『ヴァンデミエールの翼』の解説の最期の部、始めるよ。

とっとと自分の出来る仕事を終わらせてしまうことにする。

仕事ゆうても、誰も求めてないし、誰も望んでないし、誰からも必要とされていないのだけれど、もし必要になった時にその手掛かりになればと思って書いている。

僕が如き矮小な存在が、それでも在らんとするとしたらこのようなものを残すということが出てくる。

まぁいいや。

ヴァンデの解説をするのだけれど、殆ど解説することなんて残っちゃないんだよなぁ。

だから、あんまりこの記事自体は大したそれにならないだろうけれど、まぁ解説してきたのだから最後までやってしまうことにする。

今回は、「ヴァンデミエールの黒翼」からですね。


(鬼頭莫宏『ヴァンデミエールの翼』2巻p.45)

このヴァンデミールのお話。

いや、その前に一つ二つ忘れないうちに書いてしまうことにする。

一つは、火宅について。

(1巻p.28)

この火宅なんだけれど、画像左下に書いてある通り、仏教用語。

で、最近仏教の事ちょいちょいやってるから、この火宅について理解するところがあった。

出典は『法華経』。

日蓮宗の経文ですね。

読んでないけど。

火宅ってなんなのかって話だけれど、たとえ話で出てくる。

法華経は七つの有名な比喩が出てきて、それぞれなんだかよく分かんない説話なんだけれど、実は全部釈迦の教えの事であるということらしい。

で、火宅はその七つの逸話の一つ目のそれで、火事があったけど中で子供が遊んであるから助けるために嘘教えて家から出したという逸話。

Wikipediaにも書いてある。(法華七喩)

まぁ、分かりやすく説明すると、実は僕らが暮している世界は燃え盛る炎の中の苦しみなんだけれど、中の人たちは気づいてないからお釈迦様が嘘ついてそこから出してくれますよというお話。

で、ヴァンデはあの後、レイがこの世界の愛欲を捨てて、ヴァンデミエールに人生を捧げたから、ある意味では火宅から解き放たれている。

仏教的には欲望があるから世界は苦痛だからね。

ただ、火宅の語が使われたのはヴァンデに対してだし、鬼頭先生が実際『法華経』の内容までご存じだったかは僕は知らない。

まぁ、そういう意味がありますよ程度です。

次。

ニヴォゼについて。

(2巻p.120)

ニヴォゼって何だよってずっと思っていたのだけれど、フランス革命歴で12月がニヴォーズらしい。

表記のずれでニヴォーズだったりニヴォーゼだったりするから、そういうことだと思う。

ちなみに雪月という意味らしい。

ニヴォゼは12月に生まれたからなのか、それともあの石造りの子宮の中の出来事が出産だから雪月なのかは分からない。

判断する材料がないからね。

以上。

忘れないうちに書いておかなきゃ、っていうか今回でヴァンデの解説は最後だから、多少はね?

忘れ物に贖ったので、さっさと『ヴァンデミエールの黒翼』の解説を始めることにする。


(同上)

この話は『ブリュメールの悪戯』で逃げ出した悪魔のヴァンデの話になる。

逃げ出したのは良いけれど、人買いに捕まる。

捕まった後、63が作った翼を取り付けられる。

(2巻p.132)

(2巻p.49)

その翼を付けたヴァンデミエールが、旦那様に買われる。

買った人は軍人だろうけれど、詳しいことは分からない。

で、そのヴァンデが飛行船に乗り込む前に、エイバリーが彼女のその翼を見て惹かれて密航する。

密航して捕まったわけだけれど、ヴァンデミエールが哀れと思って身請けを希う。

結果、その場では助かったけれど、ヴァンデミエールを助け出そうとして失敗して、飛行船から飛び降りることになって、それを追う形でヴァンデミエールも飛び出して、瞬間、飛行船が真っ二つに割れて爆発する。

墜ちた後に、ブリュメールと名乗っていたヴァンデミエールが本当の名前を伝えて、上半身だけになったヴァンデミエールを背にして、エイバリーが歩き出して終わり。

そういう話。

解説するところがねぇな?

