『駅 STATION』降旗康男監督 1981年         高倉健×倍賞千恵子×いしだあゆみ | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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『駅 STATION』(監督・降旗康男 脚本・倉本聰 撮影・

         木村大作 音楽・宇崎竜童 1981年)

 

出演・高倉健、倍賞千恵子、いしだあゆみ、烏丸せつこ、古手川祐子、小林稔侍、宇崎竜童、池部良、根津甚八、大滝秀治、室田日出男、田中邦衛、名古屋章、小松政夫、永島敏行、北林谷栄、平田昭彦、八木昌子、佐藤慶、織本順吉、村瀬幸子、藤木悠、

草野大悟、片岡五郎、竜雷太、寺田農、阿藤海、梅野泰靖、

潮哲也、武田鉄矢 他。

 

 雪の舞う函館本線、銭函駅のプラットフォーム。妻の直子(いしだあゆみ)が幼い息子、義高とジャンケン遊びをしている。

少し離れた所で男(名古屋章)が三上英次(高倉健)を説得している。「やり直せないのか。あいつはもう充分苦しんだんだ。

たった一回の過ちじゃないか。忘れてやるわけにはいかねえのか」。無言の三上。やがて列車が到着し、無言で列車に乗る男と義高、直子。直子が乗車口に立って、泣き笑いの顔で三上に敬礼のポーズを作る。遠ざかって行く列車・・・・

 

初っぱなからいしだあゆみの名演技で涙が。

直子と三上の間に何があり、三上や直子の性格がどんなものか、オープニングの数分間のシーンで見事に描き出している。

三上英次は北海道警察の警察官でメキシコオリンピックの射撃代表。三上への周囲の期待と重圧。マラソンオリンピック代表候補円谷選手の自死。そんな時、所轄の札幌市内で殺人事件が起きた。

 

「1968年1月・直子」、「1976年6月・すず子」、「1979年12月・桐子」3部構成のような形だが、どのパートにもそれぞれのドラマが濃密に存在している。主人公三上英次の12年間を妻子との別れ、警察官としての職務の遂行、仕事に対する葛藤、逮捕した死刑囚との触れ合い、三上を思う故郷の家族や仲間たち、宿命にあやつられる女との出会いを通して重層的に描き出す。射撃の腕を見込まれた刑事の宿命ともいえる凶悪犯への対処、犯人射殺も求められる任務の重さ。24年間の警察官生活に区切りを付ける決意をして、故郷に里帰りする途中に出会った桐子(倍賞千恵子)という女。まるでアドリブのような初々しい緊張感が漂う三上と桐子のぎこちない会話。八代亜紀の「舟唄」が好きだという桐子。孤独な男と女の宿命的な出会い。翌日、留萌の映画館で一緒に映画を観、食事をして男女の仲になるふたり。大晦日、桐子の方から店に三上を誘う。店のテレビから紅白歌合戦の「舟唄」が流れる。カウンターの三上に凭れて「舟唄」を口ずさむ桐子。映画史に残る名シーン。正月休みが終わり札幌に帰る三上に「一緒に行こうかな」という桐子。「来たっていいぜ」と返す三上。だが、桐子には殺人罪で指名手配中の森岡(室田日出男)という男がいた。

 

「1976年6月・すず子」(烏丸せつこ)のパートが三話の「1979年12月・桐子」につながり、一話の「1968年・1月直子」が物語の起点として作品全体を通して人生の男女のままならぬ関係の中のそこに生まれる心の綾と悲哀が見事に描かれる。ずっと英次の妹冬子(古手川祐子)を思い続けていた義二(小松政夫)。死刑囚として留置されているすず子の兄五郎(根津甚八)から英次宛に送られてくる感謝の手紙と辞世の句。兄を慕うすず子の思い。帰省した英次は弟の道夫(永島敏行)から12年前に別れた直子が池袋のキャバレーでホステスをしていて今も再婚はしていないと聞かされる。兄が逮捕されてからもずっと増毛の食堂で働いていたすず子は正月が明けると夜の列車で札幌に向かう。

 

テレビ画面の「舟唄」のシーンが3回もあるのは倉本聰のこだわりか。演技者としても良かったが、音楽を担当した宇崎竜童に感心した。映画音楽として主張し過ぎず、映像の効果を高める音楽として映画に滑らかに溶け込んでいる。倉本聰の脚本と降旗康男の演出は情感に溺れすぎた嫌いはあるが、それを差し引いてもお釣りは十分だ。

 

雪の北海道を撮らせたらこの人、木村大作の撮影が素晴らしい。健さんには雪の北海道がよく似合う。☆☆☆☆★(☆5が満点)

 

(昨夜BSテレ東の「シネマクラッシュ」で再見したので過去記事を再編集して掲載しました)