすぎる。

石井輝男無国籍アクションの傑作。(☆☆☆☆☆)

 

「日本侠客伝 雷門の決斗」(マキノ雅弘監督・笠原和夫・

野上龍雄脚本1966年) 

大正末期、浅草六区の芝居小屋と人気一座をめぐる利権争いに巻き込まれる平松興行二代目信太郎(高倉健)。平松興行の危機を救う信太郎の幼馴染の人気浪曲師・梅芳(村田英雄)。

悪どい手を使う観音一家(水島道太郎)に堪忍袋の緒が切れた島田正吾と長門裕之が殴り込み。殺された島田正吾の無念を健さんが晴らす。ロミ山田の色気と演技力、冴えに冴えるマキノ節。(☆☆☆☆☆) 

 

「続・男はつらいよ」(山田洋次監督・小林俊一・宮崎晃・山田洋次脚本1969年) 

久し振りに柴又に帰った寅次郎だったが、「ちょっと立ち寄ったまでよ」と言ってすぐに”とらや”を出て行った。また旅に出るつもりで歩いていたら葛飾商業時代の恩師(東野英治郎)の家を通りかかり上がるように勧められる。

恩師の娘で幼馴染みの夏子(佐藤オリエ)が見違えるほどキレイになっていてびっくりする。美味いものを食い過ぎて胃痙攣を起こした寅さん、病院に運ばれるがそこで一騒動。柴又に居ずらくなり京都に流れてテキヤ商売をしていると、旅行中の恩師親娘とバッタリ再会。産みの母親が京都のホテルで働いているとテキヤ仲間から聞き、恩師の勧めで夏子と一緒にホテルを訪ねるが、何と連れ込みホテルの女主人(ミヤコ蝶々)が寅さんの産みの親だった。酔って漢詩を詠んでくだをまく寅の恩師・東野英治郎が、小津の「秋刀魚の味」の落ちぶれた教師を彷彿とさせる。(☆☆☆☆★) 

 

「男はつらいよ フーテンの寅」(森崎東監督・小林俊一・宮崎晃・山田洋次脚本1970年) 

久方振りに柴又に戻った寅さんにタコ社長の計らいで見合い話が持ち上がるがそこで一騒動。

さくらの亭主の博と大ゲンカして柴又を出て行く。三重県の湯の山温泉に旅行に出かけたおいちゃん、おばちゃんは旅館に番頭として働く寅さんと鉢合わせ。一晩泊まると、ほうほうのていで柴又へ帰って行く。寅さんのお目当ては旅館の美人女将お志津さん(新珠三千代)。女将には婚約間近の相手がいるとも知らず、

のぼせ上がる寅さんに旅館の従業員たち(野村昭子、左卜全、佐々木梨里)もほとほと手を焼いて・・・

女将の年の離れた弟に河原崎建三、その幼馴染みの恋人に香山美子。梶芽衣子を彷彿とさせる香山美子の美しさ。

森崎東のビートのきいた演出が小気味いい。(☆☆☆☆★) 

 

「新 男はつらいよ」(小林俊一監督・宮崎晃・山田洋次脚本

1970年) 

名古屋の競馬場で大穴を当てた寅さんが柴又に凱旋帰郷。旅行会社の社員になった舎弟(秋野太作・旧津坂匡章)の世話でおいちゃん、おばちゃんと三人ハワイ旅行に出かけることに。商店街の仲間に見送られ羽田へと向かったものの、実は旅行会社の社長が旅行代金を持ち逃げしてハワイには行けず、夜中にこっそり帰って四日ばかり籠城する予定が、運悪く泥棒(財津一郎)に入られたことで商店街の連中に露見。ハワイ行きの嘘がバレて居ずらくなって旅に出た寅さんだが、しばらくして柴又に舞い戻る。疲れて店の二階で休もうとすると、そこは幼稚園の先生(栗原小巻)の下宿部屋になっていて・・・

TV版「男はつらいよ」の演出をやっていた小林俊一が監督して達者な演出を見せる。(☆☆☆☆★) 

 

「トラック野郎 天下御免」(鈴木則文監督・中島信昭・鈴木則文脚本1976年) 

 

シリーズ第4作。マドンナに由美かおる。桃次郎のトラックに乗せて貰った女子大生(鶴間エリ)は腹痛を起こし、ドライブインのトイレに駆け込み盛大な屁をかまし、隣の便所で用便中の桃次郎の下品な要求にもOKする。桃次郎が喜び勇んで便所から出ると、そこには巡礼姿の美しい女性・和歌子(由美かおる)が立っていた。一目で和歌子に惚れた桃次郎、ドライブインで働いていた和歌子に手紙を届けようとするが、手違いでトラックに飛び込んだところを助けた千津(松原智恵子)に渡ってしまい・・・

 