ただ一つだけ、この両名ともに他人の名前を騙っている。

(2巻p.53 p.76)

(2巻pp.86-87)

エイバリーは幼い頃に町で見た飛行機乗りであるウィルに憧れた。

(2巻pp.59-60)

そしてその名前を名乗ることにした。

一方でヴァンデミエールの方も、ブリュメールの名前を使っている。

ヴァンデミエールの方も、ブリュメールに憧れたと言っている。

二人とも憧れた人が居て、その人のようになりたくて、その人の名前を名乗っている。

似たもの同士ということですね。

その旨は一応、本編でも言及されている。

(2巻p.69)

最期のコマね。

この物語は憧れた誰か、理想の自分をタテに反発していた二人が、お互いの本当の部分を見せることで、本当の彼女と本当の彼に惹かれる話。

ヴァンデの方は分からないけれど、エイバリーは強がっていたブリュメールがふと素のヴァンデミエールを見せた瞬間に完全に惚れた御様子。



(2巻pp.68-70)

「これ以上 虐めないで」はキャスカの「見ないで…」に通じるものがありますね…。

男の嗜虐心をくすぐりそうだと思った(小並)。

そうして自分の内側をお互いに見せ合って、そのいびつさをお互いに補いながら歩き始めてこのエピソードは終わり。

で、この後エイバリーは飛行機を開発する。

(2巻p.137)

この飛行機の頭の部分に、見てみるとヴァンデミエールとエイバリーの名がアルファベットで書いてあるって解説サイトに書いてあった。

どっかで読んだのだけれど、わざわざ僕がそれを知ったサイトを探し出す努力に対して、見返りが一切存在しないのでリンクは探さない。

そういう風に一応、全部の話は繋がっている。

(1巻p.3, 2巻p.3)

1話のヴァンデの右手はテルミドールの時間に繋がっていて、最終話はそのヴァンデが主人公。

1話→3話→8話。

2話のヴァンデの白翼は黒翼に繋がっていて、黒翼は最終話で飛行機に繋がる。

2話→5話→8話。

4話の木のヴァンデは一番多くエピソードに関わりを持っている。黒翼にもつながるし、8話に直接ニヴォゼの子供が出てくる。

4話→7話→6話→8話。
      →8話。

5話の悪魔のヴァンデはこの記事に書いた通りだけれど、最終話にもつながっている。

5話→6話→8話。

最終的にどのエピソードも8話に繋がるんですよね。

まぁ、冒頭に飛行機が飛んでるだけで繋がりっていうのも変な話だけれど、最後の方でヴァンデミエールがエイバリーの飛行機の黒翼の力強さを見るから、上手く説明できないけれど情緒的な面ではしっかり繋がっている。

あと、あんまり必要がない説明だとは思うけれど、最終話に出てくる男性はニヴォゼの子供です。

(2巻p.136,p.146)

普通に考えてこのわっかだけでその赤ん坊の子供が彼だとは言えないのだけれど、物語を考えるならそうであると判断するしかない。

普通に、ニヴォゼは女の子だし、ニヴォゼの母親の髪とこの男性の髪の色は同じだからそういう話と考えて問題がない。

(2巻p.107)

最終話なんだけれど、ニヴォゼが育ての親である63から胴人形の母親の存在を聞いて、その後ニヴォゼ本人かその息子にあたる人が胴人形に興味を持って調べて、結果レイという人形の右手を持つ老人に出会うことになった。

レイはヴァンデミエールの所在も知っていたのだけれど、時の流れの無常さを前に、会うことをしなかった。

(2巻p.147)

最期のコマで子供が窓の外に居るのがポイント。

相変わらず芸が細かいな。

でも、死んでしまったなら胴人形と同じように永遠の時間の内に存在するからと言ってヴァンデミエールはレイの死体に会いに行く。

そして、


(2巻pp.152-156)

死体となんかしたらしい。

何したんでしょうね。

死んだら海綿体には血は通わないと思うのだけれど。

そうして翌日、ヴァンデミエールは髪を切ってレイの服とバイクを拝借して、レイの家に火をつけて火葬して何処かへと走り出す。



(2巻pp.161-164)

この話では内なる世界とか外なる世界とか言っているけれど、外なる世界はキリスト教的道義の話になる。

ヴァンデミエールの翼全体でもその話が結構あったし、実際問題キリスト教は外からの規律になる。

そして、その外からの規律が役に立たないと分かったから、人は内に答えを求め問うという話。

(2巻pp.145-146)

誰かに似せて作られたとか言っているけれど、キリスト教だと人間は神に似せて作られた。

けれどもそんなのは盲信だから、誰かに何か言われなくても自分で行動できる。

そういうことがあっての最後の旅立ちだと思う。

あと、些細な事で考察になってしまうのだけれど、「外に規範を求める限り 喪失感は埋まりません」って言っているけれど、これは多分鬼頭先生の感傷ですね…。

一時期、キルケゴールがそうしたように、神に縋ろうとしたんだろうなぁとは思う。

けれども、神様は僕らに無関心だから、鬱々とした気持ちは晴れなかった。

鬼頭先生の神への言及の仕方を考えると、そういうことがあったと想定できてしまう。

しかし、神はまやかしなので、人は、そして胴人形たちは、神の力なしで滑走を始めることになった。

という『ヴァンデミエールの翼』の解説。

以上です。