ある猫の告白 |  ジルコニア

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イラストやら漫画やら小説をまったりと載せていくつもりです。

ごゆるりとお過ごし下さいませ

天霧ありすですキャハハ

久しぶりにテーマ小説を更新いたしました。

テーマは「靴下」ですおんぷ






ある猫の告白


 私はある女の子の家で飼われているしがない猫です。特に取り柄はありません。唯一自慢できるところといえば、ほかの猫より少しだけ耳が長いということでしょうか。とりあえずそんなものです。
 今日はこの間のお礼に少し立ち寄りました。突然来てしまって申し訳ない。多分あなたはこんな平凡な猫のことなんて忘れているでしょうね。けれどあの時私はあなたに感動と寂しさを覚え、また会いたいと切望していたのです。
 それはこの間私がいつものように家から家へといつもの散歩をしていたときのことです。その日は晴れていて気持ちのいい日でしたので、人間たちは傘も持たずに楽しそうに歩いていたのです。私もつい浮かれ気分になり、お天道様などちっとも気にしていませんでした。
 ところが何かがお天道様の気に障ったのでしょうか、急に雨が降ってきたのです。人間たちは大あわてで近くの喫茶店やコンビニに一目散に駆けだしていきました。私も予想外の出来事だったので、日課の公園での昼寝を取りやめて雨宿りをすることにしました。人間は全く羨ましい。傘という素晴らしいものがあるのだから。私は冷えた体を震わせながら草むらの中に隠れていました。
 するとあなたが真っ黒い傘をさしながら、こちらにやって来たのです。私は逃げようか逃げまいか少し迷いました。猫ならば猫らしく逃げるのが妥当ですが、濡れるのが億劫な私はそのまま隠れていました。あなたは私を見つけて赤い目を少し細めて笑いました。その寂しげな笑いが私の興味をそそりました。なぜあなたはそんな顔をしているのか、と。私が寄り添っていくとあなたは私を二三度なぜて、それからぎゅっと抱きしめました。
「猫はいいよなぁ。気ままで自由で」
(そんなに猫だって暇な訳じゃありません。私たちだって結構忙しいんですよ。朝の集会には必ず出席しなきゃいけないし、散歩も必須なんですから)
「ぽつぽつぽつぽつ煩いな、雨」
(私はあなたがぶつぶつ言っていることが煩いです)
「……押しつぶされそうだよ、ほんと」
(?)
 私が首を傾げながらあなたを見ていると、あなたは鞄の中から新しそうな靴下を取り出して、私の体を拭き始めた。私は驚いて「なにするんだ」とばかりに鳴きました。
「すまないな、僕はハンカチをいつも持ってないんだ。たまたま今日の天気予報を見て、予備としてこれを持ってきたのさ。な、これで我慢してくれよ。一応新しいものなんだから」
 新しいものなのだったら、なぜ私なんかを拭くのに使うのか疑問でした。あなたは私を一通り拭き終わると、その汚れた靴下を捨てに行こうとしました。私はあわててあなたの後を追いました。あなたのその真意が知りたかったのです。
 するとあなたは立ち止まって私を抱き上げました。
(なにするんですか、急に)
「靴下はさ、二足あって初めて一組なんだ」
(当たり前じゃないですか、人は二本の足で立っているのですから)
「片方が無くなったら、もう意味が無くなる。僕はその片方を無くしてしまったんだ」
 雨があなたの傘をつたって、肩を濡らしました。寒さのせいでしょうか、あなたの肩がかすかに震えるのを私は抱きしめられながら感じていました。
「センターが終わって、次は二次試験か。重いな」
 私はあなたを労るようにやさしく鳴きました。私には解りました。あなたは今人間世界の現実に直面して、その重圧に押しつぶされそうなのでしょう。でも戦わなければいけないから、必死にもがいている。そのために何かを捨てようとしている。
「ごめん、香田さん」
 雨が小降りになり、あなたは私をゆっくりと地面におろしました。私が見上げると、あなたはもう傘をたたんでいました。ぽつぽつと雨が頬に当たって、顎につたっています。でもあなたの目はもう赤くはない。私は安心したような、少し寂しいような感じを受けました。そして靴下を握りしめたまま、あなたは行ってしまったのです。

 まだあの靴下は持っていますか。実はこの間私が学校の中庭を散歩しているときに、もう片方を見つけました。今日はそれを持ってきました。お節介を焼く猫だとあなたは思うかもしれませんね。でもそれが私なんです。だって気ままな猫ですから。
 無くしたものなら、探せばいいんです。大切なのは探そうとする心。
 ほら、これで靴下の完成です。



なかなか「靴下」というお題に沿った小説を書くのが難しくて、

苦戦していました354354

気に入っていただけると幸いですあひる



セイさん、次のテーマは「星」でお願いします好