先月末、英国王室が2022年4月から2023年3月までの王室助成金に関する会計報告書を発表した。スタッフの賃金にジェンダー格差があることが発覚、物議を醸している。問題になっているのはチャールズ国王とカミラ王妃、それぞれの私設秘書の賃金格差。国王の男性秘書クライブ・アルダートンは年収20万5,000ポンド(約3,700万円)から21万ポンド(約3,850万円)であるのに対して、王妃の女性秘書ソフィー・デンシャムは9万ポンド(約1,650万円)から9万5,000ポンド(約1,740万円)である。その差、2倍以上。ーーELLE(出典

 

英国王族の私設秘書の給料格差が報道されているが、秘書間の格差よりその額に驚かされてしまう。国王の男性秘書クライブ・アルダートンは年収20万5,000ポンド(約3,700万円)から21万ポンド(約3,850万円)だそうだ。クライブ・アルダートンは施設秘書といっても高校卒業後に外務省に入った元外交官である。

 

ちなみに、彼はRoyal Victorian OrdeのKnight Commander受章しており、"Sir"の称号がつく。英語では、"Sir Clive Alderton KCVO"と書くのが正しい。"Sir"を"卿"と翻訳しているケースがあるが、卿は男爵位以上の貴族につける"Lord"の訳語として定着しており、妥当ではない(Sirの称号の人は貴族ではないので混乱を招く)。訳語はないので、そのままサー・クライブ・アルダートンが良いと思う。

 

日本は公務員なので一概に比較できないけれども、日本だと特別職の宮内庁長官が年収約2,797万円、侍従長約2,385万円となっている。為替レートの問題もあるが、それにしても日本の給料は安い。

 

その他、英国の高位役職の給料をみてみると次のとおりである(LINK)。

・ロンドン警視庁警視総監:28万489ポンド(約3702万円)

・ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン学長:37万6190ポンド(約4965万円)

・公正取引局最高責任者:27万7500ポンド(約3663万円)

 

日本で相当する役職者は次のとおりである(LINK)。

警視庁警視総監:約2313万

東京大学総長:約2405万円

公正取引委員会委員長:約2,797万円

 

為替レートの問題もあるが、だいたい1000万円程度安い。そうというのも先進国では年収があがっていないので当たり前である。名目賃金では無残に一人負けである。

出典:厚労省「令和4年版 労働経済の分析 -労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進に向けた課題-」

 

日本は解雇規制が強いために整理解雇ができず、余剰人員を抱え込まざるを得ず、新規事業への投資などが機動的に行えない。専門性が高い人材も、その専門性が陳腐化した際に解雇できないので、専門性が高い人材ではなく、日本企業ではゼネラリストが重宝される。そのため大学院を出て専門性を身に着けるメリットもないので、日本は大学院卒が先進国の中では少なくなっている(人口100万人あたり修士号取得者数は英米仏などの3分の1未満である)。社内は解雇されず年功序列なので頑張っても給料に反映されないので、スキルや労働生産性を高めるメリットに乏しく、だったらダラダラと働いて残業代で稼いだ方が割がいい。結果的になんのスキルもない、何の意見もなく会社にひたすらにしがみつく働かない無能な正社員が量産される。最近おまけにパワハラなどのコンプラ意識も強いので、何の指導もされない若手も多い。日本企業は構造的に無能を量産するよくできた装置である。日本社会はぬるま湯な社会だが、犯罪比率も低いし、給料も安いが物価も安いので暮らしやすいし、食事は美味しく、国内は北国から南国まであり風光明媚な場所も多い。

 

日本衰退論は根強いし、実際、衰退しているが、特にラディカルに何か変化を興そうという社会的な機運は無い。このままユーラシア大陸の隅っこの平和でそこそこ豊かな島国に甘んじるのもそれはそれでありなのではないかと思う。あまり報道されてないが、フランスでは検問中の警官が17歳の少年を射殺した事件がきっかけに暴動が起きている。過激な抗議はフランス文化だが、大人しく衰弱していくのが日本文化なのかもしれない。