先日、あるお客様宅の調律にお伺いしました。
現在に至るピアノのいきさつをお話します。
ある日このお客様から調律依頼の連絡がありました。
伺ってみるとカワイのアップライトピアノでKU-1D昭和48年製でした。
その時でもう40年近く経っているピアノです。
元々楽器店の調律師が毎年に来ているそうなのですが、部品の破損もあり買い替えを勧められていました。確かに高音部のハンマーの1部がパンクしていて破損、また部品の経年劣化があります。
しかし、熱心に買い替えを勧められるも、本当にピアノが駄目で勧めているのか、また営業ノルマ的な事で勧めているのか見分けられず、それで「シオンピアノさんはどう思いますか?」と意見を求めてられました。
セカンドオピニオンですね。(うちはこういうケースが多いです。)
私もお客様に色々お聞きします。するとピアノを弾く方は奥様で、現在もレッスンについています。つまりこれからもまだまだピアノを使っていきたい事がわかります。
ピアノは30年も経つと使えはしますが、部品の経年劣化が始まり楽器の魅力はどんどん下降していきます。
つまりそろそろこのピアノに何かしらの決断が必要になります。
お金をかけず騙し騙し使う選択もありますが、今回これは適していません。なぜならお客様はもっと良い結果になるピアノ望んでいるからです。
大きく分けて2つ。買い替えるかオーバーホールするかです。
買い替えは新品または今より程度の良い中古ピアノにすることです。
オーバーホールはこのカワイのピアノのボディを生かし解体して劣化した弦、ハンマーなどを新品に交換して各部品を確認調整して、また1から組み上げて仕上げる事です。
このピアノの特性や質、予算など説明して、「うちは買い替えでも、思い出深いならオーバーホールでもどちらでもいいですよ。」と申し上げました。
お客様は検討の末、オーバーホールを選択しました。私がどうしてですか?とお聞きすると、
「親が自分に机やランドセルなどいろいろ買ってくれて成長とともに処分してしまうけれど、このピアノは自分の親が買ってくれた唯一残っているものだし、妹と長椅子に座って一緒に弾いた思い出もあるので、このピアノが良くなるならオーバーホールにしたい」との事でした。
お客様にとってメーカーとか新しさではなく、想い出深いこのピアノをオーバーホールする事が良い選択という結果に至りました。
そして仕上がったのが写真のピアノです。弦はドイツ製、巻線は職人による手巻き巻線です。ハンマーもドイツ製のものにし、眠っているピアノの能力を引き出して調整しました。
納品時にお客様もここまで良くなるなんて!と興奮していたの覚えています。こんなの素晴らしくなるなら前の状態のピアノを動画で撮っておけば良かったと後悔していたほどです。
技術の前に大事な事。
ピアノが壊れているから買い替える、ピアノがあるから技術を披露するではなく、ピアノを通して人が幸せになるために何を選択するか、シオンピアノが作業の前に大切にしている事です。
*買い替えを否定している訳ではありません。
またの機会に買い替えに至ったあるお客様のいきさつををお話したいと思います。