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無難に終えた日米首脳会談〜石破総理とトランプ大統領〜




 ワシントンで行われた日米首脳会談は、まあまあ無難に終わった。石破総理とトランプ大統領が向き合い、日米関係の「新たな黄金時代」なんてものを宣言しつつ、貿易や安全保障について語り合ったらしい。要するに、日本はアメリカにガッツリ投資し、AIや半導体を開発し、エネルギー安全保障を強化し、トヨタやいすゞが工場を建て、日米同盟の抑止力と対処力を高める——という話だ。


 話の内容だけ聞けば、かなりまともだ。少なくとも「今日から日米は敵同士である!」みたいな大惨事にはならなかったわけで、これは石破総理の手柄と言っていいだろう。首脳会談というものは、一歩間違えれば「歴史的失敗」とか「外交の敗北」なんて言われることもある。そう考えれば、今回の石破総理は、まずまずの滑り出しを見せたと言える。


 しかし、問題はトランプ大統領である。安倍元総理の話が冒頭で出たものの、あくまで形式的なもので終わった。正直、もう少し深い話になるかと思っていたのだが、そんな気配はなかった。「安倍は偉大だった」とか「日本にとって大きな損失だ」とか、もう少しドラマチックなことを言うのかと思いきや、さらっと流してしまった。トランプ大統領は、かつて「シンゾー! シンゾー!」と親しげに呼んでいたのだから、もう少し熱く語ってくれてもよかったのではないか。


 そして、極めつけはツーショット写真の撮影時である。トランプ大統領が石破総理を「ハンサム」と評したというのだ。これを聞いた瞬間、私は思わずコーヒーを吹き出しそうになった。ハンサム? 石破総理が? いや、もちろん美醜の基準は人それぞれだ。しかし、トランプ大統領がそんなことを言うと、どうにも嫌味に聞こえてしまう。たとえば、「君のスピーチは実にエレガントだったね」と言われれば、それが遠回しに「話が長かった」とか「回りくどかった」とかいう皮肉に聞こえてしまうように、「ハンサム」というのも、どこか含みのある言葉に感じられるのだ。


「お世辞」というのは、たいていの場合、言わなくても済む場面で使われるものだ。たとえば、「君のネクタイ、素敵だね」とか「そのメガネ、知的に見えるね」とか。こういうお世辞は、本人が気にしているかもしれないポイントをあえて褒めることで、場を和ませる効果がある。しかし、「ハンサム」はどうだろうか。突然「ハンサム」と言われると、「あれ? 俺ってハンサムだったっけ?」と、むしろ不安になるのではないか。


 そんなわけで、今回の首脳会談は、全体として無難に終わったものの、ところどころ奇妙な余韻を残した。石破総理の風体やマナーを心配していたが、思ったより堂々としていたのはよかった。だが、トランプ大統領の発言には、もう少し深みが欲しかった。特に、あの「ハンサム発言」は、後世の歴史家たちがどう評価するのか、今から気になって仕方がない。


陰謀論とトランプと「無難」な世界


 陰謀論というものは、いつの時代も存在する。ローマ帝国の崩壊にしても、ケネディ暗殺にしても、9.11にしても、誰かが「裏に何かがある」と囁き始める。そして気がつけば、その「何か」は、まるで神話のように語られ、広がり、時には歴史の一部になってしまう。


 2020年のアメリカ大統領選もそうだった。トランプがリードしていたはずなのに、ある瞬間を境にバイデン票がグンと跳ね上がる——これが「バイデンジャンプ」だ。「不正があったのではないか?」そんな疑念があちこちで飛び交い、トランプ支持者の間では、もはや「不正があった」は前提になってしまった。


 そして、このあたりから陰謀論が加速する。トランプは「光の戦士」だとか、「ディープステート」と戦っているとか、果ては「Qアノン」という一大ムーブメントまで生まれる。こうなると、もはや政治の話ではなく、宗教に近い。トランプは救世主、バイデンは悪魔、我々は目覚めねばならない——そんな世界観が完成してしまった。


 そして迎えた、安倍元総理の銃撃事件。


 この事件についても、すぐに陰謀論が広まった。「単独犯のはずがない」「スナイパーがいた」「背後に何か巨大な力がある」——こういう話がSNSで飛び交った。しかし、私は「スナイパー説」にはどうにも違和感を覚えた。


 確かに、「この事件には何か裏がある」という直感は多くの人が抱いただろう。しかし、それがあっという間に「スナイパー説」に収束していくのが不気味だった。本来ならば、「誰が指示したのか」「なぜ安倍元総理が狙われたのか」という点こそ掘り下げるべきなのに、いつの間にか「屋上に黒い影がいた」とか「不審な男が逃げていた」といった話ばかりになってしまう。まるで「陰謀論」というより「都市伝説」だった。


 そして今、トランプは再び大統領になった。陰謀論者の目には、彼はどう映っているのだろうか。かつては「影の支配者」と戦う英雄とされたトランプだが、石破総理との首脳会談を見ている限り、特に革命的なことをする気配はない。ただ淡々と、無難に、大統領の職務をこなしている。


 いや、むしろ「無難にこなしている」というのが問題なのだ。


 トランプはケネディ暗殺事件の機密を解除すると言っていた。それならば、安倍元総理の事件についても何か知っているのではないか? かつて「彼らが殺害した」とまで言ったトランプが、今は何も語らずにいる。


あれほど陰謀論者を熱狂させた男が、いまや「無難」な大統領になってしまった。


 もしこのまま、特に何も起こらず、彼が大統領の任期を全うしたなら——それこそ最大の陰謀ではないだろうか。

 

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