2012年1月9日、愛知県美浜町の戸塚ヨットスクール前の路上に男性が頭から血を流して倒れているのをスクール訓練生が見つけた。男性は広島県出身の訓練生(21歳)で外傷性肺損傷による出血性ショックのため死亡したそうだ。

戸塚ヨットスクールとはひきこもりやニートなどを更生させる目的のスクール。1970年代末から1980年代にかけて、スパルタ式と呼ばれる独自の指導により、不登校や家庭内暴力などの数多くの非行少年を矯正させたという宣伝でマスメディアに登場。体罰を容認していることから賛否両論をよんだ。しかし、自殺などが相次ぎ校長の戸塚宏は傷害致死罪で起訴され懲役6年を受刑。2006年に刑務所を出所後に再びヨットスクールの校長をつとめている。

「不登校」「ニート」の矯正ときくと良心的なイメージだが、なんと入校金315万・生活費毎月11万(年間132万)・預かり金20万、とかなり高額だ。公式HPに戸塚氏の主張が載っている。主張をまとめてみると、まず、非行や無気力などの子供の異常行動は、脳の機能低下が原因とし、特に脳幹の機能の衰えが原因だそうだ。ヨットやウインドサーフィンをやり、脳のトレーニングを行い、更生させるそうだ。なんと、アトピーや喘息・登校拒否・癌なども、脳幹を鍛えることによって克服できるらしい。もちろん、同HPには科学的・医学的根拠は示されていない(こういうのを「疑似科学」というのでは)。公開されている戸塚氏の論文(という名の作文)には「仏教と儒教は"科学"」「非科学的な西洋的精神論」など西欧批判と東洋賛美が目につく。戸塚氏の主張で特徴的なのが、自分の主張は科学的であり、戦後民主主義や日本のインテリ派の主張は非科学的だという主張である(なお彼の科学の理解は初歩的なもので100年ほど前に論理実証主義によって論破されている)。また欧米で発達した哲学・心理学を非科学的だと批判する一方で、仏教・儒教は科学だから正しいと主張する。それらの理由もいまいち判然としない。要するに彼の主張は「支離滅裂」以外の何ものでもない。ここまでくると宗教の域だろう。ただの体罰論者かと思っていたが、ここまで宗教的な発想をしているとは思わなかった。

それにしても、疑問なのが、
・戸塚ヨットスクールでは何人中何人が社会復帰に成功したのか
・社会復帰をしてその後、適切な社会生活を営めているのか
という点。更生の実績が不明確なままマスコミに煽られて世に出てしまった感は否めない。下記のように自殺者は多い。
・1979年 少年(当時13歳)が死亡
・1980年 青年(当時21歳)が死亡
・1982年 少年2名(当時15歳)が船から海に飛び込み行方不明
・1982年 少年(当時13歳)が死亡
・2006年 訓練生の25歳男性が逃走、水死体で発見
・2009年 訓練生の女性が寮3階より飛び降り死亡
・2011年 訓練生の男性が寮3階より飛び降り自殺未遂
・2012年 訓練生の男性が飛び降り死亡
※現在は十数名がスクールに在校(現在は体罰は行っていないらしい)

おかしな新興宗教に入って救われたとかいう人もいるぐらいだから、当該スクールの有用性は人によって評価は様々だろう。だが、ちょっと異常性を感じてしまうのは私だけだろうか。「鰯の頭も信心から」、信じたければこの異常なスクールの正しさを信じれば良い。私はただこのヨットスクールに通い、生きるのに苦しくなって自殺された方に同情するとともに、ご冥福を祈るばかりだ。