最近観た映画 2020年 6月 『日の名残り』『革命前夜』他 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

 6月1日以降に観た映画の備忘録的感想と星取りです。

個人的感想なので、皆様の評価と違う際はご容赦ください。

(☆5が満点。☆☆☆★以上一見、再見の価値あり) 

 

「日の名残り」ジェームズ・アイヴォリー監督1993年

イギリスの名門貴族に長年仕えてきた執事が、同じ屋敷で働いていた女中頭だった女性から手紙を貰い、彼女を訪ねて行く道中、過去の出来事を悔恨と痛切な思いで振り返る。執事という仕事に生きがいと誇りを持って生きて来た男。だが、それは本当に自分の正直な気持ちに嘘偽りのない生き方だったのか・・・。人生の終幕が見えかかった時、人は自分のこれまで生きて来た人生に何を思うのだろうか。何十年振りかで再見したが、主人公二人の心境を思うと胸が詰まる思い。(☆☆☆☆★) 

 

「革命前夜」ベルナルド・ベルトルッチ監督1964年

ブルジョワ階級の青年が共産主義の思想に傾くが、友人の死や叔母とのままならぬ関係などに苦しみ、次第に自己のイデオロギーのもろさや、未熟さに気づき始める。ゴダールやトリュフォーのヌーヴェル・ヴァーグ作品、アントニオーニの作品に影響を受けたという、ベルトルッチの自伝的映画。 いわゆるミニシアター系の作品で青春のさまよい、懊悩を描いた映画だが、ベルトルッチが描くとひと味違った青春映画になる。(☆☆☆☆) 

 

「カサンドラ・クロス」ジョルジュ・P・コスマトス監督1976年 

細菌兵器を極秘に研究している国際保健機構の施設から感染性の強い病原菌が漏れ、感染した過激派ゲリラが大陸横断鉄道に乗車したことから、アメリカ軍の特殊部隊が送り込まれ・・・。

パニック・サスペンス・アクションの傑作。リチャード・ハリス、ソフィア・ローレン、バート・ランカスター、エヴァ・ガードナー。音楽、ジェリー・ゴールドスミス、製作カルロ・ポンティ。サスペンス・アクションにロマンスをからめ、更に政治的メッセージも込めた一級の娯楽作。(☆☆☆☆★) 

 

「日本のいちばん長い日」岡本喜八監督・橋本忍脚本1967年「ポツダム宣言」を受諾すべきか否かで白熱する政府、宮内省、陸海空軍の首脳会議。天皇による全面降伏の玉音放送を阻止すべく奔走する陸軍の青年将校たち。異様な熱気にあふれた岡本喜八作品。黒沢年男のギョロ目が印象的。(☆☆☆★) 

 

「網走番外地 南国の対決」石井輝男脚本・監督1966年

高校2年の6月頃から毎週通い始めた池袋文芸坐の土曜オールナイト5本立て興行。健さんの「網走番外地大会」の中でも最も盛り上がった一本が「南国の対決」だったような記憶。

健さんも吉田輝雄も大原麗子も三原葉子も由利徹もみんな良し。極めつけは窮地を救う浦島太郎のような鬼虎さん(嵐寛寿郎)とラストの夕陽をバックにした健さんの殴り込み。堅気になった三原葉子が健さんに斬られた亭主(河津清三郎)を前に息子に語り掛ける言葉。オーラスはおなじみ「まじめにやれよ~」(☆☆☆☆★) 

 

「網走番外地 決斗零下30度」石井輝男脚本・監督1967年網走のムショ仲間、大槻(田中邦衛)の幼い娘を大槻のもとに送り届けた橘(高倉健)だったが、そこは鉱夫をタコ部屋のような所に押し込んだ極悪非道がまかり通る劣悪な場所だった。久し振りに丹波哲郎が出演。丹波の妹に大原麗子、情婦に三原葉子。健さんの窮地を鬼虎さんと気障な流れ者吉田輝雄が救う。(☆☆☆☆) 

 

「新・網走番外地 流人岬の血斗」降旗康男監督・村井昭脚本1969年

四国の造船所で働くことになった囚人たち。末広勝治(高倉健)は造船会社の社長(志村喬)や監視員たちが気に入らず反抗的な態度を取るが、仲間の大木実から社長の本意を知ることになり・・・。志村喬が貫禄の演技で作品を引き締める。