重量オーバーのトラックを取り締まる警察官に汐路章、桃次郎にキスをされ惚れてしまうコンクリートミキサーの運転手にマッハ文朱。その兄コリーダに杉浦直樹。千津の元夫で新車のトラックの頭金が出来たらもう一度千津とやり直そうとするボロ松(沢竜二)と和歌子に思いを寄せながら自分から言いだせずためらう先輩伊沢(誠直也)のエピソードが泣かせる。マッハ文朱と二度に及ぶ長いキスを強いられた文太さんの心中やいかに。(☆☆☆☆☆) 

 

「トラック野郎 男一匹桃次郎」(鈴木則文監督・掛札昌裕・鈴木則文脚本1978年) 

 

シリーズ第6作。マドンナに夏目雅子。唐津で女子大生・雅子(夏目雅子)に一目ぼれした桃次郎は剣道の道場に通う雅子に倣い剣道を始めるが、雅子に全く太刀打ちできず山に籠って武道の修行に励む。滝に打たれているうちに失神し川に流され、子連れのトラック運転手袴田(若山富三郎)に救助される。袴田は雅子の行方不明の姉(浜木綿子)の亭主で、妻の行方を捜していた。

 

一方、雅子には大学の先輩で恋人の薫(清水健太郎)がいるが、薫の父は経営している工場が倒産し借金を抱え自殺。大学を中退して働き、父の借金返済のめどが立ち日本を捨てブラジルに行く決意を雅子に語る。袴田や雅子の事情を知った桃次郎は雅子への思いを振り切り、二人のために奔走する。冒頭、桃次郎の小便が入った一升瓶を美味そうに飲む警察官に桂歌丸と三遊亭小圓遊、「餅すすり大会」でひっくり返る5年連続優勝中のばってん婆さんにばってん荒川、桃次郎の吐き出した餅を美味そうに食べる白バイ警官に堺正章。下品な下ネタやナンセンスな笑いをふんだんに入れながら、終盤ホロッとさせて爽快に締めくくる鈴木則文監督の職人技。(☆☆☆☆☆) 

 

「またまたあぶない刑事」(一倉治雄監督・大川俊道・柏原寛司脚本1988年) 

 

「映画は時代を映す鏡」と言われるが、バブル景気(1986年12月~1991年2月)真っ只中に製作されたこの作品などもその典型ではなかろうか。バブル期を反映した明るく軽薄なノリがこの作品の生命線。好みや評価はそれぞれだが、宮崎美子の出演や貨物列車を使ったアクションで第一作よりは楽しめた。(☆☆☆★) 

 

「学校」(山田洋次監督・朝間義隆・山田洋次脚本1993年)

 

東京荒川の夜間中学に通う国籍も学校に通う事情も異なる様々な年代の生徒たち。50歳を過ぎてから学校に通い始めた在日韓国人のオモニ。父が中国人、母が日本人で五年前に日本にやって来た中国籍の張。元不登校児のえり子(中江有里)元不良少女だったみどり(裕木奈江)、昼間きつい清掃の仕事をしているカズ(萩原聖人)、脳に障害があってうまくしゃべれない修(神戸浩)。病気で故郷の山形で闘病生活を送っているイノさん(田中邦衛)。担任の黒井(西田敏行)は黒ちゃんと慕われ、そんな生徒たちに全身全霊でぶつかる。校長から住まいの近くの学校に転任要請を受けるが、「古狸」と呼ばれ、いつまでもこの夜間中学に留まりたいと言って校長の要請を固辞する。卒業間近くになったある日、国語の授業で卒業文集にする「学校の思い出」をみんなに書かせる。黒井の脳裏を生徒たちとの出会いや葛藤、イノさんとの苦い思い出が駆け巡る。家の事情で小学校を辞め、平仮名さえ書けず50歳を過ぎて夜間中学にやって来たイノさんのたった一つの楽しみが「競馬」だった。有馬記念のオグリキャップのレースをみんなの前で熱く実況するイノさん。掛け算もままならないが、一年前の重賞競走の配当金はしっかり記憶している。(イノさんのモデルは実際に夜間中学に通っていた実在の人物)。映画と現実は違い、黒ちゃんのようないい先生や仲間に巡り会えるかどうか、「現実は甘くないよ」と言う批評もあろうが、映画は現実そのものを描くわけではない。この作品が夜間中学の存在を多くの人に知らしめた功績は大きい。(☆☆☆☆★) 

 

「アントキノイノチ」(瀬々敬久監督・田中幸子・瀬々敬久脚本 原作・さだまさし 2011年)。

 

