ガラス戸の向こふに行けぬ蜻蛉の眼

電車が止まってドアが開いた。

すーっと誘われるようにトンボが飛び込んできた。普通通りに飛んでいたらスペースがあったので入ったって感じだろう。

車内を少し飛び回ってそのまま反対側のドアにぶつかった。ドアは閉まっている。

通れない。

トンボは何度も何度もガラスに頭を叩き、それでも通れないから少し上に行ったりして通過を試みていた。

ガラス扉の向こうにもトンボが先ほど通過して来た、同じような風景が広がっている。トンボの眼にはどのように映っているのだろうか?どうやら透明のガラスは見えないようだが。


電車は急行の通過待ちで止まったままだった。でもこの電車はこの駅を通過するとたちまち満員となって、そのうちきっとトンボは潰される。

トンボはガラスの縁に止まっていた。

仕方ないな〜。

立ち上がってひょいとトンボを掴み、そしてそのまま歩いて反対側のドアからトンボを放った。ふわっと空に滑空していく。

まだ席は空いていた。


それを見ていたおばさんが笑っていた。