末広に思いを寄せる幼い子供のいる未亡人役で岩崎加根子が好演。(☆☆☆) 

 

「冬の華」降旗康男監督・倉本聰脚本1978年

組を関西に売った松岡(池部良)を殺し15年の刑を受けた加納秀次(高倉健)が刑期を終えて横浜に帰ってきた。組長の藤田進や舎弟の田中邦衛に手厚く迎えられるが、15年の間にハマは変わっていた。松岡の娘・洋子(池上季実子)に叔父と偽り面倒を見て来た秀次だったが、やむにやまれぬ事情から叔父貴(小池朝雄)を殺すことになり・・・。

池上季実子が初々しいセーラー服姿の高校生。クロード・チアリのギター。倉本聰の脚本によるひと味違ったヤクザ映画。(☆☆☆☆) 

 

「鉄道員(ぽっぽや)」降旗康男監督・岩間芳樹・降旗康男脚本1999年

 北海道のかつて炭鉱で栄えた町で、鉄道員(ぽっぽや)一筋に生きて来た佐藤乙松(高倉健)は妻(大竹しのぶ)と娘・雪子を病気で亡くし、今定年を迎えようとしていた。幼馴染みの小林稔侍が乙松の今後を心配し色々骨を折っているが、乙松に向くような鉄道の仕事は中々見つからない。そんな、正月。乙松の前に死んだはずの雪子が現れた。北海度の炭鉱町に住んでいたのでこの光景は懐かしくもあり、健さんが話す北海道弁も身に沁みる。小林稔侍の妻役田中好子、「だるまや」の女主人奈良岡朋子、生涯これ一本の映画出演(厳密には付き人時代のドリフの作品や声の出演あり)という志村けん、終盤に登場する広末涼子みんないい。健さんと稔侍さんのからみが最高。(☆☆☆☆★) 

 

「北の蛍」五社英雄監督・高田宏治脚本1984年

明治時代初期の北海道。極寒の中で鎖に繋がれ、吹雪の中を過酷な道路建設に駆り出される囚人たち。最果ての地で生きる女郎たち。極悪非道の典獄(仲代達矢)と悪魔のような典獄に身を捧げる女(岩下志麻)。実話を基にした創作だが、高田宏治が描こうとしたテーマが上手く伝わらなかった印象を受ける。岩下志麻が露口茂を簡単に見限って仲代に寝返ったり、早乙女愛と佐藤浩市の関係もピンとこない。五社英雄らしい演出は見られたが・・・。スーパーバイザー(監修者)で阿久悠が参加。主題歌「北の蛍」(森進一)は阿久悠作詞、三木たかし作曲の名曲。(☆☆☆) 

 

「トラック野郎 御意見無用」鈴木則文監督・澤井信一郎・鈴木則文脚本1975年

シリーズ第1作。記念すべき第1作のマドンナは中島ゆたか。

桃次郎に振られるモナリザお京が夏純子とは何とも羨ましい限り。”関門のドラゴン”に佐藤允、モナリザお京と結ばれる万田千吉に湯原昌行。もともとシリーズ化の予定で作られた作品では無いが、これだけ充実した内容なら映画ファンなら誰しも続編を期待するだろう。(☆☆☆☆) 

 

「トラック野郎 爆走一番星」鈴木則文監督・澤井信一郎・鈴木則文脚本1975年

第2作目のマドンナはあべ静江。ドライブインでアルバイト中の女子大生暎子(あべ静江)に一目惚れする桃次郎。太宰治ファンの暎子に合わせるため太宰の文学全集を買い読みふけるが、暎子には思い悩む好きな男がいて・・・。バキュームカーの運転手で加茂さくら。その助手に関根勤。ライバルのトラック野郎・ボルサリーノ2に田中邦衛。最も美しかった頃のあべ静江に会えるのがこの作品。(☆☆☆☆) 

 

