
女子挺身隊として、知覧特攻基地内で奉仕作業をしていた鶴田一枝(左端・中越典子)は、女性たちに突然
「みんなで中西さん(特攻隊員)たちのために血書しましょう!」
と言い出します。

その後言い出しっぺの鶴田一枝が、イケメンの中西特攻隊員を好きだったことが発覚するのですが、なんかこの血書の提案は自分本位な気がしました。
彼女は中西隊員へ好意を抱いているから血書をしたかったのであって、それをカモフラージュするために、他の女性全員にまで血書をしろと迫って、指を切らせようとするのはいかがなものか?
これが例えば既婚男性の特攻隊員相手だったら、こんな血書の提案をしただろうかと疑問に思ってしまいます。
対してトメさんが偉かったのは、えこひいきせず、誰にでも親切に接した人柄でしょう。
さらに世間一般の価値観に惑わされず、戦中・戦後も特攻隊員を擁護する立場で自分の信念を貫いたことですね。戦中は特攻隊員を英霊だともてはやしていた人たちも、戦後は彼らを社会のクズのように罵り始めましたから。
特攻途中で飛行機から放り出され、米軍捕虜となった中西少尉は、戦後復員して鶴田一枝と結婚します。しかし中西は荒れて飲んだくれとなり、いわゆる「特攻崩れ」となります。
やがて妻に隠れて菜の花畑で酒を飲んだりして離婚寸前となりますが、何とか持ちこたえます。この話は実話なのでしょうか?
実話だとしたら、やっぱりこういう関係にも、お互いの性格がさりげなく反映しているのかもしれないと思った一幕でした。
こちらは実在した河合惣一軍曹(右)の実話です(実名は宮川三郎軍曹)。富屋食堂の裏庭で、トメ(左)との特攻前の最後の会話。
河合「俺の故郷はホタルが名物でさ、だから俺、ホタルになってまたここへ戻って来るよ」
「ホタルになって帰って来る」と出撃していった実際の宮川三郎軍曹(1925-1945、享年20歳)。
そして河合軍曹が特攻で戦死した後、本当に富屋食堂の裏庭に、ホタルが一匹現れました。
これは一同がそのホタルを見つめる場面。
ホタルにはこの後にも逸話があります。これは映画にはありませんが、トメさんが亡くなった直後、4月という季節外れなのに、ホタルが棺の傍を通り過ぎて行ったそうです。
戦後、トメの働きかけで建立された特攻平和観音堂へ参拝する、車いすのトメと、特攻隊の生き残り・中西元少尉。
このような演出を感動したという人もいますが、私自身は物語全体がフィクションのように嘘っぽく見えてしまうため、あまり好きな手法ではありません。
中西元少尉のほかにも、思いもかけず生き残ってしまい、特攻崩れとして恥じながら、無人島でひっそり生きる元特攻隊員が登場します。
高齢者で戦争に参加した方の中にも、話をお聞きすると「生き残ってしまい恥ずかしい」という意識を依然として持ちながら、生きておられる方もいらっしゃるようです。
これは映画の冒頭に出てくる文言なのですが、表現に美化が入っていてちょっといただけないです。保守派ではやたら「美しい何々」と発言する人がいますが、感情を基盤に語る人が多いということなのでしょうか。
「美しい」というのは石原氏の主観的表現であって、誰が見ても美しいと感じるわけではないですから。
鳥濱トメ(中央)と特攻隊員たち(実物)
キーワード:陸軍、特攻隊、知覧、富屋食堂、昭和20年、鳥濱トメ、「隼」、光山文博少尉、宮川三郎軍曹、大西瀧二郎