 遺品整理業の仕事に就いた杏平(岡田将生)は途惑いながらも主任の佐相(原田泰造)や先輩のゆき(榮倉奈々)に助けられ、何とかやって行けそうな手ごたえを感じる。ある日、遺品整理の作業中高校時代のトラウマが蘇り、杏平は突然部屋を出て行ってしまう。佐相に言われ杏平の様子を見に来たゆきも高校時代のある出来事が重いトラウマになっていた。若い二人が高校時代の出来事で抱えた重い精神的後遺症。人はどうやって消し去りたい過去の出来事を受け止め、克服し、生きて行くのだろうか。

調理師で独身だった兄の遺品整理の立ち合いにやって来た妹(宮崎美子)がダンボール箱からこぼれたアダルトビデオを見つめるシーンがリアルだった。(☆☆☆☆) 

 

「黄金時代」(ルイス・ブニュエル監督・サルバドール・ダリ、ルイス・ブニュエル脚本1930年)

 

シュールでアヴァンギャルドな無声映画。王冠をかぶった司祭がやがて骸骨になり、公爵が私服の警察官らしき男たちに捕らえられ街なかを引きずられて行く。宮殿のベッドには大きな牛が横たわっている。公爵と令嬢の不可解な遣り取り。世間の常識、規範、秩序、倫理、道徳、反逆、宗教へのアンチテーゼ。この作品が作られてから90年、映画技術(SFX、VFX、3D等)は格段に進歩したが、語られる内容にどれほど深化があったのだろうか。(☆☆☆☆☆) 

 

「女鹿」(クロード・シャブロル監督・ポール・ジェゴフ、クロード・シャブロル脚本1968年) 

 

パリの橋の上で路面に絵を描いていた娘・ホワイ(ジャクリーヌ・ササール)を見かけ、声をかけるブルジョワの女・フレデリーク(ステファーヌ・オードラン)。フレデリークはホワイを連れて別荘のあるサン・トロペにやって来る。そこには家政婦と中年の二人の奇妙な道化男が住んでいた。フレデリークのパーティで建築家のポール(ジャン=ルイ・トランティニャン)を紹介され、お互いに惹かれ合うホワイとポール。ホワイが別荘を出た後、二人の道化男に尾行を命ずるフレデリーク。その夜、ポールの部屋に泊まったホワイは翌日別荘に帰るが、当日約束した時間に現れないポールに気をもんでいた。その頃、フレデリークは仕事でパリへ行くというポールに会い、一緒にパリへ行くと約束する。ブルジョワの女と貧しい絵描きの娘。二人の同性愛的関係がポールの登場によって支配、被支配の関係が鮮明になるに連れ、ホワイはフレデリークに自分自身を同化させ変身しようとする。やがて訪れる意外な結末。オードランとササールに魅了されるシャブロルの心理サスペンス。(☆☆☆☆☆) 

 

「北の橋」(ジャック・リヴェット監督1982年) 

 

小型バイクに乗った娘・バチスト(パスカル・オジェ)はパリの街なかをバイクで走り回っていたが、よそ見をした瞬間出会い頭の事故でバイクをダメにしてしまう。そのぶつかった相手マリー(ビュル・オジェ)にそれから何度も再会したことで、これは偶然ではなく「運命」と勝手に思い込みマリーのあとを付きまとう。マリーは刑務所を出て来たばかりで、恋人のジュリアン(ピエール・クレマンティ)に連絡を取って会おうとしていた。

ジュリアンは極秘の危険な案件を抱えていたが、マリーには話そうとしない。そんなジュリアンに不信感をつのらせるマリーにバチストが一役買って出る。しかし、話は思いもよらぬ複雑な経過をたどろうとする。パリの街をすごろく遊びの地図にしてバチストとマリーがパリの街と廃墟と工事現場をめぐる。ラストの空手シーンが何ともユニーク。リヴェットの優雅な遊び?。

パスカル・オジェとビュル・オジェは母娘共演。(☆☆☆☆☆) 

 

「田舎の日曜日」(ベルトラン・タヴェルニエ監督1984年) 

 

パリの郊外で暮らす老画家のもとに日曜日の朝、息子家族が遊びにやって来る。二人の男の孫は広い庭を駆けずりまわり、孫娘は一人で人形遊び。息子夫婦は妻が死に一人残された父の健康を気遣う。毎日曜日に繰り返される和やかで穏やかな情景。家政婦が作った昼食をみんなで食べた後、庭でくつろいでいると突然娘のイレーヌが車でやって来る。イレーヌはパリで店を経営している自慢の娘だが、何か心配事があるのか落ち着かない。電話がきてすぐにパリに帰ると言う娘を引き止める父。近くにあるカフェに娘を誘い二人でダンスを。父の脳裏に蘇る懐かしい過去の風景。イレーヌが車で去り、息子家族も列車に乗って帰って行く。

静かに終わろうとする1912年初秋の日曜日。

ヴェルトラン・タヴェルニエの名作。(☆☆☆☆☆)