「トラック野郎 望郷一番星」鈴木則文監督・澤井信一郎・野上龍雄脚本1976年

シリーズ第3作。島田陽子がマドンナ。北海道へ向かうフェリーで牧場経営者の亜希子(島田陽子)に一目ぼれの桃次郎。

牧場で病気の仔馬を助けた桃次郎に感謝する亜希子。その気になった桃次郎だが亜希子には獣医の婚約者がいて・・・。

土田早苗に惚れていて勘違いで桃次郎と張り合うカムチャツカに梅宮辰夫。ゲスト出演で都はるみ。トルコ嬢で東てる美が出演。文太さんと辰ちゃんの殴り合いシーンはシリーズでも一、二を争う面白さ。(☆☆☆☆) 

 

「トラック野郎 度胸一番星」鈴木則文監督・澤井信一郎・野上龍雄脚本1977年

シリーズ第5作。トラックで新潟に向かっていた桃次郎は立小便の最中、水子地蔵の横に立っていた美しい亡霊に目を奪われる。佐渡ヶ島の分教場に荷物を運んだ桃次郎は、そこであの美しい亡霊に瓜二つの美人教師(片平なぎさ)に出会う。一方、相棒のジョナサンは砂金の採掘で一獲千金を夢見るが・・・。

”ジョーズ軍団”で千葉真一。夏樹陽子、八代亜紀が出演。(☆☆☆☆) 

 

「トラック野郎 故郷(ふるさと)特急便」鈴木則文監督・中島丈博・松島利昭脚本1977年

シーリーズ第10作(最終作)。

高知に向かうフェリーでドサ回りの演歌歌手(石川さゆり)に一目惚れした桃次郎は、目の病気で自棄になり自殺しようとしていたジョナサンを助けた風美子(森下愛子)という若い娘にも惚れてしまうが・・・。脚本が中島丈博の故郷高知を舞台にしているだけに「四国八十八か所巡礼」「闘犬」「南国土佐を後にして」「桂浜」での殴り合いなど高知色が一杯。桃次郎と風美子(森下愛子)が海岸を歩くシーンは、「十八歳、海へ」で夜の鎌倉の海岸を歩く森下愛子と永島敏行を思い出した。鈴木則文監督は10作目以降も作る予定で案を練っていたようだが、残念ながら10作で打ち切りになってしまった。(☆☆☆☆) 

 

「蘇える金狼」村川透監督・永原秀一脚本1979年

大藪春彦原作、松田優作主演、村川透監督では「蘇える金狼」の翌年に「野獣死すべし」(80年)が作られているが、これまでこの2作の内容を勘違いして記憶していたようだ。今まで鹿賀丈史がアフロヘアーで出てくる方が「蘇える金狼」だと思い込んでいた。「蘇える金狼」のヒロインは風吹ジュン、それにお気に入りの結城しのぶが出演している。「野獣死すべし」は小林麻美。永原秀一さんと丸山昇一さんでは脚本のリズムや使う台詞が大分違うと感じた。ラストは永原さんらしい。(☆☆☆☆) 

 

「女猫」山城新伍監督・桂千穂・内藤誠脚本1983年

復讐もののストーリーにエロス、サスペンス、バイオレンス、ユーモアを織り交ぜたにっかつロマンポルノ作品。早乙女愛のゴージャスなボディと結城しのぶ的悪女の雰囲気がある伊藤幸子(こうこ)の対照的な個性が味わえ満足。この手の作品にあまり期待感を持ちすぎるのもどうか。配収4億5千万なら大成功。(☆☆☆★) 

 

「魚影の群れ」相米慎二監督・田中陽造脚本1983年

主演緒形拳、夏目雅子、佐藤浩市、十朱幸代。

緒形拳からの視点で話が進められているように思えるが、夏目雅子や佐藤浩市、十朱幸代の側から緒形拳を見るパースペクティブな視点もあり、ドラマに厚みや重量感を感じる。夏目雅子や十朱幸代のこんなに素晴らしい演技を見れるのは映画ファン冥利に尽きる。(☆☆☆☆★) 

 

「夜がまた来る」石井隆脚本・監督1994年

麻薬Gメンだった夫が横流しの偽装工作で殺され、復讐を誓う名美だったが・・・。村木に根津甚八。夏川結衣のこの映画へのただ一つの出演条件は「映画館」で上映される映画であること、だったそうだ。女優夏川結衣にとって、ビデオ撮影のVシネマと

35ミリの映画では全く意味合いの違うものなのだろう。そんな映画への拘りが、スタッフ、共演者一体となり、夏川結衣の代表作として結実したのは嬉しい。(☆☆☆☆★)