「愛の小さな歴史」 中川龍太郎監督 2014年 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

 食品会社で弁当の配達をしている夏希(中村映里子)は10歳の時に母が病死、父(光石研)は酒浸りで幼い夏希や母に暴力をふるい、母の葬儀の後、女と駆け落ちしその後の消息は分からない。債権回収の取り立て屋夏生(沖渡崇史)は、認知症の祖父の世話を妹(高橋愛実)に押し付け家を出て行った過去を持つ。

 

ある日、弁当会社に夏希の父に昔世話になったという若い男(池松壮亮)がやって来て、夏希の父に貸していた借金を返してくれと言う。夏希は父とは遠の昔に縁を切ったと言って追い返すが、思い直し、父が借りていたという3万円を男に返した。

その折、父の住所を書いた紙を手渡された夏希は父が住んでいるという団地を訪ねる。無職でアル中の父は突然訪ねてきた夏希に対し言葉が出ない。夏希はこの部屋で一緒に暮らすという。

「一緒にいることがあなたへの一番の復讐だから」と言って。

夏生の妹夏美は夜の仕事に就き、シャブ中だった。夏美を真っ当な仕事につかせ、シャブからも足を洗わせたい夏生は夏美のアパートを訪ねこれからは一緒に暮らすという。

 

監督の中川龍太郎は二人の主人公、二つの物語を同時進行で交互に平行させて描くという構成手法をとった。二人の主人公は劇中何度かすれ違う、そしてラストで運命的な出会いを果たす。

冒頭シーンに登場するのは二人が結婚したあと生まれた娘、夏実(中村朝佳)である。つまり夏希と夏生の話は現在ではなく、過去の物語であり、現在の夏実の視点から描かれた父と母の出会いの物語である。「カケラ」「愛の渦」などの作品は観ていたが、中村映里子がこれ程演技力のある女優だとは思わなかった。

その演技力を引き出した中川龍太郎の才能を改めて実感。

一方の主人公、夏生を演じた沖渡崇史(おきとたかし)は演劇出身らしくやや誇張された力強い演技が印象に残る。オープニングに登場する中村朝佳も瑞々しく爽やか。勿論、夏希のアル中の父を演じた光石研のリアリティは助演男優賞ものの素晴らしさ。

 

詩人でもある中川龍太郎の研ぎ澄まされた映像センスはこの作品でも随所に見てとれる。本編81分の作品だがDVDには本編未収録シーンが40分ほどあり、これを編集し直したディレクターズカット版を是非観てみたい。81分版は詩的に昇華された作品に感じたが、未収録シーンを加えると、より映画としての奥行きを与える印象だ。作品の印象を一変させる衝撃的ショットもあった。2014年制作で中川監督24歳の時の作品。しかも監督自身が書いたオリジナル脚本。やはり世界が注目する凄い才能だ。☆☆☆☆☆(☆5つが満点)

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