昨年、資産10億ドル(約1500億円)を超える「ビリオネア」になった人々は、投資や起業によって自ら稼いだ金額より多くの資産を相続していた。スイス金融大手UBSが11月30日に発表した報告書から明らかになった。UBSの調査によれば、1年間の調査期間中にビリオネアの地位を獲得した137人のうち、53人は合計で1508億ドル(約22兆1000億円)を相続し、同じ期間に新たに自力でビリオネアになった84人が稼いだ1407億ドル(約20兆6000億円)を上回った。世界で最も裕福な人々が相続した金額が実際に稼いだ額を上回ったのは、UBSがビリオネアに関する報告書を発行している9年間で初となり、起業から相続への移行が顕著となった。-- Forbes

 

いやはや、浮世離れしたニュースであるが、世界のビリオネア(1ドル150円で1500億円長者)は、自分でお金を稼ぐより、相続財産の方が多いらしい。富める者はより豊かになるという見事なマタイ効果の結果である。それもそのはずで、例えば、総資産が1000憶円で、これを3%で運用すると、働かなくても年間30億円の収入が入ってくる。日本だと投資の課税は20%であるので、24億円が手元に残る。その場合、月2億円も使わないと配当収入が使いきれず、お金が増えていってしまう。これが1兆円のアルティメット超富裕層の場合は、1桁増えるから驚愕の世界である。文字通り富めるものはより豊かになる。

 

そうして、富裕層の子供は恵まれた環境で、十分に教育を受けて、安定的な経済基盤のもとで成長し、親の資産を相続する。現在は階級社会ではないし、社会階級を個人の努力や怠慢で移動することはあるが、それはあくまで一部であり、大雑把にみると、親の社会階層をそのまま引き継ぐので、制度的に階級社会にはないものの、先進国も緩やかな階級社会であると思う。日本も例にもれずである。

 

日本でも大企業創業家や大企業の役員層、成功したベンチャー企業の経営者・役員層、有力国政政治家、大手弁護士法人・監査法人・病院等の経営者層などから成る上位階級と、ホワイトカラー職種(弁護士・医者・大学教授・大企業管理職・中小企業経営者)で安定的で比較的高所得の経済基盤のあるアッパーミドル(上位中流階級)、アッパーミドルほどではないが頭脳労働に従事し安定的な経済基盤のある中流階級、一定の収入はあるものの経済基盤がやや不安定な下層階級、さらに貧困ラインギリギリのアンダークラスという風に分かれている(と思う;統計的な実証までしていないがおよそ大きく外れていないと思う)。基本的に教育水準も比例するので、社会階層が上なほど学歴の水準も高い。

 

日本は総中流の意識が強いが、それは戦後に華族が解体され、莫大な財産税により日本の上流階級が消滅したためである。欧州では貴族は制度的に廃止されたものの、私有財産は認められたため、いまだに階級社会が色濃い。英国では生活スタイル、居住地区、発音、趣味、通う学校などすべてが異なる。そしていまだに貴族・富裕層による婚姻も多く、社会階級が温存されている。

 

ダイアナ元皇太子妃の姪の伯爵令嬢であるレディ・キティ・スペンサーは、実業家のマイケル・ルイスだが総資産は120億円と推定されている。免税店DFSを興した億万長者ロバート・ミラーの総資産は1300億円を超えるが、娘の1人は、ギリシャ王コンスタンティノス2世の長男パウロス王太子(ギリシャは王制を廃止している)に嫁いだが、持参金は300億円近いとも言われている。ハリウッド女優のジェシカ・チャステインは、イタリアの伯爵家の末裔のジャン・ルカ・パッシ・デ・プレポスーロ(モンクレール重役)と結婚している。フランス皇帝ナポレオン一世の子孫のジャン・クリストフ・ナポレオン・ボナパルトと、マリー・アントワネットの生家、オーストリア・ハプスブルク家の末裔オリンピア・フォン・ウント・ツー・アルコ=ツィネベルクが2019年に結婚しており、2023年にリヒテンシュタイン公国ヨハン・ヴェンツェル公子が結婚したが、相手はフェリシタス・フォン・ハルティヒ伯爵令嬢である;欧州では旧王家同士の結婚はいまだに珍しくはない。

 

上記の例からしても、成金セレブは貴族の高貴な血統を求め、一方で経済的基盤が必ずしも盤石ではない貴族は成功者の経済的な富を求める。王家や貴族同士はいまだに交流があり、上流階級同士で結婚するなどして階級が維持されているのだ。

 

よく階級というと、経済資本だけが注目されるが、教養・趣味・マナーなどの文化資本、人脈の社会関係資本も重要である。そして何より社会学で見落とされがちなのは、遺伝資本である。IQや性格などは遺伝性があるので、頭脳明晰で容姿が良い夫婦間の子供の方は、親の質の良い文化資本・社会関係資本・遺伝資本も相続するのである。これを覆るのは相当に稀なケースである。現代社会では世界大戦のような社会がひっくり返る戦争は暫くは起きないとすると、この社会階層の固定化は今後も進展していくだろう。