「北のカナリアたち」阪本順治監督 2012年 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

 東映60周年記念作品。吉永小百合主演、原案・湊かなえ短編集「往復書簡」脚本・那須真知子、監督・阪本順治。

 

映画の感想・評価はどういう観点(視点)で見るかによって大きく違ってくる。Yahoo!映画サイトでは☆1つや2つの辛辣な評価が役立ち度の上位を占めている。一方でキネマ旬報ベストテンでは第19位、読者選出ベストテン第9位とそれ程悪い評価ではない。映画の悪い部分が強調されるといい部分までもが全て否定され、極端な評価になってしまいがちである。

「北のカナリアたち」はそのような両極端な評価になりやすい作品と感じた。映画の重要な部分を占める前半の子供たちのシーン、演技はひどい。それこそ学芸会の演技である。子役たちのオーディション(3100人)にあたって演技経験の有無ではなく歌唱を基準に選んだという監督自身の選考ミスが原因だろう。

またそれに対して異を唱えることが出来なかった(しなかった)制作サイドの責任。阪本順治という監督に細やかな演出力が不足しているのであれば尚更だ。子役たちの演技に木下恵介や是枝裕和のやようなリアリティーを要求しても無理。20年後を演じた満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄子、松田龍平、森山未來らの演技によって何とか挽回している。ただ、吉永の夫が柴田恭兵、不倫相手が仲村トオル、父親が里見浩太朗は明らかなキャスティングミス。柴田恭兵、仲村トオルの起用は「あぶない刑事」や「ビーバップハイスクール」のプロデューサー黒澤満がらみのキャスティング、脚本の那須真知子も同様だろう。

 

北海道の離島の分校の先生だった吉永が、ある事故をきっかけにして島を離れ東京の図書館に勤務し定年を迎える。そんな折、昔分校の教え子だった生徒が殺人事件の容疑者になったことを刑事たちの訪問で知らされる。20年経ち、分校の生徒だった子供たちを訪ね歩く吉永、その中で知ることになる子供たちの気持ちや吉永や夫、不倫の隠された真相。ヒューマンサスペンスの娯楽作品である。随所にご都合主義的な所が見受けられる。子役たちの下手過ぎる演技、感動の押し付け、厳しい評価に立てば最低ということになりそうだが娯楽映画として楽しめない作品ではない。

 

40代と60代を演じる吉永小百合、刑事役の石橋蓮司、東映ヤクザ映画の斬られ役福本清三のおじいさん、満島、宮崎、小池らの女優たち、柴田恭兵や仲村トオルの違和感ある演技、川井郁子の目立ちすぎるヴァイオリンテーマ曲、木村大作のドラマ部分は平凡で自然の景観だけは素晴らしい撮影。娯楽映画のごった煮の魅力。映画の底辺を支えているのは、こんなスターありきの娯楽映画である。☆☆☆(☆5が満点)